パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言で株価が大きく動いたり、イエレン前議長がバイデン政権の財務長官に就任したりと、注目されることが多いFRB。でも、FRB=米国の中央銀行ではありません。米国の中央銀行制度は歴史や政治を反映して複雑な構造になっています。日本と比較しながら、見ていきましょう。

日本とは異なる米国の中央銀行制度

 日本の中央銀行は日本銀行ですが、米国の中央銀行は連邦準備制度(The Federal Reserve System:FRS)と言います。FED(フェド)という略称で呼ばれることも多く、こちらに馴染みのある方も多いと思います。中央銀行の名称が「銀行(Bank)」ではなく、「制度(System)」というのも不思議ですが、米国の歴史や分権的な統治機構に由来します。

 FRBはFRSを構成する一要素で、中央銀行全体を指すわけではありません。FRBが地区連銀を統括し、金融政策の決定をFOMC(連邦公開市場委員会)で行うという多層構造が米国の中央銀行制度の特徴です。

▼連邦準備制度の構成

(出所)FRB Webサイト

 歴史を振り返ると、ヨーロッパ諸国や日本などでは、まずは比較的自由な形で民間の金融業が起こり、その後、経済・金融の発展に連れて、法律が整備され、中央銀行が誕生します。

 米国も似たようなパターンをたどるのですが、連邦制でさらに州の権限が強く、中央への不信が強いという特徴があるため、地方に配慮した形の中央銀行制度になりました。

 米国の銀行は州法によって設置されていたのですが、1863年の全国通貨法で連邦法による商業銀行が設立されます。連邦法によって設立した民間の商業銀行が銀行券を発行し、その商業銀行を政府が監督するという制度を作りました。

 しかし、それでも、なかなか金融システムは安定せず、1907年の金融恐慌をきっかけに、より機動的に通貨の供給量をコントロールする組織、つまり、中央銀行設立へとかじを切ります。

 その際、どのような組織形態を採るかで激しい議論になります。ニューヨークのような大都市にある大企業や大手金融機関に資金が集中するような制度にするわけにはいかないと、地方の中小企業や農業事業者が中央銀行機能の一極集中を拒みました。

 権力の集中を避けるため、12の地区連銀(連邦準備銀行。Federal Reserve Banks)が各地区を担当することになりました。地区連銀が紙幣や硬貨の発行、決済システムの運営、担当地区の加盟銀行の準備預金を預かるといった中央銀行業務を担う形を取ることになります。地区連銀は民間主導で設立されました。

 それらの地区連銀を統括する組織として、連邦準備理事会(現在の連邦準備制度理事会。The Federal Reserve Board of Governors:FRB)がワシントンに設置されました。こちらは、連邦政府主導による政府組織として設立されます。中央と地方、大企業・大資本家と中小企業、政府と民間の力関係、それぞれの意向を反映した複雑な機構が、米国の連邦準備制度・FRSの特徴です。

▼12の地区連銀の担当地区とFRB

(出所)FRB Webサイト

 日本では、米国を参考に国立銀行条例で民間銀行による銀行券の発行を許可していたのですが、1882年に日本銀行を設立して、中央集権型の制度に移行します。米国の連邦準備制度は1913年の設立なので、日本に比べると、中央銀行ができるまでに長い時間がかかったことになります。

地方分権を反映した制度

 地区連銀はそれぞれが独立した銀行で、各地区連銀に総裁がいます。総裁の決め方も地方分権を反映しています。各地区連銀の理事9名の中から、総裁が選ばれ、FRBが承認するのですが、理事の選び方が地方の意向を反映するような仕組みになっています。

 9名の理事のうち、3名はFRSの加盟銀行の役員などから加盟銀行による投票で選ばれます。加盟銀行は資本規模に比例する形で、地区連銀に出資しています。出資者・株主なので、役員を地区連銀の理事として送り込むというわけです。ただし、議決権は出資額に関わらず、一票ずつ。大手行が有利にならないようにけん制する仕組みが取られています。

 残る6名は加盟銀行の役員以外から選ばれますが、3名は加盟銀行による投票、3名はFRBによる指名です。FRBが指名した3名には、議長、副議長が含まれます。

 理事9名中6名は加盟銀行の投票で選ばれ、3名はFRBの指名(議長、副議長を含む)という形で、政府の関与が大きくなることを抑えています。こうして選ばれた9名の理事が、互選で総裁と第一副総裁を選び、FRBが承認します。

