2021年の重要日程から相場シナリオを予測

 毎年、このコラムでは年初めに1年間の重要イベントの日程を取り上げています。1年間の相場シナリオを予測するためには押さえておきたい必須項目です。

 1年間とは1月から12月のサイクルです。為替市場の主戦場は欧米市場であるため、12月決算が多い欧米の企業や海外ファンドと同じサイクルで考えます。

 ただし、ドル/円の場合は、日本の企業決算の時期も考慮する必要があります。特に3月決算が多いため、年度末の3月や年度初めの4月には決算に関わる為替の需給要因が加わることに留意します。

 ところで、重要イベントとは、相場に瞬間的に影響を与えたり、中長期的に相場の先行きを方向づけるイベントのことです。

 為替の変動要因を大別すると、政治要因と経済要因があります。

 政治イベントとしては選挙や国際会議があり、経済イベントでは特に重視するのが、為替相場を中長期的に大きく左右する中央銀行の金融政策や、その金融政策を左右する経済成長率(GDP[国内総生産])やCPI(消費者物価指数)、米雇用統計の経済指標です。

 これらの政治・経済日程は、年末年始に新聞や雑誌に特集が組まれることが多いため、注意して見ておくと役に立ちます。また、経済指標の公表日は各国政府の管轄部署のウェブサイトや中央銀行のウェブサイトから確認することができます。

 これら政治・経済イベントの日程を押さえながら、そのリスク度合いや影響度合いを考慮して相場シナリオを考えていく必要があります。

2021年の政治重要イベントは?

 政治イベントは、その結果によって瞬時に相場に影響を与えたり、ジワジワと経済に影響が及んでくる場合があります。しかも、経済環境も無視して影響を与える場合もあるため、最重要で注目すべき項目です。相場シナリオを想定する際に、政治イベントを考慮して大きな枠組みを想定します。その大きな枠組みの中で、経済イベントを考慮してシナリオを想定していきます。

 今年の注目点は、次の5つです。

1:新型コロナウイルスの感染拡大とワクチンの普及スピード

 日程が決まっている政治イベントではないですが、今年も最大の注目材料です。

 相場の変動要因として感染症リスクがこれほど意識されることは、為替が変動相場制になってから初めてです。スペイン風邪(1918~1920年)以来100年ぶりの出来事になります。

 これまでも2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や2012年のMERS(中東呼吸器症候群)などの感染症リスクはありましたが、局地的な流行であり世界経済を左右するほどのリスクではありませんでした。

 今年も新型コロナウイルスの感染拡大リスクは続き、ワクチンの普及によって感染が抑制されるかどうかが注目されます。すなわち、景気回復はワクチンの供給や効果次第ということになります。東京五輪・パラ五輪が開催されるのかどうかも注目です。

2:米国新大統領の政策(1月)と米議会の動向

 いまだにトランプ米大統領が敗北宣言をしていないのは米大統領選史上、前代未聞ですが、為替を見る上では無視するわけにはいきません。1月20日の新大統領就任ではっきりしますが、新大統領の政策がどのように変わるのか、そして公約ベースではなく、現実に施行される政策に注目です。

 また、1月5日のジョージア州上院議員選挙の結果によって議会がねじれ議会になるかどうか注目です。期日前投票では民主党優勢とのことですが、選挙結果は数日かかるようです。

 もし、民主党が上院で過半数を取れず、ねじれ議会になれば、政策施行が困難になることが予想されます。民主党はねじれ議会だけでなく、党内左派との調整にも難航が予想されます。

 そして1月6日の上下両院合同会議での選挙人投票の開票が行われ、1月20日の大統領就任へと続きます。1月20日の大統領就任演説に注目です。大統領選挙によって分断された米国社会をどのように融和させるのか、発信エネルギーと表現の演説力に注目です。分断が根深く残れば、新大統領は国内問題にエネルギーが注がれ、外交が手薄になる懸念があります。

3:ポスト・メルケル(9月)の欧州政治動向

 これまで欧州のリーダーだったメルケル独首相がこの秋、退任となります。ポスト・メルケルの欧州は、世界における欧州のリーダーシップが弱まる可能性があります。9月のドイツ連邦議会選挙で現在の与党が維持され、メルケル氏の後継者を欧州や世界がどのように評価するのか注目です。期待外れだとユーロ売り材料になります。

 日本も10月に衆議院議員の任期満了となるため、それまでに衆議院選挙が予想されます。政治変動が起きるのかどうか、菅政権が替わるのかどうかに注目です。

4:中国共産党結党100周年(7月)を迎える中国の動き

 中国は、7月1日に中国共産党結党100年を迎えます。共産党権力を誇示するために、その前後に中国がどのような行動を取るのか注目です。特に東アジアの地政学リスク(南シナ海、台湾、東シナ海)に注目です。

 また、習近平(シー・ジンピン)氏が脳動脈瘤で入院治療との報道が一部で流れました。その後の続報がないため信ぴょう性はわかりませんが、同氏の健康問題が浮上してくるかもしれません。

5:中東・東アジアの地政学リスク

 1月4日、サウジアラビアは2017年に断行したカタールに対する国境封鎖の解除を決定しました。一方で同日、イランは核兵器の転用につながるウランの濃縮度を「20%に達した」と報じました。イラン核合意に逆行する動きであり、中東情勢が緊張に向かう恐れがあります。2020年はトランプ大統領の仲介でイスラエルがアラブ諸国4カ国(UAE、バーレーン、スーダン、モロッコ)と次々と国交の正常化に合意しましたが、イランのような動きが出てくると、今年も中東の地政学リスクから目が離せません。東アジアの地政学リスク(南シナ海、台湾、東シナ海)も同様です。

