【今日のまとめ】

  • 小売セクターは三重苦にあえいでいる
  • 消費者のネット通販へのシフトが加速している
  • 国境税調整は小売業にとり懸念材料
  • ウォルマートは賃上げで社員の士気が高まっている
  • ターゲットはアマゾンからの激しい競争に晒されている
  • コストコはメンバーシップ・フィーの値上げに踏み切った
  • ベストバイは店舗閉鎖を進めている
  • ダラー・ツリーは国境税調整で最も影響を受ける一社

三重苦にあえぐ小売セクター

小売セクターは1)アマゾン(ティッカーシンボル:AMZN)に代表されるネット通販からの競争に晒されている、2)税制改革下院案「Better Way」に盛り込まれた国境税調整のリスクに晒されている、3)好景気にもかかわらずクリスマス商戦がパッとしなかった、という三重苦にあえいでいます。

そこで今回は、小売セクターの中でも、大型店舗を展開している企業の近況について解説します。

消費者のネット通販へのシフトが加速

今回の決算発表シーズンで小売各社から聞かれたコメントとして「消費者のネット通販へのシフトが、ここへきて加速している観がある」ということが目立ちました。

ネット通販は今日に始まったことではありません。しかし去年は消費者の行動の変化がショッピングモールの客足減など、極めて顕著なカタチで現れ始め、小売各社の経営陣を浮足立たせています。

各社は大急ぎでオンライン・ストアを強化しています。さらにショッピングモールの実店舗を整理・縮小するなど、もう一段、踏み込んだ対応を次々に発表しています。

国境税調整

現在、下院は税制改革法案を審議中です。去年の6月に発表された下院案「Better Way」は、国境税調整(Border Tax Adjustments)という項目を含んでいます。

国境税調整は1)輸入品に一律20%の関税をかける、2)輸出に関しては法人税を課さない、という二段構えの措置によりアメリカ企業の輸出振興を行おうという案です。

国境税調整は米国内に工場を持つメーカーなどにとっては大変ありがたい制度です。

しかしウォルマートに代表される小売業は、中国などの賃金の安い国で作られた安価な製品を輸入し、それを販売することで商売が成り立っています。

いきなり仕入コストが20%跳ね上がると、それを顧客に転嫁できる保証はありません。

店舗に並んだ商品の値段が高騰したのを見て、来店客の買い控え行動が出ることが心配されます。

もちろん、中期的に見れば、すべての輸入品に一律20%の関税がかけられるので、どこへ行っても値上がりするため、企業間のマーケットシェアの変化など、競争地図への影響は余り無いのかもしれません。

しかし一時的にせよ商品が動かなくなると、小売業者の在庫、マージン、資金繰りなどに大きな支障が出ないとも限りません。

そういう危機感を背景に、小売各社はこの法案に大反対の論陣を張っており、同法案を葬り去るべくロビー活動に奔走しています。

ウォルマート

ウォルマート(ティッカーシンボル:WMT)は安い商品を大量に売るというビジネス・モデルのパイオニアです。したがって国境税調整で悪影響を受ける企業の代表と言えます。

同社の第4四半期(1月期)決算は、EPSが予想$1.29に対し$1.30、売上高が予想1,302.2億ドルに対し1,297.5億ドル、売上高成長率が前年比+0.8%でした。

本体の既存店売上比較は当初ガイダンスの+1.0~1.5%に対し、1.8%でした。このうちトラフィックが+1.4%、チケットが+0.4%でした。

ウォルマートの既存店売上比較が楽勝で予想を上回ったのは久しぶりで、過去2年近くにわたり同社が取り組んできたターンアラウンド戦略がようやく実を結びはじめたことを印象付けました。とりわけ賃金の引上げ、社員教育の徹底がサービス向上をもたらし、それが来店客増、ならびに生産性の向上に寄与しているのは心強いです。

新しい、小さめの店舗デザインであるネイバーフッド・マーケット部門の既存店売上比較は+5.3%という満足の行く数字でした。またネット販売も前年比+29.0%でした。

店内の在庫は去年の同期から-7%圧縮されました。これも立派な数字だと思います。

ウォルマートはアマゾンからの攻勢に対抗するためオンラインに先行投資を続けており、その負担が目先の業績を圧迫します。

今後の見通しですが、第1四半期は予想96¢に対し、新ガイダンス90¢~$1.00が提示されました。2018年度通年のEPSは予想$4.32に対し、新ガイダンス$4.20~4.40が提示されています。2018年の年間配当は$2.04に引上げられました。

ターゲット

ターゲット(ティッカーシンボル:TGT)もアマゾンからの攻勢に苦しんでいます。

第4四半期(1月期)決算は、EPSが予想$1.51に対し$1.45、売上高が予想206.9億ドルに対し206.9億ドル、売上高成長率は前年比-4.3%でした。既存店売上比較は-1.5%でした。

