※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 [動画で解説]株主優待で人気のJR4社「JR東日本」に今、注目する理由」
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ファンドマネージャー時代に大好きだったJR東日本
私がファンドマネージャー時代に大好きだった銘柄に、JR東日本があります。今でも、好きです。
何が良いかと言うと、地味で面白みのない銘柄に見えて、実は、次々と新しいビジネスを開拓し、コロナショック前までは、安定的に最高益を更新していたパフォーマンスの良い銘柄であったことです。新幹線を核とする鉄道業はもちろん、観光・不動産・小売・金融ビジネス、それぞれに成長期待がありました。
ファンドマネージャー時代にJR東日本に単独取材に行き、経営戦略について1時間あまりディスカッションしたことがあります。その時、一番印象に残っているのは、先方の以下の言葉です。「1年2年では大きな変化のない会社ですが、10年ごとに大きく変化を遂げています」。その通りだと思いました。
実際、JR東日本は10年ごとに大きな変化を遂げ、2019年3月期までは、安定的に最高益を更新してきました。最高益更新のドライバーは、新幹線でした。人口の増えない日本で、鉄道業は成熟産業と見られていましたが、新幹線収入の拡大によって、JR各社は、安定的に最高益を更新してきました。
新幹線は、かつてビジネス客中心の乗り物でしたが、コロナ前には「国民の足」として、利用が拡大してきました。そこに、外国人観光客の利用拡大が追い風となっていました。グリーン席の利用率増加も、収益拡大に寄与していました。
JR4社の連結経常利益:コロナ前2018年3月期・2019年3月期
コロナ禍で奈落の底に突き落とされたJR東日本
JR東日本は、今期(2021年3月期)、過去最大の赤字を計上する見通しです。コロナ禍で遠出したり、旅行にでかけたりする人が激減したためです。
近年の増収をけん引してきた外国人観光客は、今期はまったくいなくなってしまいました。在宅勤務・リモート会議の普及で、近距離も長距離も、鉄道収入が大きく落ち込みました。
JR4社の連結経常利益:コロナで赤字転落2020年3月期・2021年3月期
最近、ワクチンが普及すればコロナが沈静化するとの期待が出ていることを背景に、ようやく株価は底打ちしつつありますが、依然として上値は重いままです。
JR4社株価と日経平均の動き比較:2019年12月30日~2021年3月15日
JR各社にとって重く受け止められているのは、コロナが去ってもすぐには外国人観光客が戻ってくるとは考えられていないことです。在宅勤務・リモート会議を推進する流れも変わらないと考えられています。コロナで大打撃を受け、コロナ後も通勤や出張、外国人観光客の利用が完全には戻らないと考えられていることが、JR各社の株価を抑えています。
今、JR東日本に注目する理由
短期的には、4社とも株価は上値の重い展開が予想されます。来期(2022年3月期)になっても、業績の回復は鈍いと考えられるからです。ただし、中期的な成長力を考えれば、JR東日本に少し投資してみるのも、悪くないと思います。
東京を地盤に持つ強みに加え、不動産・小売・観光・金融など多角化事業で利益を伸ばしていく余地が大きいと考えているからです。ちなみに、2020年3月末時点で、JR東日本は、賃貸不動産に1兆5,488億円もの含み益を有します。含み益の大きさでは、三菱地所・住友不動産・三井不動産についで第4位です。コロナ禍を受け、都心の不動産需給は緩みつつありますが、それでも過去7年間の不動産ブームで膨らんだ含み益は大きく、JR東日本の投資価値を高める効果があると思います。
賃貸不動産含み益上位4社の含み益推移:2013年3月~2020年3月
私は、JR東日本は事実上、日本最強の不動産会社だと思っています。日本の不動産価格は、JR駅前が一番高く、駅から遠ざかるにつれて安くなる傾向があります。JR東日本は、首都圏でもっとも価値の高いJR駅周辺に豊富な土地を有するので、不動産会社として圧倒的に優位です。
鉄道事業で使わなくなった土地を再開発して、オフィスビルの保有を増やしてきました。立地抜群で競争力が高く、土地取得コストがかからないので収益率も高くなります。リモートワークの広がりで都市部の不動産価値がやや低下しているものの、それでも都心一等地の不動産の価値がきわめて高い事実は変わらないと思います。
JR東日本は、規制緩和によって、駅ナカや線路上空が利用できるようになってきたメリットも受けています。駅ナカに展開する「ルミネ」など小売ビジネスは、高い競争力を有します。自前で小売業をやるのでなく、抜群の立地を有する小売スペースの管理者として、その時々で一番はやっている専門店を入店させていくので、ある意味、最強の小売業と言えます。
今、頓挫していますが、リゾート・観光業でも成長余地があると思います。いつになるか明確に見通せませんが、コロナ収束後に、観光業の利益が増加トレンドに戻ると予想しています。
コロナ収束後、すぐには外国人観光客は戻らない可能性があります。ただし、その分、日本人が海外旅行に行くのも減ると思います。外国人が戻らない間は、日本人による日本旅行が盛り上がると思います。
外国人観光客が戻るころには、日本人も海外に行くようになると思いますが、どちらにしろ、自然の美しい日本での旅行需要にはこれからもかなりの成長余地があると考えています。
JR九州が2013年に導入した豪華寝台列車(クルーズトレイン)「ななつ星in九州」の旅はコロナ前、常に大人気でした。従来の寝台列車とは異なり、動くホテルのような快適さが受けています。JR九州の成功を見て、JR西日本・東日本も豪華寝台列車の旅を導入しましたが、いずれも好評でした。
私の勝手な予想ですが、コロナ収束後、いずれJR各社が提携して豪華寝台列車を使って全国をめぐる長期旅行が売り出されると思っています。そうなれば、さらに高い人気を集め、4社の収益拡大に寄与すると考えています。
株主優待も魅力的なJR4社
機関投資家にはメリットがないので、ファンドマネージャー時代には注目したことがありませんでしたが、JR4社が実施している株主優待は、個人投資家には魅力があるようです。
JR4社は、運賃・料金の割引券などや、自社施設等の割引利用券などを、株主優待品として株主に贈呈しています。旅行好きの個人投資家に好評です。
今、国内・海外とも旅行が控えられているので、株主優待の利用価値も低下していますが、コロナ収束後には、また価値が戻ると思います。
JR4社の投資方針
JR4社とも、業績や株価は当面、上値の重い展開が続くと考えています。したがって、短期的な株価上昇を期待する投資家には、あまり面白くない投資対象だと思います。
ただし、中長期的な観光業の復興や、新幹線ビジネスの成長を見据えるならば、今から投資して長期保有するのも悪くないと思います。JR4社の中で、JR東日本の長期的な投資価値が一番高いと判断しています。
JR西日本やJR九州も、中長期的な日本の観光業の復活を考えるならば、投資していく価値はあると思います。
注意が必要なのは、JR東海です。事業に占める新幹線の比率が高いので、本来ならば、JR4社の中で一番投資価値が高くなるはずでした。ところが私は今、JR東海への投資には慎重になるべきと考えています。それはリニア中央新幹線の建設を進めていることが、リスクとして意識されるようになってきたからです。
【1】工事に予想以上の時間がかかる可能性が出てきたこと
環境への影響をめぐる議論から静岡県で工事差し止め請求が出ている
【2】東海道新幹線とリニア中央新幹線に競合リスクも出てきたこと
リモート会議普及でビジネス出張の増加が見込みにくくなってきたことが逆風
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