【今日のまとめ】

  • 米国の鉄道会社は貨物が中心
  • ユニオン・パシフィックの営業キャッシュフロー・マージンは高い
  • CSXは石炭の落ち込みに苦しんでいるが他のビジネスは堅調
  • ノーフォーク・サザンは複合輸送に強い
  • カナディアン・パシフィック鉄道は運行の効率化に努めている
  • カンザスシティ・サザンはNAFTAに左右されやすい

鉄道セクター

今日はアメリカの鉄道セクターについて書きます。

アメリカの鉄道会社は貨物輸送を主業務としており、旅客の輸送は殆ど行っていません。貨物の積荷の内容は、穀物などの農産物、プラスチックなどの化学製品、石炭、鉱物、原油、自動車部品ならびに完成した新車、コンテナなどになります。

輸送量は景気に左右されます。貨物がどれだけ活発に動いているか調べることにより、景気の実態を知ることができます。

鉄道会社は固定費が高く、どれだけ手持ちの機関車や貨車を遊ばせることなく稼働率を高めるかが重要になります。

鉄道会社によって路線網には違いがあり、積荷は土地柄を反映します。例えばアパラチア山脈の近くでは石炭が採れるため、おのずと鉄道会社の貨物は石炭の比率が高くなります。

このため鉄道株の業績を占う際は各社の積荷の売上構成をまず調べ、それぞれの産業の見通しの予想を立てることが必要になります。

鉄道会社は各社とも営業費用の圧縮に努めています。下はその営業費用比率(Class One Operating Ratio)です。

この比率は低ければ低いほど良いです。

過去3年の鉄道会社の業績は、どこも苦しかったです。その理由としてシェール・ガスの増産により天然ガス価格が低迷した結果、石炭より安くなり、鉄道会社の重要品目である石炭の荷動きが鈍ったことが挙げられます。

そのほか化学製品やエネルギー関連の積荷も低調でした。

今年は石炭の前年比較が容易なので、ようやく3年越しの下降トレンドが上昇に転じると期待されています。

ユニオン・パシフィック

ユニオン・パシフィック(ティッカーシンボル:UNP)は1969年創業の北米最大級の鉄道会社で、アメリカ西部を中心とした23州で鉄道を運行しています。本社はネブラスカ州オマハにあります。

同社は農産物(売上高の19%)、自動車(11%)、化学(19%)、石炭(13%)、工業製品(18%)、複合輸送(20%)などを扱っています。

荷主の数は約1万顧客です。ルートの総延長は3万2千マイルで、シカゴからニュー・オルリンズを縦に結んだ線より以西にそれらのルートは位置しています。同社の主な競合相手はバーリントン・ノーザン・サンタフェ(BNSF)です。

主な操車場はネブラスカ州ノース・プラット、アーカンソー州ノース・リトルロック、テキサス州イングルウッド、テキサス州フォートワース、ルイジアナ州リボニア、イリノイ州プロビソ、カリフォルニア州ローズビルなどにあります。

機関車の数は8,500台で、そのうち2,000台はリースです。貨車は65,000台、複合輸送向けコンテナは55,000本、シャーシは45,000台です。

足元の業績ですが、過去2年は石炭の落ち込み、シェール業界の活動縮小によるフラッキング・サンドの運搬の減少、複合輸送の低迷といった理由で、じり貧でした。

しかし、今後の見通しには明るさが見えています。具体的には、石炭は前年比較が容易です。農業部門は輸出が好調です。シェールのリグ活動が再加速しているのでフラッキング・サンドの消費も増えています。同社の場合、パーミアン・ベイスンに鉄道網があるので同地域でのシェール開発の活発化の恩恵を受けます。

自動車はメキシコとアメリカの間で部品ならびに完成品をやりとりしている関係で、貿易戦争が起きてメキシコとの貿易量が減ると同社に痛手となります。

同社は営業キャッシュフロー・マージンが37.7%と極めて高いです。

【略号の読み方】
DPS 一株当たり配当
EPS 一株当たり利益
CFPS 一株当たり営業キャッシュフロー
SPS 一株当たり利益

CSX

CSX(ティッカーシンボル:CSX)のルーツは1827年に創業されたボルチモア&オハイオ鉄道にさかのぼります。その後、数回の合併により現在のCSXが出来上がりました。

