親密になりつつある米国株と暗号資産の関係

 最近、個々の米国企業の経営上の決断や新サービスの発表が暗号資産(仮想通貨)の価格形成に影響を及ぼすケースが散見され始めています。そこで今日はこれまでのケースを概観するとともに今後の展開について考えてみたいと思います。

スクエア

 米国の個別企業の発案が暗号資産市場に影響を与えた最初の例は2017年11月にスクエア(ティッカーシンボル:SQ)が個人向けの決済アプリ「スクエア・キャッシュ」上でビットコインを購入・売却できるようにしたことだと思います。

 当時は既に暗号資産の市場が過熱していた関係で、このニュース自体は暗号資産の価格をもう一段押し上げるまでの影響は与えませんでした。

 スクエアは花屋さん、ドーナツ屋さん、大工さんなどの小規模店舗や個人営業主に大変支持されている決済端末であり、カードをスワイプすることでクレジットカードで決済できるのみならず、経理の記帳、給与台帳の計算、運転資金の管理から短期の資金の融資までを提供しています。

 スクエアが処理した決済の総額(GPV)は2020年第3四半期の3カ月間で317億ドル、前年同期比+91%でした。

 2020年第3四半期のキャッシュ・アプリ上でのビットコイン収入は16.3億ドルでした。一方、同時期のビットコイン支出は16.01億ドルでした。つまり既に活発なトレードが行われていることがわかります。

ペイパル

 次に2020年10月にペイパル(ティッカーシンボル:PYPL)が暗号資産サービスに参入すると発表しました。当面、ビットコイン、イーサリアム、ビットコイン・キャッシュ、ライトコインの4種類を扱います。ペイパルのデジタル・ウォレットで直接それらの暗号資産を買い、売り、保有することができます。

 すでにペイパルに口座を持っている米国の顧客が当面、サービスの対象となりますが、ゆくゆくはペイパルのもうひとつの決済アプリであるVenmo(ベンモ)でも暗号資産取引を実装する予定です。

 ペイパルはパクソス・トラスト・カンパニーとパートナーシップを組み、サービスを提供します。パクソス・トラストは米国の当局から監督を受けている暗号資産サービス企業です。パクソスのクリプト・ブローカレージ・サービスを利用します。

 ペイパル自身もニューヨーク州金融サービス局(NYDFS)からビットライセンス(BitLicense)を取得済みです。

 今年のある時点からペイパルの顧客はペイパルが世界に持つ2,600万のマーチャンツのネットワークでモノやサービスを購入する際、そのファンディング・ソースとしてペイパル・デジタルウォレット口座に預けてある暗号資産を利用できるようになります。

 マーチャンツは新たに暗号資産での決済を取り込むためにシステムを統合する、ないしは追加のフィーを払う必要はありません。すべてのトランザクションはその時の「ペイパル・レート」でもってドルなどのフィアット・カレンシーで受渡されます。

スクエア・ペイパルの重要性

 スクエアとペイパルが暗号資産での決済を実装したということは、ゆくゆくお店でモノやサービスを買う際に暗号資産でも支払いができるようになることを意味します。

 これまでの暗号資産の問題点として「実際に暗号資産で代金を受け取ってくれるお店が少ない」という問題があったわけですけれど、スクエア、ペイパルという既に商店主から信頼を置かれている業者が間に立つことで決済のスピードが速まり、リスクが大きく減りました。

 このため暗号資産による支払いが一般化するのは時間の問題だと思います。

 さて、ここまでは決済の話をしたのですけれど、次に企業の財務部における余資の運用という面でも最近重要な動きが相次いで起こっていることを指摘しておきたいと思います。

マイクロストラテジー

 マイクロストラテジー(ティッカーシンボル:MSTR)は企業向けにアナリティクスを提供しているソフトウエア企業です。去年、同社はバランスシート上のキャッシュを銀行に預けていてもほとんどリターンを生まないことにいら立ち、その余資をビットコインに投資することに決めました。

 普通、企業の財務部は短期市場などで保守的に資金を運用するのが常識なので、マイクロストラテジーの決断には批判もたくさん出ました。

テスラ

 ところが先週、テスラ(ティッカーシンボル:TSLA)も余資をビットコインで運用しはじめたと発表しました。既に15億ドルを投じてビットコインのポジションを作ったことが明らかにされました。

 加えてテスラは今後顧客がテスラを買い求める際、暗号資産での支払いも受け付けるとしています。

 これらの発表を、他の企業の財務部長はどのような心境で受け止めたでしょうか?

 もしテスラの試みが成功したなら、後に続く企業が出てくることが予想されます。

 さて、ここまでの話は事業法人が会社の資金繰りの中の余ったキャッシュを暗号資産に振り向けるという話でした。

 これとは別に機関投資家の世界でも、おおきな変化が起きています。

BNYメロン

 BNYメロン(ティッカーシンボル:BK)は米国で最も古い商業銀行・信託銀行です。2月11日、同行が暗号資産の預かりサービスを開始すると発表しました。

 BNYメロンは年金や投信の顧客資産を預かるカストディアン業務で世界最大です。

 通常のカストディアン業務では株券、債券、貴金属、通貨などの財産を年金ファンドや投信会社の代りに保管、記録します。そのメニューに暗号資産が今回加えられたのです。

 年金や投信などの機関投資家は最終顧客に対しその資産をしっかり保全する義務を負っています。

 この義務を履行するにあたり、信頼のおける信託銀行を指名し、顧客の財産を他の人のそれとはシッカリ区分して保管する業務を委託するのです。

 暗号資産の場合、これまで運用の指図者と資産の保管人の区分がつけられないという大問題がありました。この難問が今回解決したのです。

 したがって今後は年金や投信が暗号資産に投資することが一段と加速することが予想されます。

まとめ

 今日見てきたようにいま暗号資産の市場を動かしているのは民間企業の暗号資産への参入のニュースです。それらのニュースは暗号資産の価格にもインパクトがありますし、それを発表した企業の株価へのインパクトもあります。

 つまり暗号資産はこれまでの「一部の暗号資産ファンのオモチャ」のステージから「ビジネスとしての暗号資産」のステージへと駒を進めているのです。