1.良いニュースが米国株のベストシナリオを崩す

 米国株式市場が非常に神経質な展開となっている。今年の米国株式市場のベストシナリオは、(1)ワクチン接種の拡大と政府の景気刺激策を背景に、経済が再成長に向かう(2)かつ、大規模な量的緩和の規模継続とゼロ金利の長期継続により、引き続き米国株式市場に資金が流入する。(3)その結果、経済の再成長と量的緩和の継続を背景に、株式市場が一段と上昇する、という流れだ。しかし、(1)の部分で、経済が急速に伸びて景気が過熱し物価が急上昇するとの警戒感が高まっている。

 きっかけは、米10年債利回りが足元で急上昇していることだ。先週木曜日に、米10年債利回りは一段と急上昇し、1.52%となった。2020年2月以来の水準であり、また、S&P500の実績配当利回りを超える水準でもある。

 米10年債利回りの急上昇をどう捉えるべきか。FRB(米連邦準備制度理事会)の見解は極めてハト派だ。パウエル議長は2月下旬の上院銀行委員会で、米国債の利回り上昇について、力強い経済見通しに対する「確信の表れ」だと指摘。株式市場が恐れる、「景気が過熱し物価が急上昇する」という最悪のストーリーを一蹴した。

 しかし、木曜日は市場予想を大きく上回る経済指標が散見され、再び景気の過熱感が浮上している。1月の耐久財受注(確定値、前月比)は3.4%となり、市場予想の1.1%から大きく上方にかい離。2月20日終了週の新規失業保険申請件数は、市場予想の82.5万人を大きく下回る73.0万人となった。

 米国株式市場の先行きは、経済指標の急速な改善が、コロナ禍からの回復に向かう一時的なものなのか、継続性があるものかによって変わるだろう。良すぎるニュースが連続すると景気の急拡大に対する警戒感が高まる可能性が高い。一方、悪いニュース、例えばバイデン政権の景気刺激策が期待はずれになるといった内容が出れば警戒感は和らぐだろう。

 注意したいのは、米10年債利回りの上昇が続く場合、住宅購入や自動車購入のためのローンも上昇することだ。現時点で住宅購入は活況だが、利回りの上昇が実体経済の需要に影響を及ぼす可能性がある。

2.保有銘柄に与える影響は?

 こうした環境下で、保有に最も注意したい銘柄は、アップル(AAPL)アマゾン・ドット・コム(AMZN)等の大型テックと高バリュエーション銘柄だ。大型テクノロジー銘柄は長期的な成長ストーリーが引き続き魅力であるが、昨年の好業績からの一巡感があることから、短期的には利益確定売りが進むだろう。また、昨年次々と上場したIPO銘柄等、過熱感がある企業にも注意が必要だ。特に、電気自動車や燃料電池関連は、実績に乏しい企業も散見され、期待が萎んだ際に大きく下落するリスクがある。米国株式は、国内株式と違い値幅制限がないため管理に注意したい。最近では、ワークホース・グループ(WKHS)が、郵便局へのバンの契約を競合に勝ち取られたという報道で大きく下落する局面があった。

 一方、この環境下で買うとすれば、景気拡大期の物価上昇に強い銘柄だろう。セクターとしては、金利の上昇と貸倒れリスクの低下から恩恵を受ける銀行株が挙げられる。業界最大手の企業はJPモルガン・チェース(JPM)だが、割安性を重視するなら、予想PBR(株価純資産倍率)が1.0倍を下回るシティグループ(C)に投資妙味があるだろう。同社は昨年、規制当局からコンプライアンスやデータ管理に関連する内部統制の不備を指摘され、4億ドルの罰金が科された。今後、内部統制を改善する費用が発生する見通しだが、これを期に社内の透明度向上、効率化が進む可能性がある。

 また、物価の上昇を販売価格に転嫁するという観点からは、原油関連にも注目したい。昨年、原油業界はコロナ禍による需要の落ち込みに苦戦した。足元では原油価格見通しを上方修正する声も聞こえるが、今後も生産国の供給面など、不透明感は引き続き払しょくされないだろう。ただ、長期的に物価が上昇した際に転嫁が進むと考えられるのが原油だ。ポートフォリオの一部に組み込むのも良いだろう。例えば、シェブロン(CVX)は、バランスシートが比較的健全で、昨年の厳しい環境のなかでも増配を維持できた。今期の配当利回り予想も高水準だ。