今年は、「脱炭素」が「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と並び、株式市場の重要テーマになると考えています。「脱炭素」「水素エネルギー」に関連するレポートを、不定期でお届けします。

 今日は、以下のレポートの続編です。
2020年12月30日:2021年は水素エネルギー元年に。トヨタ「MIRAI」に期待

脱炭素は可能なはず、地球はエネルギーであふれている

 世界各国が、脱炭素【注】の目標を掲げる時代となりました。菅首相も「2050年までに脱炭素を実現」と、高い目標を掲げました。化石燃料を大量に消費して生活している私たちが、たったの30年でそのような高い目標を実現できるのでしょうか?

【注】脱炭素
「カーボンフリー(炭素なし)」ともいいます。化石燃料(主成分は炭素)を燃やす(酸素と結合させる)と、CO2(二酸化炭素)が排出されますが、二酸化炭素の排出を実質ゼロにすることを「脱炭素」と呼ぶのが一般的です。実質ゼロとは、一定量の排出はあるが、それと同量の二酸化炭素を吸着して地中に封じ込めるなどの方法で、実質的な排出をゼロにすることです。

 私は、2050年までに、世界全体で脱炭素を実現することも、人類が本気を出せば可能と考えています。なぜならば、地球は外も内も、莫大な自然エネルギーで満ちあふれているからです。そのほんの一部だけ使いこなせば、人類に必要なエネルギーなど簡単にまかなえます。

 人類の持つ技術開発力をフル動員すれば、2050年までに自然エネルギー主体のエネルギー循環社会は実現可能と思います。

【1】太陽から降り注ぐエネルギーの活用

 地球外から、毎日、莫大な太陽エネルギーが地球に降り注いでいます。そのエネルギーはほとんど地球に留まらず、夜になると宇宙に放出されます。そのほんの一部を捉えて電気など人類が使いやすいエネルギーに変換できれば、化石燃料を燃やす必要はなくなります。

 ただし、太陽エネルギーの活用には1つ重大な問題があります。太陽エネルギーが、広く薄く地球全体にばらまかれていることです。エネルギーの総量は莫大でも、1カ所にまとまっていないので、効率的に収集することができません。うまくエネルギーを集約する工夫が必要です。

 水力・風力などを使った発電は、もとをただせば、ほとんどすべて太陽由来のエネルギーです。広く薄く分散した太陽由来のエネルギーが、水や風の流れに変わり特定箇所に集中するのを、うまく捉えて発電するものです。

 ただし、近年、太陽由来のエネルギーを活用する発電のコスト低下が急速に進んでいます。水力発電は、もともと低コストで、古くから幅広く使われてきました。風力発電は、洋上風力にすることで規模を拡大し、コストを下げています。

 太陽光発電も、メガソーラーのように規模を拡大することで、発電コストを低下させ、補助金なしでも競争力のある「グリッド・パリティ」を達成しつつあります。太陽熱発電も有望です。

 これからも、太陽由来のエネルギーを、低コストで大量にうまく捉えていく方法がどんどん開発されていくと思います。

【2】地球内部のエネルギーを活用

 地球内部にも、莫大なエネルギーが存在します。地下2,000~5,000メートル掘り進むと、摂氏200~300度の高温帯に達します。そこに水を送り込み、水蒸気にしてタービンを回し、発電するという方法も開発中です。

 それが、「高温岩体発電」と呼ばれる発電方法です。まだ技術的なハードルがたくさんあり、すぐに大規模電源とはなりません。今後の技術開発に期待したいところです。

 ところで、それとは別に、早くから活用されているのが、熱水だまりを使う地熱発電です。熱水だまりとは、火山などによって水蒸気に変わった地下水が、堅い岩盤によって地下に閉じ込められている場所のことです。

 大規模な熱水だまりが見つかれば、そこから水蒸気を取り出してタービンをまわすだけで、低コストの電気が得られます。出力が安定しているので、ベース電源として使えます。

 ただし、熱水だまりを活用する地熱発電は、できる国が限られます。地熱資源(地熱発電に使える熱水だまり)を持つ国が偏っているからです(日本、インドネシア、米国は、3大地熱資源国と言われます)。

 しかも、熱水だまりを活用するだけならば、永続性のある電源とはなりません。もし、熱水だまりを開発してどんどん使ってしまったら、いずれ地熱資源は枯渇します。

 地中のエネルギーを永遠に使い続けるためには、もっと深くまで掘り進んで、高温岩体発電を実現するしかありません。高温岩体発電ならば、理論上、地球のどこでもできるし、枯渇することなく使い続けることができる電源となります。

脱炭素をはばむ、3つの障害

 2050年までの脱炭素は、人類が本気で取り組めば実現可能と考えています。ただし、実際には実現できないかもしれません。

 最大のリスクは、人類が本気で取り組まないかもしれないリスクです。その他テクニカルな問題も含め、脱炭素を阻む、以下3つの障害があります。

【1】地球上に安価な化石燃料がまだまだ大量にある問題

 安価な化石燃料が莫大に存在することが、自然エネルギー開発を遅らせる最大の障害となっています。トランプ元大統領のように、自然エネルギーを完全否定して、化石燃料をどんどん開発して使い続ければ良いと考えている人はたくさんいます。

 化石燃料を使う企業にペナルティを課し、自然エネルギーを使う企業にプレミアムを支払う仕組みを構築し、定着させなければ、自然エネルギーの活用は進みません。それを世界中で徹底できないと、脱炭素は進まないかもしれません。

 原油が枯渇しそうになって、原油価格が急騰すれば、脱炭素の技術開発は文句なく進むでしょう。ところが、現実には地球上には安価な化石燃料が大量に存在します。

 可採埋蔵量は、これからもどんどん増えるでしょう。技術革新によって、これまで採掘できなかった深海や、シェール層などからも大量の原油やガスが採れるようになったからです。