CSXの本社はフロリダ州ジャクソンビルです。

同社はミシシッピ川以東の23州で事業展開しています。ルートの総延長は2万1千マイルです。

機関車の数は4,400台、貨車は65,000台、コンテナは18,000本保有しています。

同社は下のチャートにあるような積荷を扱っています。

このうち自動車はSUVの生産が高水準だったため好調でした。石炭はシェール・ガスに駆逐されつつあるので低調でした。

同社の場合、アパラチア山脈の石炭産業への依存度が高いので、それが大きな懸念材料となっています。しかしそれ以外のビジネスはしっかりしています。

ノーフォーク・サザン

ノーフォーク・サザン(ティッカーシンボル:NSC)は1980年に創業された、東海岸を中心とする鉄道会社です。本社はバージニア州ノーフォークです。

ルートの総延長は1万9千5百マイルで、22州にて運行しています。

機関車の数は4,200台、貨車は63,000台、コンテナは19,000本です。

同社は以下のような商品を扱っています。複合輸送の比率が高い点が特徴です。

長距離トラックの運転手が不足すると運送会社は鉄道に切り替えるので、長距離トラック市場と複合輸送は密接に関係しています。

また同社の場合もアパラチア山脈などの石炭を産出する地方に鉄道網がある関係で石炭比率が高いです。

天然ガス価格が上昇すると電力会社は天然ガスから石炭に燃料を切り替えます。

カナディアン・パシフィック鉄道

カナディアン・パシフィック鉄道(ティッカーシンボル:CP)は1881年に創業されたカナダ第2位の鉄道会社で、本社はアルバータ州カルガリーにあります。

同社のルートの総延長は1万2千マイルで、カナダとアメリカに鉄道網を持っています。

同社は機関車1,400台、貨車2万台を保有しています。

カナダ国内では、バンクーバーを起点としカルガリー、ウィニペグ、サンダー・ベイ、トロントを経由しモントリオールまで行く大陸横断ルートを持っています。

カナディアン・パシフィック鉄道のルートは、ライバルのルートより南、すなわち米国との国境に近い場所を走っており、その関係で米国向け積荷は、短い距離を、短縮された時間で届けることが出来ます。

カナディアン・パシフィック鉄道はカナダから米国へ延びるルートも持っています。具体的にはカナダのレジーナならびにウィニペグから米国のミネアポリスを経由し、シカゴ、さらにはカンザスシティまで延びるルートで運行しています。またトロントからはデトロイトならびにバッファローへ、モントリオールからはニューヨーク州アルバニーへと延びるルートを持っています。

同社は下のような貨物を運搬しています。

同社は貨車がターミナルで待機している時間を圧縮(2015年の7.2時間から2016年は6.7時間へ)すると同時に貨車を沢山連結することで長さを増す(2015年の6,935フィートから2016年は7,217フィートへ)、さらに速度を上げる(2015年は時速21.4マイルから2016年は時速23.5マイルへ)などの手法により効率をUPしています。

カンザスシティ・サザン

カンザスシティ・サザン(ティッカーシンボル:KSU)はルート総延長3,400マイルで、カンザスシティからニュー・オルリンズに抜けるルートの他、ミズーリ州、アラバマ州、テキサス州などをカバーしています。さらにメキシコを縦断するルートも持っています。

機関車923台、貨車1万4千台を保有しています。

同社の積荷は、下のチャートのようになっています。

農業部門は豊作による輸送量の増加で増収でした。複合輸送はメキシコ・ペソ安で減収でした。メキシコの石油会社、ペメックスはカンザスシティ・サザンの大口顧客の一社ですが、業績不振で貨物が減っています。

同社は1993年に調印された北米自由貿易協定(NAFTA)で最も恩恵をこうむった鉄道会社だと言えます。メキシコは米国産とうもろこし、大豆、鶏肉、豚肉の重要な輸出先です。

また米国の自動車メーカーはメキシコに工場を持っており、自動車生産にあたっては両国の間を部品や完成品が頻繁に行き交っています。

したがってNAFTAが無くなると同社は悪影響を受けます。