なぜ?暗号資産をキャッシュに換えなくても「売却」したことになる

 2020年12月に国税庁から出された「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」、もうご覧になりましたか?

 前回に引き続き、今回も暗号資産(仮想通貨)の税金の基礎知識をお伝えします。

 まずは、知らない人は「えっ、売ってないのに税金がかかるの?」と驚いてしまうかもしれない話からです。

 暗号資産を売却して換金して利益が出たら、これに課税されるのは当たり前の話です。

 では、次のようなケースはどうでしょうか。

課税される?されない?暗号資産
(1) ビットコインで商品を買える店があったので、そこで10万円の商品を0.03ビットコインで支払って買った
(2) 0.5ビットコインを持っていたが、それをイーサリアムに乗り換えた(交換した)

 実は(1)(2)のいずれも、ビットコインを「売却したこと」になるのです。もし、過去に安く買えた暗号資産を使ってこのような行為をした場合は、思わぬうちに多額の税金がかかることも考えられますから、十分注意してください。

買った価格より安く売ったはずなのに?税金がかかる仕組み

 次にこんなケースも、よくあるのではないでしょうか。

(1) 2020年3月に、1ビットコインを1BTC=80万円で購入
(2) 2020年12月に、0.1ビットコインを1BTC=300万円で購入
(3) (2)で0.1ビットコインを買った3日後に、1BTC=250万円で売却

 要は「もっと上がる!」と思って追加買いしたものの、急落したので慌てて売却した、という状況です。

 通常の感覚では、0.1ビットコインを30万円で買い、それをすぐ25万円で売ったので、5万円の損失が生じた、と考えますよね。

 ところが、このケースでは、2020年3月に1ビットコインを80万円というかなり安い金額で買っているのです。これ以外に2020年の売買はないとすると、合計1.1ビットコインを総額110万円で年間に購入していますから、0.1ビットコインを売ったとき、取得費は10万円と計算されます。そしてこれを25万円で売ったわけですから15万円の利益が生じていることになるのです。

 売却の際は、過去の取得価格をならして取得費を計算し、利益を出すことになりますので、自分自身の感覚とは異なる利益の発生には十分気を付けてくださいね。

※表中の(2)、(3)の1BTCの価格が公開スタート時に誤っておりました。お詫びして訂正いたします(トウシル編集チーム)。

利益の計算を総平均法と移動平均法から選択できる

 暗号資産を売っていくら利益が出たかは、自分で計算しなければなりません。上場株式のように、特定口座といった便利なものは今のところ存在しません。

 実は、利益の計算方法(厳密にいえば、売却した暗号資産を取得した費用の計算方法)には、「総平均法」と「移動平均法」の二つがあり、どちらかを選択することができます。

 個人投資家の場合、税務署に何も届け出しなければ自動的に総平均法を使うことになります。もし移動平均法を使いたいのであれば、定められた期日までに税務署に届出書を提出する必要があります。

 この総平均法と移動平均法、具体的な計算については冒頭に紹介した国税庁ウェブサイトのFAQに載っていますので、そちらをご覧ください。

 総平均法と移動平均法の何が違うかといえば、総平均法は1年が終わってみないといくら利益が生じたかが計算できないが、移動平均法は売却の都度利益が計算できる、という点が大きな違いです。

 もし、暗号資産の利益は移動平均法で計算したい、という方は、先ほどの国税庁ウェブサイトにも掲載されている、「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」もしくは「所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書」を提出してください。提出期限は両者で異なりますので、ご注意ください。

「税金高いから売らない!」は正しいのか?

 今後は分かりませんが、今のところは総合課税で課税されるため、利益に対して最大で50%超の税金がかかってしまうのが暗号資産の悩ましいところです。

 数年前の2017年、ビットコインをはじめとした暗号資産が急騰し、「ビットコイン・バブル」が起こりました。その時に多くの個人投資家が多額の含み益を獲得しましたが、中には「今売却すると税金が50%取られる。それならば無理に売らずに持ち続けて、税金が分離課税で安くなるのを待とう」という考えの投資家もいました。

 その結果、2018年には無残にバブル崩壊、50%の税金を取られてでも売却しておいた方がよかった…となるかと思われましたが、その後、2020年春のコロナ・ショック後から再び息を吹き返したのです。結果的に今のところ、税金をたくさん取られるのはもったいないから売らない、という選択肢が正しかったことにはなっています。

 でも筆者の感覚からすれば、税金がもったいないから、売るべきタイミングで売らない、というのはあまり賛成できません。同じ値動きであっても、税金が高いから売らない、税金が安ければ売る、というのは、理屈として違和感があります。

 とはいえ、筆者自身、2018年よりはるか前、マウントゴックスが破たんしたときに暗号資産バブルは終わったと思っていたのが、2017年に超絶なバブルが到来、さらには2020年から今に至るまで、バブル高値をさらに超えてくるとは全く予想だにしませんでした。

 結局、いくら予想したところで株式投資以上に読めないのが暗号資産への投資。税金の基本的な取り扱いを知った上で、税金とうまく付き合いながら楽しんでいくのがちょうどよいのかもしれませんね。