TINA(there is no alternative ほかに選択肢がない)がもたらす市場の狂気

 ウォールストリートジャーナルで報道されているように、ハイテク株からテスラ株、ビットコインに至るまで、すべての相場の急上昇は、ウォール街で「TINA」と呼ばれるものの兆候を示している。TINAとは「there is no alternative(ほかに選択肢がない)」だ。

 今のマーケットは、ゲームストップ株を巡る話題で持ちきりである。個人投資家が束になってウォール街の空売りファンドを打ち負かしたことから「金融版アラブの春」とも言われている。しかし「アラブの春」が結局、一過性の盛り上がりで終わってしまったように、「金融版アラブの春」の末路も美しいものにはならないと思われる。

 ゲームストップの株価は乱高下しており、SNSでの盛り上がりの勢いのままゲームストップ株を高値で購入した個人投資家の損失が拡大することが懸念される。今後、個人投資家がSNS上で買いあおりをしたことが相場操縦になる可能性もあるとしてSEC(米証券取引委員会)が調査に入ることも伝えられている。空売りや貸株がなかったら、市場に流動性がなくなってしまう。買いがよくて売りが悪いなどという考え方は、相場のイロハを分かっていない人が言うことだ。

 ウォール街の問題は、利益は自分たちで総取り、失敗して損が出ると税金で救済させることである。いわゆる、「やったもの勝ち」の世界である。金融危機(リーマンショック)で監獄に行った人間は一人もいない。「やったもの勝ち」のインセンティブがある以上、マーケットは腐敗しバブルするのは必然であろう。そして、またバブル崩壊の救済に税金が投入される。

「いつの時代にも、その時代ならではの愚行が見られる。それは陰謀や策略、あるいは途方もない空想となり、利欲、刺激を求める気持ち、単に他人と同じことをしていたいという気持ちのいずれかが、さらにそれに拍車を掛ける」(『狂気とバブル』 チャールズ・マッケイ)

ゲームストップ(日足)

出所:石原順

 個人投資家がバブル相場に注ぎ込んでいいお金は、失っていいお金だけである。ことさらに、そう書いておく。

 楽天証券新春セミナーでは、ロビンフッドとHFTやダークプールのカラクリを説明した。ウォール街や製薬会社の利益相反スキームにうるさいエリザベス・ウォーレンはSECに何度も書簡を送りつけている。手数料ゼロ(フリーランチ)というのは、それなりの理由があるのだ。

2021年の相場展望と実践的トレード技術

出所:YouTube

 掲示板を使った個人投資家の集団売買が、政治家まで巻き込んだ大騒動となっているが、新規個人投資家の参入が増え、株式市場が射幸心に支配されると、相場のノイズとボラティリティは増大する。流動性のない株に買いや売りが瞬時に殺到すれば大きく動くのは、相場のイロハである。

 投資をする前に、以下の2つの質問の答えを知っておく必要がある。

1 自分の考えが正しければ、どのくらいの価格で売るか、利益を取るか?
2 間違っていたらどこで売るのか?

「希望」と「欲」は投資のプロセスではない。

「天体の動きは計算できるが、人の狂気は計算できない」という南海泡沫事件のニュートンの教訓

 過去これまで何度も経験してきたことであるが、市場の狂気は時に人をとりこにしてしまう。近代物理学の父祖の一人であるアイザック・ニュートンは世界三大バブルの一つと言われている英国の南海泡沫事件で現在の価値にして約300万ドルに相当する額を失ったと言われている。1720年イギリス政府が売り出した「南海会社」の株式が爆発的な人気を集め、この動きに乗じようと、実態のない会社、つまり「泡沫会社」(Bubble company)の株価も急騰し、株式市場は狂乱状態となった。南海泡沫事件はこの投機ブームによる株価の急騰と暴落のことで、泡沫=バブルの語源となった出来事である。