なお売上高成長率が悪かった一因として薬品・クリニックを廃止したことも影響しています。

ターゲットはネット通販に力を入れています。今期のオンライン販売高は前年比+34%でした。

グロスマージンは26.9%でした。ちなみに去年同期は27.9%でした。去年より悪化した理由は在庫整理セール、売れ筋商品の変化などによります。

ターゲットは店舗のリニューアルを通じ、2~4%程度の店舗ごとの売上伸長を狙っています。また都心にネイバーフッド・ストア、大学の近くにキャンパス・ストアを展開することで顧客により近いところへ出店する考えです。

向こう3年間で100店舗の小さいフォーマットのストアを出店したい考えです。これに向けて2017年度は20億ドル、向こう数年に渡って合計70億ドルの先行投資を行う予定です。

なお同社は1月18日に利益警告を出しており、その際に示した第1四半期のEPSガイダンスは80¢~$1.00、2018年度は$3.80~$4.20が提示されました。

コストコ

コストコ(ティッカーシンボル:COST)は会員制ウエアハウス・クラブです。年会費を払う代わりに、卸売り価格に近い値段で「まとめ買い」をするとお得になるという価値提案の企業です。

同社の第2四半期(2月期)決算はEPSが予想$1.35に対し$1.17、売上高が予想297.5億ドルに対し297.7億ドル、売上高成長率は+5.7%でした。

既存店売上比較は+3%でした。このうちガソリン代の上昇は0.85%プラスに働き、為替は少しマイナスに働きました。2月の既存店売上比較は+4%、ガソリン、為替要因を除くと+2%でした。

ガソリン代の上昇がその他の一般の商品の売上高に与える悪影響は、以前より少しひどくなっています。

デフレによる商品の値下がりは1%でした。冷凍食品、酒類、肉類、電化製品、とりわけテレビが値下がりしました。

第2四半期のグロスマージンは予想11.4%に対し11.0%でした。

コストコは2017年6月1日から米国とカナダでメンバーシップ・フィーを5ドル値上げします。新しい年会費は60ドルになります。

さらにエグゼクティブ・メンバーシップの会費はこれまでの110ドルから120ドルに値上げします。

ベストバイ

ベストバイ(ティッカーシンボル:BBY)は家電量販店です。同社で扱っている家電製品の多くは中国製、韓国製ですので、国境税調整の影響を受けやすいです。

第4四半期(1月期)決算はEPSが予想$1.67に対し$1.95、売上高が予想136.2億ドルに対し134.8億ドル、売上高成長率は前年比-1.0%でした。既存店売上比較は-0.7%でした。

国内売上高は-1.4%、国内既存店売上比較は-0.9%でした。また11の大規模店閉鎖、31のベストバイ・モバイルストアの閉鎖が売上高前年比較を悪くしました。

ホーム、コンピューティング、ヘッドフォン、ホーム・シアターなどの売上は好調で、ゲーミング、タブレット、ヘルス&ウェアラブル、スマートフォンは不振でした。

国内オンライン販売金額は23億ドルでした。これは前年同期比+17.5%でした。総売上高に占めるオンライン販売比率は18.6%でした。

国内GAAP粗利益率は22.3%でした。ちなみに去年同期は21.6%でした。粗利益率向上はコンピューティングならびにホーム・シアターの好調の寄与によります。スマートフォンがマージン圧迫要因となりました。またサムスンのスマートフォン、洗濯機が品不足で、商機を逃しました。

第1四半期はEPS予想49¢に対し、新ガイダンス35~40¢が提示されました。売上高は予想84.7億ドルに対し、新ガイダンス82~83億ドルが提示されました。

2018年は予想398.1億ドルに対し、新ガイダンス400億ドルが提示されました。

ベストバイは新しく向こう2年に渡り30億ドルの自社株買戻しを実施すると発表しました。また四半期配当を21%引上げ、一株当たり34¢としました。

ダラー・ツリー

ダラー・ツリー(ティッカーシンボル:DLTR)は「店内の商品が全て1ドル」という単一価格で日用雑貨を販売するディスカウント・バラエティー・ストアです。その価値提案の性格上、同社の店舗に並んでいる商品の大半は中国やメキシコなどの新興国で作られた商品です。従って国境税調整の影響を受けます。

第4四半期(1月期)決算はEPSが予想$1.32に対し$1.39、売上高が予想56.2億ドルに対し56.4億ドル、売上高成長率は前年比+5.0%でした。為替要因を除く既存店売上比較は+1.2%でした。

グロスマージンは32.1%でした。これは去年同期の30.8%から改善しました。グロスマージン改善の主因は仕入れコストの下落ならびに運賃の下落です。

第1四半期はEPS予想$1.11に対し、新ガイダンス91~98¢が提示されました。売上高は予想53.2億ドルに対し、新ガイダンス52.6億ドル~53.5億ドルが提示されています。

既存店売上比較ガイダンスは一桁台の下の方です。

2018年はEPS予想$4.52に対し、新ガイダンス$4.20~4.56が提示されました。売上高は予想218.8億ドルに対し、新ガイダンス219.4億ドル~223.3億ドルが提示されています。