過去3カ月の推移と今回の予想値
1月雇用統計の予想
今週2月5日にBLS(米労働省労働統計局)が最新の雇用統計を発表します。失業率は6.7%で横ばい、前回マイナスに落ち込んだ非農業部門雇用者数は5.0万人増加の予想。平均労働賃金は前月比0.3%増、前年比5.0%増の予想です。
12月雇用統計のレビュー
先月1月8日に発表された12月の雇用統計では、NFP(非農業部門雇用者数)が14.0万人減少しました。特に雇用減が目立ったのがレジャーや接客業、そして教育部門。BLSによると、大幅な雇用減少は新型コロナ感染者拡大とそれを食い止める努力を反映した結果ということです。
12月の失業率は6.7%、失業者は1,070万人で前月から横ばいでした。失業率は4月から8ポイント低下しましたが、コロナ拡大前の2月時点(失業率3.5%、失業者580万人)に比べると、まだ2倍の開きがあります。
失業者のうち、一時解雇者(レイオフ)は27万7,000人増えて300万人。4月時点の1,800万人に比べると大幅に減少しましたが、2月時点よりまだ230万人多い。10月の永続解雇者(パーマネント・レイオフ)は34万8,000人減り340万人になりましたが、2月時点に比べるとまだ210万人多い。10月の労働参加率は61.5%で前月比横ばい。2月時点に比べると1.8ポイント下がりましたが、コロナ禍のなかでそれほど低下しなかったのは数少ない好材料でした。
「チャーリーとチョコレート工場」
チャーリーの父親であるバケット氏は、歯磨き粉工場でチューブにキャップを取りつける仕事をしていました。長時間労働で低賃金のため、生活は貧しいままでした。あるとき、ゴールデンチケット騒動が起きてチョコの売上が大きく増え、それと一緒に虫歯の子供も増えたことから、歯磨き粉工場は大もうけしました。ところが工場はそのお金で機械を導入したので、バケット氏はクビになってしまいます。
米国の製造業生産高は好調です。すでにコロナ前の水準に戻っています。もっとも、これは米国に限らず世界的な傾向であり、日本においても家電売上や巣ごもり用の家具の需要で製造業は堅調です。
ところが12月の米雇用統計を見ると、非農業部門雇用者数は▲14万人。雇用は減っているのです。最近の新規失業保険の申請件数も80万件台で高止まりです。
雇用減と生産高増加の同時進行は、米経済が「雇用なき回復」へ進んでいることを示しています。コロナとともに解消されるとは考えられず、米雇用市場にとっての長期的な問題ともいえます。
新型コロナが引き起こすディスラプション(先端技術から生まれた新サービスが既存の枠組みを壊す創造的破壊)によってロボット工学やオートメ化技術が進化しています。技術進歩による生産性向上の期待が高まるほど、「雇用なき回復」が加速します。
コロナによる収益ダメージが大きい業種のロボット導入率が高くなっています。しかし製造業全体でも2021年末の導入率は2015年の2倍まで増えると予想されています。
その結果起きていることは、バケット氏のような低熟練(スキル)労働者のリストラ加速です。その一方で、政府の手厚い給付金を使ってマネーゲームに熱狂する層が増え、実体経済とかい離した株価の高騰が続く。格差社会が広がっています。
「ディスラプション」と「摩擦的・構造的失業」
雇用と経済には3種類あります。雇用が好調な分野(家電など)、弱いけれども回復が期待できる分野(外食など)、そして構造的に衰退していく分野(小売の一部など)。
ある業種にとっては、ロックダウン(移動制限)は「お盆休み」と同じで、生産は一時的にストップするが、休みが終わった途端何事もなかったかのように元に戻ることができます。しかし、ある業種は、ロックダウンが終わるまで持ちこたえることができずに消えてしまいます。
米国の労働市場は、2020年の5月から8月に見られたような急激な回復期は終了しました。しかし本格的な回復はまだ先。その中間地帯に位置するのが現在の雇用市場です。今はどうなっていて、これからどちらに進むのか。その重要なヒントをくれるのが今回の雇用統計です。
企業の求める労働者の知識・技能と個々の労働者のもつ知識・技能とのミスマッチなどに起因する失業は「摩擦的・構造的失業」と呼ばれ、景気変動によって生じる「需要不足失業」と区別されます。ディスラプションによって、摩擦的・構造的失業は増加しています。雇用市場における政治の課題は、摩擦的失業をいかに解決していくかにあります。
歯磨き粉工場をクビになったバケット氏は、その後、工場の機械を修理する仕事につくことができ、暮らしは良くなりました。めでたし、めでたし。
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