ドル/円が105円台へ下落した要因

 先週のドル/円は、米10年債利回り1.3%超えとともに106円台に乗せましたが、106円台の滞空時間は短く、106.20円近辺のダブルトップを付けた後、105円前半まで売られました。米10年債利回りが1.3%を超えてさらに上昇していたにもかかわらず、ドル/円が105円台へ下落した背景は、以下の要因が考えられます。

(1)104円台から106円台までの上昇スピードが速かったことや、これまでの円買いポジションの手じまいがある程度終わったこと
(2)米長期金利のややスピード感のある上昇を嫌気し、米株も足踏みしたこと
(3)昨年12月調査の日銀短観による大企業・製造業の2020年度下期の想定為替レート106.42円が意識され、それなりの実需のドル売りが出たこと

 これらの要因によって106円台を維持できなかったと思われますが、ただ、米長期金利は1.30%超で高止まりしており、ポンド/円や豪ドル/円などのクロス円は引き続き上昇相場の地合いにあることから、ドル/円も再び106円台を目指す地合いは残っている模様です。

 注目されていた23日のパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の議会証言は、「経済は雇用と物価の目標からほど遠い。大きく前進がみられるまでには時間もかかる。」と述べ、金融緩和を長期に続ける考えを示しました。インフレについては、「今後1年不安定になるかもしれないが懸念される水準には上昇しない」とし、「財政の拡大は高インフレにつながらず、望ましくないインフレが起きれば対処する手段がある」と述べ、物価の上昇圧力は依然として軟調だと述べました。

 また、長期金利の上昇については「経済再開や経済成長への市場の期待の表れだ」として、過度な懸念は必要ないとの認識を示しました。一方で、「ワクチン普及は今年後半には経済が正常化に向かうとの期待を高めている」と述べ、市場の一部から2021年のGDP(国内総生産)成長率が6%に達するとの見方が出ていることに対して「その範囲に達する可能性もある」と述べました。

 これら一連のハト派的発言を受けて、1.39%手前まで上昇していた米10年債利回りは1.36%台まで低下し、大きく値を下げていたダウは、プラスまで戻しました。ドル/円は、やや売られましたが、105円台前半をキープしている状況です。

ドル/円より、ポンドや豪ドルに注目

 今週も、ドル/円というよりもポンドや豪ドル、それらのクロス円の動きに注目です。英国のジョンソン首相は、22日、3月8日からロックダウンを段階的に解除すると発表しました。ワクチン接種が計画通りに進んでいることによって、状況が劇的に好転していると説明し、6月21日までには解除できると楽観していると述べました。ただ、保証はできないとも付け加えました。マーケットではロックダウン解除によって経済正常化への期待が高まり、ポンド押し上げ要因となっています。

 これに対して、米国ではワクチン接種が遅れている状況となっています。特にテキサス州を中心とした寒波でワクチンが届かなくなっている州もある状況です。新型コロナウイルスによる感染者の増加は鈍くなってきましたが、米国の累計死者数はわずか1年で50万人を超えました。パンデミックによるこの1年の犠牲者は、第1次世界大戦(約11.6万人)、第2次世界大戦(約40.5万人)を合わせた数に匹敵する死者数となっています。

 米国でワクチン接種が伸び悩んでいる背景のひとつに国民の接種意欲があります。米調査会社ギャラップが2月に発表した一般の米国人を対象にした調査によると、「ワクチン接種に同意する」と回答したのは71%だったそうです。

 特に米軍でワクチンの接種が伸び悩んでいることが問題になっています。ワクチンの提供を受けた米兵のうち3分の1が接種を拒否しているとのことです。米兵は長期間にわたり共同生活を送る場合が多く、原子力潜水艦や空母などではさらに閉鎖された空間で過ごすことになります。また、訓練中はマスク着用やソーシャルディスタンスの確保といった予防策を講じにくく、集団感染のリスクが高いとされています。集団感染で部隊が機能不全に陥れば、米軍による抑止力に影響してくると米軍は危機感を強めています。

経済正常化期待の時期の違いが、ポンド高に反映

 ポンドは節目である1.45を目指してポンド高が進んでいますが、ワクチン普及の英米の違いを経済正常化への期待というフィルターを通して、単純にポンド高・ドル安を反映しているだけかもしれません。米国もワクチン普及や追加経済対策による経済回復期待が大きいですが、英国への期待の方が大きく、かつBrexitに絡むEU(欧州連合)との交渉という要因が剥落したこともポンド高を後押ししているのかもしれません。

 そしてワクチン普及による経済回復期待は経済正常化への期待に変わってきているようです。パウエル議長は、米経済の正常化は今年後半とみているようですが、英ジョンソン首相は6月21日の規制解除で経済は正常化に向かうと楽観視しています。この時期の違いがポンド高を反映しているようです。

 翻って日本の現在のワクチン接種の対応をみていると、ワクチン接種が計画通りに進まない可能性がありそうです。ワクチン普及の違いによるポンドとドルの関係のように円が売り材料になるのかどうか、今後注目度合いが高まってきそうです。

 先週、ポンド/円は150円を目指すことに触れましたが、あっという間に150円にタッチしました。ポンドは1.42台を付けました。ポンドの次の目標水準は、節目である1.45の前に、まずは1.43台後半が目標の水準です。1.43台後半は、2016年のBrexit国民投票以降、ポンド安が続き、1.50台から1.18台に下落した後の戻り高値の水準ですが、視野に入ってきたようです。ポンド/円だと、その時の水準は155円になります。

 これらポンド/円などのクロス円の上昇がドル/円を支える要因となっていますが、円安の別の要因である米長期金利の上昇は、パウエル議長が懸念していないとの認識を示したことから1.50%を目指してさらなる上昇があるかもしれません。しかし、米国債の2年債などの長期金利は上昇していないため、ドル/円の上昇圧力にも限界がみられるかもしれません。106円は見えても、107円は近そうで遠い水準になるかもしれません。