 地区連銀は中央銀行としての銀行業務のほか、地区連銀景況報告書を作成しています。年8回開催される連邦公開市場委員会(Federal Open Market Committee:FOMC)の2週間前の水曜日に公表され、政策判断の材料になる注目度の高い資料です。報告書の表紙の色からベージュブックと呼ばれています。

 ちなみに、日本銀行も、ベージュブックに倣って、年4回、地域経済報告を作成しています。ベージュブックのように知名度が上がり、多くの人に読まれるよう、先にさくらレポートの愛称を決め、それに合わせて、表紙の色を淡いピンク(桜色)にしました(Wikipediaなどでは、表紙からさくらレポートとも呼ばれるとありますが、決めた順番としては逆です)。

 さくらレポートは支店長会議に向けて収集された情報で作成されているため、年8回開催される金融政策決定会合とは紐づいていません。年々、注目度が高まっている資料ではありますが、こうした点からも中央集権型のシステムをとる日本銀行と地方分権型のシステムをとるFRSの違いが見て取れるかと思います。

FRBやFOMCの機能

 地区連銀を統括するFRBは政府機関として創設されました。実は、FRBのサイトのドメインは.gov、地区連銀のサイトは.orgで終わっていたりと、細かいところにも違いが反映されています。

 中央銀行は公的な役割を担いながらも、政府とは独立した銀行なので、日本銀行のサイトはor.jp、英国の中央銀行であるイングランド銀行のサイトはco.ukという具合に、政府機関ではないことを表すようにしている中央銀行もあります。

 FRBは7名の理事から成るのですが、現在は6名。空席が生じています。理事の任期は14年。大統領の指名と上院の承認が必要です。

 上院が要求する学識・実務能力などのハードルが高く、トランプ前大統領が指名した人物が上院の承認を得られないこともありました。政権交代前の昨年12月にようやくウォラー氏が承認され、席を1つ空けたまま、バイデン大統領が就任しました。

 FRBの議長、副議長は理事でもあるのですが、こちらの任期は4年。大統領の指名と上院の承認が必要です。パウエル議長は2018年2月に就任したので、任期は2022年2月。議長として再任されるかどうかが注目されます。イエレン財務長官はトランプ政権下でFRB議長に再任されず、バイデン政権の誕生で政策実務の表舞台に返り咲きました。

 クラリダ副議長の任期は2022年1月、クオールズ副議長(銀行監督担当)の任期は今年10月です。議長、副議長の再任の有無、後任候補をめぐって、動きがある年になります。

 FRBの理事はFOMCのメンバーとして、金融政策についてどのようなスタンスをとるのかに注目が集まりますが、FRBの仕事はそれだけではありません。金融・経済に関する調査や地区連銀や金融機関の規制監督、金融に関わる消費者保護など多岐に及び、約2,800名の職員を有します。地区連銀の職員を含めたFRS全体では2万3,000人近い大所帯です。

 昨年の大統領選では、バイデン大統領がFRBに格差是正、特に、人種間の格差の是正を求めたこともあり、各国の中央銀行よりも幅広い役割を担うことになりそうです。元々、物価の安定、信用秩序の維持という中央銀行の共通の使命に加えて、雇用の最大化という課題もあったのがFRBですので、政策目標がさらに増えることになります。

 これまで、FRSを構成する地区連銀、FRBを中心に見てきました。最後はFOMC(連邦公開市場委員会)。日本で例えるなら、金融政策決定会合にあたりますが、地区連銀の総裁がFOMCのメンバーに含まれているという特徴があります。FRBの議長が委員長、ニューヨーク連銀の総裁が副委員長を務めます。他のメンバーは、FRBの理事、そして、ニューヨーク以外の11の地区連銀を4つのグループに分け、1年ずつの持ち回りで地区連銀の総裁が務めます。

 FOMCの定員は12名ですが、FRB理事に空席があるので、現在のメンバーは11名です。来年以降の持ち回りの地区連銀についても、FRBのサイトに記載されています。

 大統領選では、米国の分断が明らかになり、経済格差や地域ごとの政治スタンスの違いが浮き彫りになりました。そうした状況で多様性の重要さや格差是正を訴えるバイデン大統領が誕生し、FRBでは議長・副議長の任期が近づいています。地区連銀の総裁は管轄地域の加盟銀行の代表という性格も持ちます。

 米国の金融政策や金融規制は世界に影響します。分権型で複雑なFRSを理解することは、市場の流れをつかむ一助になるでしょう。