イエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長は、10月15日、ワシントンで開催されたG20の関連会合で講演し、物価の長期停滞に警戒感をにじませながらも「今後、数年は追加利上げが適切になる」と発言しました。米国の物価は、一時目標の2%を上回りましたが、直近では1.4%と鈍化しています。
物価停滞の要因についてイエレン議長は「携帯電話料金の値下げ競争による大幅な低下」と分析し、インフレ率の鈍化は一時的と述べています。米経済の現状については、「ゆるやかに拡大しており、労働市場は引き締まってきた」と指摘しています。そして今後は「景気拡大と堅調な雇用が続き物価は目標の2%近くで安定する」と予想しています。
イエレン議長の一連の発言から推測すると、年内の利上げについてはかなりの可能性が高まってきました。しかし、ドル/円の動きを見ていると、下がりはしませんが(ドル安にはなりませんが)、ドル高の動きは鈍い地合いとなっています。
このドル高の鈍さの背景には、中国の党大会が終わるまではおとなしくしている北朝鮮が再び動き出すかもしれないとの警戒感もありますが、もうひとつの背景は、イエレン議長の後任人事にあるようです。トランプ大統領は9月29日に、次期FRB議長の人事は2、3週間以内に発表すると発言しています。10月が終わるまでには決まりそうだとマーケットは様子見姿勢となっているようです。
では、なぜ様子見をしているのでしょうか。これは後任のFRB議長がハト派かタカ派かによって、今後の金融政策の引き締めペースが変わり、金利や、株、ドルに影響してくるからです。その通りに政策が実行されるかどうかは経済環境によって変わってくるのですが、マーケットは先取りをします。今後はその方向で動く可能性があるかもしれないという期待だけで動きます。
たとえば、昨日16日には「次期FRB議長にテイラー教授有力」との一部報道によって金利高、ドル高となりました。政策金利を高く誘導するとの見方もあるテイラー教授にトランプ大統領が好印象を抱いているとの報道で金利の先高観が浮上し、ドル高となったようです。ドル/円で言えば、1ドル=111円台後半から112円台前半の50銭弱の動きですが、マーケット参加者は様子見ながらも敏感になっていることがわかります。
次期FRB議長の候補にはイエレン議長も入っていますので、次期候補の金融政策の考え方はイエレン議長と比較してどうかと考えるのがわかりやすいということになります。冒頭に直近のイエレン議長の経済や物価、今後の見方について触れましたが、もう一度イエレン議長の現状認識や金融政策のスタンスを、直近の発言も加えてまとめてみると、
・ 物価の長期停滞は警戒するが、足元の物価の伸び鈍化は一時的な動き
・ 米経済の現状は、緩やかに拡大しており、労働市場は引き締まってきた
・ 今後は、景気拡大と堅調な雇用が続き物価は目標の2%近くで安定する
・ インフレ2%達成まで政策を据え置くことは賢明ではない
・ 緩やか過ぎる利上げは将来のインフレリスク
・ 金融規制見直しは「緩やかであるべきだ」と主張し、トランプ政権の大幅な規制緩和を牽制
すなわち、イエレン議長のスタンスは、「経済はゆるやかに拡大し、今後は物価目標2%に近づくため緩やかに利上げする」ということになります。このスタンスはFOMC(米連邦公開市場委員会)で投票権を持つメンバーの中では、利上げ容認だが慎重姿勢ということでタカ派というよりも中立という立場にあるようです。
下表は、12月のFOMCで投票権を持つメンバーの金融スタンスを表したものです。フィッシャー副議長は10月に退任のため、12月時点ではクォールズ氏がFRB副議長に就いています。また、現在マーケットで注目されている次期FRB議長候補の金融政策と規制緩和のスタンスを表に加えています。
金融 |
氏 名 |
FRB |
地区連銀 |
次期FRB |
---|---|---|---|---|
ハト派 |
カシュカリ |
- |
ミネアポリス連銀総裁 |
コーン ハト派 規制緩和 |
ブレイナード |
理事 |
- |
- |
|
エバンス |
- |
シカゴ連銀総裁 |
- |
|
中立 |
イエレン |
議長 |
- |
イエレン 規制緩和慎重 |
パウエル |
理事 |
- |
パウエル 規制緩和慎重 |
|
ダドリー |
- |
ニューヨーク連銀総裁 |
- |
|
カプラン |
- |
ダラス連銀総裁 |
- |
|
タカ派 |
クォールズ |
副議長 |
- |
ウォーシュ タカ派 規制緩和 |
ハーカー |
- |
フィラデルフィア連銀総裁 |
テイラー タカ派 規制緩和 |
この12月の陣容に加えて、次期FRB議長がハト派だと、ハト派の勢力が増すことになります。またタカ派だと少数派から、ハト派、中立派と拮抗することになります。マーケットはそれまでと比較してややタカ派寄りにFRBをみることになるかもしれません。来年の利上げ回数が増えることを期待し、金利高、ドル高のマーケットになるかもしれません。イエレン氏やパウエル氏だと、政策継続と捉え、金融市場はあまり反応しないかもしれません。
ある賭けサイトでは、指名確率についてパウエル現理事が4割、ウォーシュ元理事が3割程度となっています。またここへ来てテイラー氏が次期候補に再浮上しており、ウォーシュ氏などタカ派候補の期待が高まりつつあります。
後任人事の報道は、これから毎日のように流れてきますが、留意してみておく必要があります。また、気を付けなければいけないのは、ニューヨーク市場でこれらの情報が流れ、相場が動くことが多いため、特に夜の時間帯の動きに注意しなければいけないということです。
ボルカ―元FRB議長の在任期間は8年、次のグリーンスパン氏は18年半、バーナンキ前議長は8年、果たしてイエレン議長は4年で任期が終わるのでしょうか。
FRBについての基礎知識
米国には日銀のような単一組織としての中央銀行はなく、「連邦準備制度」が中央銀行の役割を担う
・「連邦準備制度」は、ワシントンにあるFRBと米国内を12に分割した各地区にある連邦準備銀行(地区連銀)で構成される
・FRB(Federal Reserve Board =連邦準備制度理事会)はワシントンに本部を置き、12地区連銀を統括する機関で、政府内で独立した機関
・FRBの理事は7人で大統領から指名され、上院の承認を受ける。理事の任期は14年
正副議長は理事であることが就任の条件。任期は4年で再任は可能
・金融政策の最高意思決定機関は米連邦公開市場委員会(FOMC=Federal Open Market Committee)。FOMCはFRBの7人の理事と12地区連銀総裁が全員参加する。しかし、投票権を持つのはFRBの7人の理事と地区連銀の総裁5人(ニューヨーク以外は1年ごとに交代)
・FOMCの委員長はFRB議長、副委員長はニューヨーク連銀総裁。
・FOMCは年8回開催され、3、6、9、12月はFRB議長の記者会見があり、記者会見が行われる時に重要な政策決定がされる場合が多い。また、3、6、9、12月の四半期毎に金利と経済の見通しを発表
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