長期積立投資家は本当に何もしなくていいのか

 長期積立投資はしばしば「ほったらかし投資」といわれます。国内外に分散投資をしているのであれば、長期投資を実行できれば、短期的な値下がりや値上がりはあまり気にせず、積み立てを継続することで、一定の効果が期待できるからです。

 資産配分の現状が目標とかい離することを調整するリバランスの問題がありますが、少額からの積み立てであれば正直あまり神経質になる必要はありません。また、低コストのバランス型ファンドを活用できれば、アセットクラス間のウエート調整も自動化することができます。

 楽して効果も高い長期積立投資家の投資方針ですが、本当に何もしなくてもいいのでしょうか。

 実は「日本の長期積立投資家」にはひとつのウイークポイントがあります。これだけは、定期的に検証して、見直しをかけなければならないポイントといっても過言ではありません。

自動増額システムがビルトインされている米国401(k)プランは「定率制」

 日本と同様に、長期・積み立て・分散投資を行っている海外の例として、米国の401(k)プランに加入している会社員を挙げてみます。

米国の長期・積立・分散投資は?

・新入社員になったらとにかく加入

・給与の一定率を積み立てると自動設定

・バランス型ファンドやターゲットデートファンドの自動購入

 これらが初期設定でセットされます。

 まさに、長期・積み立て・分散投資が実行されるわけですが、ここで注目したいのは「給与の一定率」という設定です。

 一般的には最初は3%程度からスタートし、徐々に拠出率をアップさせるようですが、この「率」そのものが、徐々に掛け金額をアップさせる仕組みとなっています。

 仮に給与の10%と規定していた場合、月20万円の人は月2.0万円を、月30万円の人は月3.0万円をそれぞれ401(k)プランに入金します。つまり給与がアップしたとき拠出余力も高まっているわけですから、「自動増額」するわけです。

 特に手続きをしなくても「率」で決めておくだけでよく、キャリアアップに従って自動的に増額される、というのがポイントです。負担能力が高まったときに無理のない範囲で掛け金もアップすることができれば、老後の安心は高まってきます。

 以前のレポートで、米国の401(k)プラン利用者が1人あたり10万ドル、つまり1,000万円ほどを蓄えていると紹介しましたが、実は「投資」だけではなく「拠出額の増額」もこれに大きく寄与しているのです。

iDeCo、つみたてNISAは「定額制」

 一方で、日本でこれに近い仕組みを取っているのは企業型のDC(確定拠出年金)のみです。企業型のDCは企業年金連合会の調査などで、給与の一定率を掛け金として拠出するか、職階級に応じて増額するテーブルの形としているのが多数だと分かっています。

 これはつまり、昇格昇給に伴い、確定拠出年金の掛け金もアップする「定率型」だということです。

 しかしながら、個人が任意に加入する制度ではこうした自動増額ルールではなく「定額型」が中心となります。

 一般NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)や、つみたてNISAの年間拠出限度枠が決められていることは皆さんもご承知でしょうが、その範囲内で本人が申し込み時に掛金額を決めます。「月1.0万円から始めようかな」という感じです。

 iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)、あるいは企業型DCのマッチング拠出(本人拠出)も同様で、拠出限度額が働き方によって異なりますが、自らの拠出可能な金額の範囲で定額の拠出設定をします。iDeCoの場合、最低5,000円は積まなければいけませんが、「上限は月2.3万円だけど、私の積み立ては1.5万円くらいで」、というふうに設定します。

 このとき、年収増などが実現して拠出をアップすることができたとしても、金融機関側から増額提案がタイミングよくあるわけではありません。あるいは自動的に増額する仕組みもありません。

 20歳代あるいはアラサーのうちに決めた積立額が10年以上放置されていると、実際にはもっと積めるのに、ほったらかしということになってしまうことがあり、これは「悪いほったらかし」になってしまいます。

 最初から上限いっぱいで拠出している場合、あまりこの増額問題は気にならないようですが、これも長い目で見ると危険です。税制改正が実現して限度額が上がったときも、自分で増額手続きをする必要があるからです。

 iDeCoは過去何度か限度額の引き上げがありましたが、掛け金分布を見ると「昔の限度額の上限で設定したまま」という人が一定割合いるようです。やはり「ほったらかしは要注意」です。

日本の長期積立投資家に最後に必要なことは「増額の手続き」かも

「定率」というのは長期的な資産形成においてはよくできた仕組みです。年収の増加に伴い、積立額も自動的に増加する「自動」の仕組みがあるからです。特に「自動化」に強みがあります。

 しかし、第三者が勝手に増額をしていく金融商品というのは、本人の同意があってもなかなか簡単に設定できないこともあり、自動増額の仕組みは普及していません。

 つまり、日本の長期積立投資家が、どんなに、ほったらかし投資を実践したとしても、「増額」だけは定期的に考える必要があるわけです。

 そして、自動化できないということは、書類を書くなりオンラインで手続きするなり、何らかの「アクション」を伴う必要があります。

 1月ないし4月は、そうした見直しをするのにはいい時期だと思います。1月は「年始の計」として積み立ての増額を決心することができますし、4月は昇格昇給の時期なので、これに合わせて増額の決意を形にすることができます。

 このコラムを読んだあなたが、もしiDeCoやつみたてNISAを上限で設定していないのであれば、積立額の増額を検討してみてください(もちろんそれらを上限設定していても、他制度を使ってさらに余力の上積みをすることもおすすめします)。

 きっと、その「増額のための行動」は、数十年後の資産の積み上がりに大きく貢献してくれることでしょう。