調整売りで、ポンドや豪ドルもクロス円の当面の高値はみたかも

 2月のドル/円は、1月の月足の陽線転換(*)の流れが持続し、円安地合いが続いて陽線となりました。104円後半で始まったドル/円は、米長期金利の上昇とポンド/円や豪ドル/円などのクロス円の上昇に支えられ106.70円近辺まで上昇し、106円半ばで2月を終えました。米10年債利回りも1.5%を素通りし、オプション取引が金利変動に拍車をかけて一時1.6%に達しました。さすがに急激な長期金利の上昇を嫌気し、株式市場は調整され、それまで一本調子の上昇を続けていたポンドや豪ドルも月末にかけて調整売りとなりました。この調整によってこれらクロス円の当面の高値はみたかもしれません。

(*陽線転換……陰線から陽線に転じること。陽線は始値よりも終値が高いこと。月足の陽線とは、月初よりもドル高・円安で月末を終えること。陰線はその逆を表す。3月は、月初の106円半ばよりも円安で終われば陽線。円高で終われば陰線となる)

 3月も、1月、2月の陽線の流れを受けて陽線の可能性がありますが、3月は日米欧とも金融政策会合の開催が予定されているため、長期金利の動きと日米欧の金融当局への思惑によって翻弄(ほんろう)される展開となりそうです。

 マーケットは、コロナ感染ペースの鈍化、ワクチン接種の加速に加え、追加経済対策への期待によってインフレを懸念し始めており、利上げや量的緩和の縮小などの金融政策の変更を意識し始めています。これらの思惑が長期金利の上昇をもたらしました。

 2月は日米欧とも金融政策会合が開催されませんでしたが、日米欧中央銀行の総裁は議会証言や講演会でマーケットが抱くインフレ懸念や長期金利の上昇について見解を述べています。

 FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は2月23日、24日の議会証言で次のように述べています。その要点は、

・経済は雇用と物価の目標からほど遠く、回復には時間がかかる。
・物価上昇が長続きするとは予想しておらず、物価目標の達成には3年以上かかる
・長期金利の上昇は経済回復への市場の期待の表れであり、過度な懸念は必要ないとの認識
・ゼロ金利政策を長期間維持する考えを改めて強調

 つまり、現在の長期金利の上昇を容認したが、インフレは一時的であり、経済回復には時間がかかるので金融緩和は長期間続けるとの考えを示しました。マーケットの早期利上げ観測と「ずれ」が生じている状況となっています。

 ECB(欧州中央銀行)のラガルド総裁は、2月22日、「ECBは、ユーロ圏内の金融環境が新型コロナウイルス禍の景気を支える上で十分望ましいかを見極めるため、名目国債利回りを注視している」と述べ、最近の長期金利上昇について懸念を示しました。

 ただ、欧州の物価が上昇しており、物価上昇が続けば、異例の金融緩和策を正当化するのが困難になる可能性があります。今のところ物価上昇は一時的との見方が多いですが、3月のECB理事会で物価上昇についてどのような認識を示すのか注目です。

 日銀は3月の金融政策決定会合で政策の点検結果を公表する予定となっています。マーケットは、YCC(イールドカーブコントロール 長短金利操作)の変更やETF(上場投資信託)の買入れ変更があるのかどうかに注目しています。日本の長期金利も米国長期金利の影響を受けて、2月26日の債券市場では、新発10年債利回りが一時0.175%と2016年1月のマイナス金利政策導入決定後の最高水準を更新しました。

 このようなマーケットの思惑に対して、日銀の黒田総裁は2月26日の衆院財務金融委員会で「イールドカーブ全体を低位で安定させることが大事になっており、ゼロ%程度を上げていこうということではない」と述べ、現行のYCCの枠組みを変えるつもりはないと改めて表明しました。また、ETFの買い入れについては、現在の金融市場調節方針においても「十分にメリハリのある柔軟な買い入れができる」との見解を示し、変更の思惑を否定しました。3月の決定会合で同じような見解を示すのかどうか注目です。

欧米中央銀行間の「ずれ」。FRBとECBの長期金利についての見解は違う

 欧米の中央銀行の間では長期金利の動きについて見解が分かれています。ECBのラガルド総裁は、「注視している」と警戒心を示しましたが、パウエル議長は容認しました。このFRBとECBの長期金利についての見解の違いがユーロの下落(ユーロ安・ドル高)に影響しているとの見方もあります。

 しかし、FRBが長期金利上昇に懸念なしとの容認姿勢を続けると、マーケットの早期利上げ観測を高めることになります。長期金利も上昇を続けると、2月の終わりのように株式市場に影響を与え、景気回復に水を差すことになりかねません。FRBの雇用と物価の政策目標達成にも支障が生じることになり、また、イエレン財務長官が、金利が低いから大判振る舞いが出来るという主張に制約がかかるかもしれません。それを避けるため、3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では市場の利上げ観測を冷ますような声明や発言が出てくるのかどうか注目です。FOMCの前に発信されるFRB高官からの発言にも注目です。

 3月の金融政策会合は、ECBが11日、FOMCが16~17日、日銀が18~19日に開催される予定となっています。

 ドル/円は、2月の終わりに株が下落しても、それまで支えていたクロス円が調整売りによって大きく下落しても106円台を維持したため、上にも下にも大きく動きづらい状況となっています。

 円安の要因であったクロス円は、当面の高値をみた感があります。そしてもうひとつの円安の要因であった、早期利上げ観測や長期金利の上昇をもたらしたインフレ期待の上昇は、レジャーや飲食などサービス価格の伸びが鈍化してきていることから頭打ちとなってきているようです。FRBはそのことを先取りし、金利の先高期待は後退し、金利の変動は徐々に落ち着きを取り戻すとみているため現状を容認しているのでしょうか。やや危険を伴うスタンスだと思われます。もう少し、マーケットとのコミュニケーションが必要だと思われますが、記者会見でそのギャップを埋めるのかどうか注目です。