10月22日に迫った衆議院選挙は、政策競争と政治の説明責任が問われる新たな時代の幕開けとなるだろう。小池都知事が政治的影響力と反対勢力の面でかつて想像できなかったような中心的存在に躍り出れば、当社が予測するように構造改革全般、特にサプライサイド改革の流れは加速していくとみられる。影響力という点では、小池氏は都知事を続投する意向を固めている。
 また、あくまでも直近の世論調査結果が正しいとの仮定に基づく見方だが、小池氏は国会で自民党に次ぐ第二党のリーダーになる可能性がある。企業優遇、起業家重視、さらには消費者主導の成長政策を標榜する政治家としての小池氏の長年にわたる実績、また東京が日本経済の中心(GDPの1/3強を生み出している)であることを考えると、地方の成長戦略を阻み、構造改革を遂行していないとの批判が衆院選の直後から政府に集中するだろう。地方の自主性を阻む中央政府の規則・規制と地方の「やる気」のせめぎ合いが、今後の日本の政治と政策決定において注視すべき重要なダイナミクスとなろう。

 無論、この新たな原動力が今後どのように展開していくかは見守る必要があるが、カギを握るのは選挙後の国会の勢力バランスである。自民党の支配力が弱まるほど、サプライサイド改革の動きは勢いを増すはずである。国政における小池知事のパートナーは旧民主党で代表を務めた前原氏になる公算が大きいが、同氏は筋金入りの規制緩和推進主義者である。羽田空港の国際便発着を認めたのは、民主党の鳩山政権時代に国土交通大臣だった前原氏である。

 国際空港としての地位が確立していた成田空港に対する配慮から、自民党議員が長きにわたって放置しておいた課題に前原氏は数週間で答えを出した。羽田空港の国際線開通がアジアそして世界への扉を再び開く端緒となり、莫大な経済効果をもたらしたことに疑問の余地はほとんどない。

 希望の党(小池氏)と民進党(前原氏)の合流の際、従来型の考えに固執する議員や空論に終始するリベラル派を排したことは新たな野党勢力が掲げるサプライサイド改革にとって追い風となるだろう。

増税と原発

 今回の選挙に関する論調はやや慎重との印象を受ける。メディアは消費税増税と原発問題というおなじみのテーマを取り上げ、安倍首相は増税と原発を支持、小池氏はいずれも反対と報じることで満足している。

 両者の違いは政策に対する信念というよりそれぞれの個性を反映していると思われる。安倍首相は権力を持つ官僚と対決するリーダー(前回、財務省を振り切って増税を延期)から従来型の自民党「インサイダー」に変節したと報道されている。小池氏は挑戦者そしてアウトサイダーとして、まさしくかつての安倍首相と同じ立場にあるという見方だ。 

 こうした論調に何ら誤りはないが、両氏が表明している今後の政策をそのまま鵜呑みにすることは避けるべきだろう。消費税増税については2018年12月に最終決定を下せばよく、反故にするなり見直すなり考える時間は十分にある。すでに、菅官房長官は「その時の経済状況に応じて…」という内容の発言をし、柔軟な姿勢を匂わせている。

 一方、小池氏が打ち出している原発ゼロ政策も同様に現実を見据えた内容で、原発を段階的に廃止していき、長い時間をかけて2030年までに全廃を目指すとしている。福島の原発事故の後、すべての原子炉が停止されたが再稼働を開始したのは5基にすぎず、43基はまだ停止中である。日本のエネルギー供給に占める原子力発電の比率は2%に満たないため、今のところ原発は差し迫った問題ではない。

日銀総裁を凌ぐフィスカル・ドミナンス

 同様に、今回選挙の結果が金融政策に影響を及ぼすとは考えにくい。マクロ経済政策の面で、安倍首相と小池知事はいずれも徹底的な現実路線をとっているからである。日本では、金融政策と財政政策は事実上、同一のものと考えられており、「フィスカル・ドミナンス(財政による支配)」が円滑に機能している。多くの政策アドバイザーにとって、中央銀行の独立性を重視するかつての政策モデルに後戻りする差し迫った理由はないようだ。

 仮にあったとしても、「かつてない金融政策」は新たなスタンダードの始まりになる、という政治家の自負心は強まっている(「チーム安倍」は基礎的財政収支の黒字化目標の達成延期をあっさりと決定した。また、金融緩和策の維持を決めた9月の日銀の金融政策決定会合の投票結果も同様で、反対票を投じた一人の委員が更なる緩和を主張していた)。 

 黒田総裁の続投にとって最大の障害と考えられるのは米国政府、ことに次期FRB(米連邦準備制度理事会)議長による反対表明だが、現時点ではその可能性は低いと思われる。

 結局、今回の総選挙は日本の政策決定にとって重要な転換点になるだろう。マクロ経済政策(フィスカル・ドミナンスならびに日銀の長短金利操作)に変更はないだろうが、「チーム安倍」への権力集中が問題視され、責任を伴う断固たる行動が求められているため、企業優遇、規制緩和推進、成長重視を柱とする真のサプライサイド改革が浮上してくるとみられる。新勢力となるのは日本経済の中心を担い、世界の金融センターかつショーケースでもある東京都の首長が率いるかつて見たことがないほどの力を備えた野党大連合である。 


「ジャパン・ファースト」を目指す連立政権の誕生か?

 衆院選の候補者が出そろったが、465議席の中で自公連立政権は約240~260議席を得て安定多数を維持、希望の党は120~180議席を獲得して最大野党になるとの当社予想に変更はない。注目したいのは、小池知事が自民党との連立の可能性をすでにほのめかしている点である。つまるところ、小池知事、前原氏、安倍首相には共通点がある。

 すなわち、いずれも日本の近代化を進めた明治時代のリーダー達が声高に叫んだ「富国強兵」に通じる強い愛国精神の持ち主だということだ。現在の連立政権の相手である公明党が議席数を減らすほど、それだけ「ジャパン・ファースト」を掲げる自民党と希望の党の新連立政権が誕生する可能性は高くなる。個人的には、2019年半ばに実施予定の参院選後にこのシナリオの実現性が高まると考えている。 

 現時点では、安倍首相率いる政府と小池知事をリーダーとする地方の「反乱者」の対決はサプライサイド改革の推進力になるとみている。 

2017年10月11日 記

 

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