 天才学者ニュートンは南海会社株に初期段階で投資を行っていた。ニュートンは市場が投機の熱狂の初期段階にいることに気付き、それが最終的には悪い結末を迎えることを悟っていたため、早めに利益を得て自分の持ち株を清算し大金を稼いだ。

 しかし、彼が市場から退場したのち、南海会社株は歴史上最も伝説的な上昇を経験することになる。バブルが膨らみ続けるのを見ていたニュートンは、いてもたってもいられず再び株式市場に飛び込んだ。しかし残念ながら、それが株価のピークだった。株価が急落する中で、やってはいけない「ナンピン買い」まで行っていた。

南海会社の株価の推移(1718年12月から1721年12月まで)

出所:ゼロヘッジ・マーク・ファーバー・ジェレミー・グランサム

 さらに注目すべきは、ニュートンは再エントリーした際、ほぼすべての手持ち資産を南海会社株に注ぎ込んだことである。ニュートンといえば、造幣局長官も務めており、金融や市場に精通している人物であった。しかしそうした人物でもバブルに踊り、バブルに翻弄(ほんろう)されてしまうのだ。南海バブルで大きな損失を負ったニュートンは次のように言った。

「天体の動きは計算できるが、人の狂気は計算できない」

「信用拡大でもたらされた好景気は、結局のところ崩壊するのを避ける手段がない。残された選択肢は、さらなる信用拡大を自ら断念した結果、すぐに訪れる危機か、ツケを積み上げた結果、いずれ訪れる通貨制度を舞い込んだ大惨事かだけである」(ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス)

 景気は悪いが、出口のない中央銀行によって株式市場だけが国家公認の賭博場として賑わっている。ばら撒(ま)いたカネはいずれインフレ、増税、通貨切下げなどで減価していくだろう。一番怖いのは、新型コロナの終息である。コロナバブルの崩壊(巻き戻し)と、「当てが外れる」であろうアフター・コロナ経済への失望が懸念される。

 カネをばら撒くより、減税をやって消費を刺激し、企業の利益も増え税収も増えていく好循環に持っていくべきなのである。経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは政府から十分な支援を得てしまえば資本主義は停滞すると信じていた。

 今回のゲームストップ株騒動はまさに、市場の高値に近づき始めたときによく起きる、泡のようなものだ。しかし、流動性がある間、バリュエーションが上昇している間は、これらは天井のタイミングツールとしては有用ではない。給付金と財政出動バブルの状況はしばらく続くと思われ、第1四半期末までは続くのではないかと思われる。

為替市場のシーズナリーサイクル

 筆者は相場を見るうえで、「シーズナリーサイクル」を重視している。

 為替市場ではドル安が一服するのに対して、欧州通貨が軟調展開となっている。シーズナリーサイクルを見てみると、1月から3月いっぱいまでは季節的にはドル高、ユーロ軟調、ポンドはレンジとなる傾向が見られる。

ドルインデックス先物のシーズナリーサイクル

出所:エクイティクロック

 チャートを確認してみよう。ドル/円は日足で買いトレンド相場となっている。

ドル/円(日足)

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 ユーロ/ドルの日足では標準偏差とADXが低い位置から上がりかけており、まだ明確ではないものの売りトレンド入りとなりそうだ。

ユーロ/ドル(日足)

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

 ポンド/ドルは日足でレンジながらも緩やかな上昇が続いている。

ポンド/ドル(日足)順張りの標準偏差ボラティリティトレードモデル

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

2月3日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』

 2月3日のラジオNIKKEI『楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー』は、武田則孝さん(楽天証券FXディーリング部)をゲストにお招きして、「分散投資とインフレヘッジの方法」、「南海泡沫事件とゲームストップ相場」、「注目通貨と株価指数CFDのトレンド分析」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。

日経平均CFD(日足)

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター

NYダウCFD(日足)

ボラティリティーフォロートレードモデル(赤↑=買いシグナル・黄↓=売りシグナル)
出所:MT4・石原順インディケーター

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

2月3日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube