30代の投資デビュー、どうすればいい?
先日、とある経済誌の取材を受けて「30代、初めて投資をするならどんなステップで行えばいいか」というコメントをした。
とてもいいテーマだ。投資をスタートする層は今も、そしてこれからも常に存在する。
「新人さん」をフォローすることができず、ベテランだけが楽しげに会話している業界には未来がない。できれば投資の世界は常に初心者に門戸を開いている世界であってほしい。
さて、記事は記者と編集部の考えに基づいてまとめるものであるし、他の方のコメントもある。内容について大きく不満があるわけではないが、本連載で改めて、「ヤマサキ流・30代投資デビューの5ステップ」を整理してみたいと思う。
5ステップを説明する前にまず、基本的なスタンスを2つ示しておく。
「誰でも実行可能であること」
「できるだけ日々の負担が低いこと」
投資レクチャー本の多くが、学習とマーケットウオッチに多くの時間を割くことを求めるが、これは過剰な負担だと私は思う。社会人として働き、また家族人として家事や育児に時間を割く、ごく普通の人ができる範囲でなければ、投資は広く国民のものとはならない。できるだけ負担は軽くする必要がある。
もちろん運用成績としても悪くないものとならなければいけないが、リスクと手間に見合うリターンが得られるかどうかも考慮したつもりだ。
投資デビュー5つのステップ
さて、5つのステップを見てみよう。
ステップ1:投資額の捻出
私が最初に掲げる投資のステップは「節約」である。
なんとなくどこかにある100万円を投資原資として突っ込むというのは古い価値観の投資スタイルだ。
30代が今から投資をスタートするなら「ゼロ円スタート」でいいし、むしろ投資経験の浅さを考えればそのほうが望ましい。急落相場がやってきたとき、耐え忍ぶことのできる投資金額を設定することが重要だが、毎月数万円程度を積んでいくなら、あまり一喜一憂せずに投資を継続することができる。
このとき肝心なのは「毎月の投資原資の確保と拠出」で、これは家計管理や節約を意味する。投資と節約を結びつける人はまだ少ないが、投資原資はできる限り解約をせず、長期保有する資産としたい。
むしろ、投資原資確保が投資デビューの大事なステップだということを最初に頭にとどめておきたい。
ステップ2:投資割合の決定
2つ目のステップは、「投資割合の決定」だ。
これはあなたの全財産を一度リストアップし、おおまかな金額を把握したら(10万円単位でもいい)、「何割くらいを投資に振り向けるのか」を検討する。
投資に振り向ける割合は、「元本割れの可能性をこうむる資産割合」である。2020年3月末のように、20~30%の急落が生じることは何年かに一度やってくる。しばらくすれば市場は回復するとはいえ、パニックになるなら投資を継続できず損切りすることになる。そう考えたとき、あわてて損切りせずにすむ投資割合はいくらか考えてみよう。
(全財産額)×(投資割合)×0.3=(30%市場が下落したときの損失額)
初心者は「金額ベース」で損失可能性を一度弾いておくほうがいい。利益については数万円でもうれしいものだから、むしろ悪い可能性を考える。そして、私たちは値下がりによる含み損の発生可能性を過小評価しがちだ。
普通は、全財産を投資につぎ込むわけにはいかないと考えるはずだ。そこで、「資産の半分くらいなら」「3分の1までなら」と投資割合をイメージする。
悩んだ場合はとにかく投資割合(投資金額といってもいい)を小さくスタートすればいい。経験を踏まえて投資金額を増額するのは30代ならいつでもできる。
ここでも、「ゼロ円スタート」は楽だ。ほとんどの場合、いくばくかの定期預金をもっていて積立投資をスタートすることになるので、投資割合は数%から始まり、投資経験の蓄積とともに投資割合が徐々に増えていくことになるからだ。
ただし、この場合も「財産全体の半分を超えるのはちょっとやりすぎかな」というイメージを最初に持っておくことをオススメする。
ステップ3:購入商品の選定
購入商品の選定がようやく3つ目のステップで登場する。
好みの個別銘柄を選んだり、ファンドマネージャーの話を講演などで聞いて、好みの投資信託を選ぶのも3つ目のステップであり、1歩目ではない。
初心者が少額投資をするなら、興味関心のあるもので何を買ってもよい。レバレッジをかけないこと。そうすれば、うまくいかなかったときに、あまり金額的ダメージは大きくならずにすむからだ。
もし、商品選びに悩むようであれば、「国内外の株式に投資するファンド」「国内外の複数のアセットクラスに投資するバランス型ファンド」のどちらかを1つ選べばいいだろう。ここで意識したいのは、集中投資より分散投資を意識することだ。
いくつも個別株を組み入れたり、ファンドを複数購入すると負担がむしろ増える。興味があるとしても初心者の投資デビューでは数銘柄に抑えておくほうがいい。
