311年ぶりのマイナス経済

 先週は、ポンドや豪ドルが堅調(ドル安)に動く中、ドル/円も売られ104円台に下落しましたが、ドル安の中では底堅い展開となっています。米国の追加経済対策への期待やそれを受けた米長期金利の上昇に加え、15日に発表された日本の10-12月期GDP(国内総生産)が予想を上回り、実質年率+12.7%と2四半期連続のプラス成長となったことから、日本株も30年半ぶりに3万円台に乗せ、ドル/円は105円台に上昇しました。

 このような動きの中で、為替市場で注目されたのはポンドの堅調な動きです。先週発表された英国10-12月期GDPは前期比+1.0%と予想を上回りましたが、2020年通年のGDPは▲9.9%と第2次世界大戦後の統計開始以来最大で、過去300年超で最も大幅な落ち込みとなりました。英中央銀行の記録によると大寒波が起きた1709年(▲13.4%)以降で最も大きいとのことです。311年ぶりの経済の落ち込みということにも驚きましたが、311年前に統計がさかのぼれるということにも非常に驚きました。1709年は日本でいうと、元禄時代の赤穂浪士討ち入り(忠臣蔵)の6年後にあたります。

 しかし、ポンドはGDP発表後堅調な動きをしています。今年1月からは3度目のロックダウンが始まっており、1-3月期GDPはマイナス成長となる公算が大きいのですが、ポンド上昇の背景は、コロナ感染拡大の鈍化、ワクチン接種の進捗状況、ワクチン供給で欧州混乱による対ユーロのポンド買い、英アストラゼネカからのワクチン購入代金の思惑(ポンド買い)などが上昇を後押ししているようです。これらのことによって来年の景気回復への期待が高まり、欧州よりも米国よりも早く回復するのではないかとの思惑がポンドを押し上げているようです。

 英中銀は2021年の英国の実質GDPを+5.0%と予測しています。ECB(欧州中央銀行)の2021年GDP見通しは+3.9%、米国FRB(米連邦準備制度理事会)の2021年のGDP見通しは+4.2%(米議会予算局の見通しは+4.6%)、日本銀行は2021年度のGDP見通しを+3.9%と予測しています。これら日米欧英の4中銀の経済見通しで比較しても英国の見通しが最も強気の見通しとなっています。

 ポンドは1.39台に乗せてきましたが、1.39台乗せは2018年4月以来の水準です。約3年弱ぶりの水準に顔を合わせたことから、ひょっとしたらポンドの動きは2016年のBrexit国民投票以来の下落局面から転じようとしているのかもしれません。ポンド上昇とともにポンド/円でも150円を目指す動きになるのなら、ドル/円をサポート、もしくは円高を抑制する要因になるかもしれません。

 また、2018年12月以来の高値を更新した豪ドル/円も、資源価格の上昇もあり堅調な展開を続けています。ポンド高、豪ドル高はドルが安くなることですが、このドル安の動きよりもクロス円の円安の方が優り、ドル/円をサポートする可能性もあるため、クロス円の動きには目が離せません。

ワクチン普及スピードが為替の変動要因?

 先程、英国と欧州とのワクチン普及スピードの違いから投資家がユーロ売り・ポンド買いを選好しているとの話をしましたが、このワクチン普及に絡む比較は、今後日本とそれ以外との国との比較に及び、新たな為替の変動要因として働くかもしれないため留意する必要がありそうです。

 日本はいよいよ17日からワクチン接種が始まります。まずは医療従事者約4万人を対象に全国の国立病院など100の医療機関でファイザー製のワクチン接種が始まります。3月までに370万人の医療従事者、65歳以上の高齢者3,600万人への接種は4月以降との予定です。

 しかし、日本のワクチン接種が予定より遅れてくると、経済活動の制限が続き、経済回復が他国よりも遅れるとの思惑から円売りに傾くかもしれません。日本は英米に比べると2カ月遅れのスタートですが、このことは既に織り込み済みです。しかし、ワクチンの調達状況、接種会場の確保、接種従事者の確保がひとつでも不足状態になると接種目標は遅れることになり、相場への波乱要因になるかもしれません。EU(欧州連合)のワクチン供給の混乱が日本にも影響してくる可能性もあります。逆に、予想以上の接種スピードだと円買い要因になるかもしれません。

 また、日本のワクチン購入代金は各社からの供給予定3億回分に対して3,000億~4,000億円かかるとの試算があります。これらは対ドルや対ユーロで為替が発生することになり、円安要因になります。ただ、一度に発生するのではなく輸入毎に発生するため、ドル/円を円安に押し上げるというよりも、円高抑制になるような影響ではないかとみています。

 英国は2月中旬までの約1カ月半で1,500万人接種の目標を達成しました。秋までに国内成人のすべてに接種するとジョンソン首相は力強く述べていました。この英国の進捗状況がひとつの目安になるかもしれません。今後、ワクチン普及スピードがドル/円の変動要因として働くのかどうか注目です。

 それからドル/円を押し上げてきたもう一つの要因である米長期金利の動きにも注目です。米10年債利回りは1.3%を超え、1年前の水準になりましたが、ややスピードが速すぎます。2月23日にFRBのパウエル議長の議会証言が予定されています。パウエル議長は、この長期金利の上昇についてどのような見解を示すのでしょうか。現状追認すれば円安維持、スピード感を冷やすような話をすれば長期金利は下落し、円高要因となるため注目です。