 未開発のシェール層や、日本近海のメタンハイドレ-ド(燃える氷)など未開発の化石燃料は、莫大に存在します。化石燃料が枯渇しそうになることは、当分ないと思います。

高い流通コストと環境問題

【2】流通コストが極めて高い問題

 自然エネルギーによる発電コストはどんどん低下し、発電コストだけで見ると、今や競争力のある電源となりつつあります。ところが、流通コストがきわめて高い問題が残っています。流通コストまで含めて低コストとならなければ、化石燃料を本格的に代替することはできません。

 もし太陽光パネルをアフリカの砂漠に大量に敷き詰めれば、低コストの電気が大量に得られます。ところが、それを使う術がありません。作られた電気を都市部に運ぶのに莫大なコストがかかるからです。

 仮に、送電線網を張り巡らせて、砂漠の電気を都市まで持ってきても、需給調整がうまくいきません。電気は保存ができない(蓄電池で保存できる量は限られる)ので、発電と電力消費を常に同時同量としなければならない問題があります。需給調整に失敗すると、しばしば停電する問題に苦しめられます。

 これを解決するのが、水素の活用と考えられています。自然エネルギーで作る電気で水を電気分解して得られる水素を、運搬・保存する方法です。電気が必要になれば、貯蔵してある水素を燃やして発電すれば良く、排出されるのは水だけです。

 水素エネルギー活用については、別の機会にさらに詳しく解説します。

【3】環境問題

 持続可能なエネルギー循環社会を作るために進める自然エネルギーの活用ですが、皮肉なことに、必ず環境問題に突き当たります。

 風力発電には、重低音公害の問題があります。洋上風力も、漁業資源への悪影響が心配されます。地熱発電も、高温岩体発電も、地盤沈下や地下水への悪影響などの環境問題をクリアできないと前へ進めません。

 自然エネルギーで発電を行う地域として人口過疎地が選ばれることが多いが、それでも人がまったく住んでいない場所は、地球上にありません。自然エネルギーの活用は、環境問題をクリアしながら進めることが求められます。

脱炭素を進める前に、天然ガス・LNGの効率利用を進める必要がある

 脱炭素を進めるには、最終的には自然エネルギーを拡大する必要がありますが、その前にやらなければならないことがあります。天然ガス、LNG(液化天然ガス)の効率的な活用です。

【1】自然エネルギーは気まぐれ、調整電源としてガス火力が必須

 自然エネルギー発電の多くは、気まぐれです。太陽光や風力はその典型です。突然大量に発電されたり、まったく発電がなくなったりします。

 電気は基本的には保存ができないため、需給調整が難しく、自然エネルギーが電源に占める比率が高くなると、無駄に電気を捨てる問題や停電が頻発する問題が起きます。

 常時、同時同量(発電量と電力使用量を一致させる)を実現するには、自然エネルギーの発電量の変化に合わせて、発電量を増やしたり減らしたりする調整電源が必要です。調整電源として大規模に活用可能なのは、現時点でガス火力発電しかありません。

 水素活用で需給調整するには、まだ長い年月がかかります。当面は、化石燃料である天然ガスを使わないと、自然エネルギーの活用が進まないという現実に、人類はきちんと向き合う必要があります。

【2】石炭火力を減らすには、まずガス火力を増やす必要がある

 地球規模で脱炭素を進めるならば、経済規模が極めて大きくなった中国やインドが電源の大部分を石炭火力に頼っている問題を、看過できません。

 石炭火力に頼り切っている国で、いきなり自然エネルギー発電を拡大することはできません。石炭火力は出力調整に長い時間がかかるので、調整電力とはならず、ベース電源(昼夜を通じて常時同じ出力で発電を続ける電源)にしかならないからです。

 自然エネルギーの活用を増やすならば、まず、調整電源としてガス火力を拡大する必要があります。

 中国やインドで、石炭火力発電をガス火力発電に置き換えていくことが、脱炭素を世界規模で進めるために必要です。今の地球上には、まだ活用されずに捨てられている天然ガスが大量にあります。

 中東の油田では、原油を採掘する際に、出てくる天然ガスを今でも大量に燃やして捨てています。それを、すべてLNGに変えて、もれなく活用することが、地球環境にとって重要です。

 油田で出てくる天然ガスを、パイプラインで運べる範囲だけで使うのでは、もれなく活用することはできません。LNGに変換して世界中に運ぶ必要があります。そこで、LNGおよびガス火力発電で高い技術を持つ日本企業に、大いに活躍の場があるはずです。

【3】化石燃料はすべて悪と決めつける風潮が、LNG活用の障害となっている

 LNGを積極的に活用しているのは、世界でも日本や韓国などに限られます。油田で天然ガスが燃やして捨てられている問題に目をつぶり、世界ではLNGの活用が遅々として進みません。ガス火力もLNGも含めて、化石燃料を使うことはすべて悪と決めつける風潮があるからです。

 世界に広がるESG投資では、「化石燃料はすべて悪、電気や自然エネルギーの活用だけ善」とされていますが、現実的でありません。天然ガス・LNGの活用なしに、自然エネルギーの推進すら行えない現実を無視していると思います。

原発には期待できない

 脱炭素を進めるために、原子力発電を推進する案もあります。私は、その考えに同意しません。安全性の問題が残ることもありますが、それだけではありません。原発は、そもそも経済的に割に合わない電源と考えています。

 安全対策コスト、廃炉コスト、使用済み核燃料を何万年も保管するコストなどをすべて勘案すると、コストが高すぎて、経済的に成り立たないと判断しています。これについては、別の機会に詳しくレポートします。