多くの人はたくさんある個別銘柄、投資信託の選択だけで苦労し、むしろデビューを遅くすることがある。これは時間的損失のほうが大きい(こういう人はあっという間に数年を浪費する)。
悩むくらいなら「(預貯金)+(複数銘柄に分散投資をしたファンド1つ)」の組み合わせでポートフォリオを作って投資デビューしたほうがいい。30代の投資デビューは早いほどいい。
「つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)対象」の商品を選べばコストを低く抑える一次審査を通過しているので絞り込みしやすい。できれば、年0.2%程度の運用管理費用(信託報酬)のものから選んでみるといいだろう。
ちなみに、運用にかかるコストが高いことは元本割れしない保証ではないので(それはプロが運用を担当しようとも)、初心者はデビュー時に誤解をしないようにしたい。
ステップ4:投資口座の選択
4つ目のステップは投資口座の開設になる。
「証券会社選び」と「NISAやiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)口座を同時開設するか」の2つの視点がある。
順番をいえば
第1候補「iDeCo」
第2候補「つみたてNISA」
でいいだろう。
ただし、iDeCoは中途解約が原則不可であること、働き方によっては加入できない人がいる。この条件が引っかかった場合は、つみたてNISAでいいだろう。
ただし、30代は「老後のための解約しない積立投資口座」を持っておきたい年齢なので、あえて解約不可を逆手にとって積立投資をするのもいい。
つみたてNISAについては年40万円の非課税投資枠があるので、月約3.3万円の積み立てにあたる。こちらは解約が可能なので、5~10年後くらいに資金ニーズがある場合は解約することができる。
金融機関によって、iDeCoおよびつみたてNISAの取扱商品のリストが異なるので、比較検討サイトなどで絞り込んでみるといいだろう。もちろん、楽天証券もどちらも取り扱いをしている。
原則として、NISA口座を開設する人は証券口座も持っておく必要がある(解約時あるいは満期時に移管を行うため)。
なお、積立金額がたくさん確保できている場合は「iDeCo+つみたてNISA」で同時開設しても、もちろんかまわない。
ステップ5:定期的なメンテナンス
iDeCoやつみたてNISAは、申し込み時、もしくは口座開設完了後に「積立金額」「購入商品」の設定を行っておけば、定期的な積立投資が自動的にスタートし、継続されることとなる。
後は自動的な引き落としを継続し、長期・積立・分散投資をのんびり続けていけばいい。
大事なことは「下がっているときにあせって売らない」「下がっているときに積み立てを中断しない」ということ。長期投資をする一般個人にとって、この2つが運用成績を下げることになる。
売るわけではないなら、毎日株価や基準価額を見たとしても意味がないので、やめておいたほうがいい(といっても、デビュー後は毎日チェックしてしまうだろうし、それはしょうがないと思うが)。
ゼロベースから「長期・積立・分散投資」をスタートするなら、年に一度、なんなら3~5年に一度くらいの軌道修正でもいいくらいだ。
チェックするときは、次の視点で見ていくといいだろう。
・「預貯金:投資資金」のウエートを検証して「投資にいきすぎ」なら部分的に売る
・「投資資金の増額」が可能なら積立ペースを引き上げる
・「より割安な投資手法」が誕生したら(新商品の設定など)乗り換えを検討する
「株価が高いから売ろうか」など、素人には判断が難しい場合もあるので、「自分は売る必要があるかどうか(リスクの取り具合、資金ニーズなど)」という自分自身に売却理由を求めるとすっきりするだろう。
軽い気持ちでもいい!とにかく早く投資デビューを
30代というのは微妙な年代だ。仕事もプライベートも忙しく回り始める。振り返ってみると、20代の頃の忙しさなんて大したことなかったと思うことも多いはずだ。
このとき、投資に興味や関心があってもリソースを割けないために投資デビューが遅れることがある。あっという間に5年くらいロスすることもある。これは投資の経験をロスすることと、積立原資を5年分ロスすることの二重の意味でもったいない。
むしろ思いついたら吉日とばかりに開設申し込みをしてしまおう。とにかくバランス型ファンドを1つ選び、月1万円でいいので投資デビューまでこぎ着けてしまいたい。
最低限、スタートに必要なのは、次の3つの手続きだろうか。なんとかここまでたどり着いていただきたい。
・iDeCoか、つみたてNISAを開設
・バランス型ファンドなどを1つ選ぶ
・毎月の積立額を指定する
きっと50代に至った頃には相応の投資資金が蓄積され、投資経験も豊富な個人投資家に成長していることができるだろう。
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