 今年の政治イベントを下表にまとめました。以上のポイントを意識しながら確認してみてください。

2021年の政治重要日程

日程 イベント
1月 5日 米ジョージア州、上院2議席の決戦投票
6日 米大統領選挙、議会で選挙人投票の開票
16日 ドイツ与党CDU党首選
20日 米国大統領就任式
2月 5日 米露間の新戦略兵器削減条約(新START)失効
3月 5日 中国で全国人民代表大会開催
11日 WHO(世界保健機関)による新型コロナ「パンデミック」宣言から1年
14日 ドイツ西部2州で州議選
17日 オランダ議会選
25日 東京五輪の聖火リレーがスタート
4月 7日 韓国・ソウル市、釜山市の市長選
25日 ドイツ・チューリンゲン州議選
月末 アフガニスタン駐留米軍を含む外国部隊の撤退期限
5月 6日 英スコットランド自治議会選、ロンドン市長選
6月 6日 ドイツ・ザクセン=アンハルト州議選
月内 フランス地方選
18日 イラン大統領選
30日 香港の国家安全維持法施行から1年
7月 1日 中国共産党創設100年
23日 東京五輪(~8月8日)
8月 24日 東京パラ五輪(~9月5日)
9月 26日 ドイツ連邦議会選
30日 菅義偉首相の自民党総裁任期満了
10月 27日 アジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会
(~28日、UAE)
21日 衆議院議員の任期満了
30日 G20(主要20カ国)首脳会議(~31日、イタリア)
11月 1日 COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)
(~12日、英国)
前半 APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議
2022年 初め イタリア大統領選
フランス大統領選

2021年の経済重要イベントは?

 為替相場の経済要因として最も大きな要因は金融政策です。特にFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策です。

 また、日本銀行、FRB、ECB(欧州中央銀行)総裁は金融政策委員会終了後、毎回記者会見を行い、市場との対話に努めています。この記者会見も重要です。声明文を補うような一歩踏み込んだ説明をしたり、先行きの方向性を示唆する内容を発言したりします。記者会見の発言で相場が動くことも多いため注視する必要があります。また、FRB議長の議会証言が年2回(2月、7月)にありますが、これも注目材料です

 2020年のドル/円相場は、ドル安構図の中、夏場以降じりじりと円高が進みましたが、このドル安の構図は今年も続くことが予想されます。

 ドル安の構図の背景は、次の2点が主因ですが、新型コロナウイルスの感染拡大が抑制されない限り、この構図は続くことが予想されます。

(1)拡大する米国の財政赤字と経常赤字(「双子の赤字」)

(2)FRBの超金融緩和政策による低金利長期化とドル供給の拡大

 そして、新型コロナウイルス、景気、金融政策についてのマーケットの見方は次の3つに大別されます。

(1)ワクチンが普及し、感染拡大は抑制され経済は回復。金融政策は出口を模索

(2)ワクチンが普及し、感染拡大は抑制され経済は回復するが、回復は鈍く物価も上昇しない
ため金融緩和政策は継続

(3)感染を抑制できるほどのスピードでワクチンは普及せず、経済の回復は2021年7-9月期がピークで、その後は鈍化し、金融緩和政策は継続、または追加緩和の動き

 マーケットではコロナ後を見据えた(2)の見方が多く、(1)の出口戦略の模索まではいかないとの期待から、株も先取りした動きとなっています。しかし、今年はまだ(3)が続き、ドル安の構図は継続すると予想すれば、相場の見方がガラッと変わります。

 ただ、ドル/円のボラティリティー(変動率)は低いため、大きな変動はなく、ジリジリと円高が進行し、年間の値幅も10円前後で推移し、イメージとしては100円を挟んだ展開を予想します。また、欧米各国の物価も日本に追随し下落することが予想されるため、欧米の物価下落進行によって円高進行は徐々にブレーキがかかることが想定されます。

 以上のように、FRBの金融政策は緩和政策継続なのか、出口政策を探る動きに出るのか、それとも追加緩和をするのか、今年も経済イベントとしてはFRBの金融政策の動向が最大注目材料です。そして、FRBの金融政策に影響を与える経済成長率(GDP)、物価上昇率、雇用統計に注目です。

 下表に日米欧の金融政策委員会の開催日、GDPや物価の公表日をまとめました。今週の本連載は保存版として活用してください。米雇用統計は、毎月第1金曜日に公表されます。

2021年保存版:経済重要イベント

日米欧中央銀行の金融政策会議開催日

2021年 日銀金融政策
決定会合
FOMC
(米連邦公開市場委員会)
ECB
(欧州中央銀行理事会)
金融イベント
1月 20~21日※ 26~27日 21日  
2月 FRB議長半期議会証言
3月 18~19日 16~17日 11日  
4月 26~27日※ 27~28日 22日  
5月  
6月 17~18日 15~16日 10日  
7月 15~16日※ 27~28日 22日 FRB議長半期議会証言
8月 FRB議長講演
(ジャクソンホール)
9月 21~22日 21~22日 9日  
10月 27~28日※ 28日  
11月 2~3日  
12月 16~17日 14~15日 16日  
注1:※は日銀「展望レポート」公表(1、4、7、10月)
注2:FOMCは火~水曜日開催。ECB理事会は木曜日開催
注3:FOMC、ECBとも3、6、9、12月に経済見通しを公表
注4:会議終了後の総裁の記者会見は日米欧とも毎回実施
注5:青枠は日米欧の理事会が集中している日程。相場変動が大きくなる可能性があるため注意が必要

日米欧GDP速報値の発表日

  日本 米国 ユーロ圏
2020年10-12月期 2月15日 1月28日 2月2日
2021年1-3月期 5月中旬 4月29日 4月30日
2021年4-6月期 8月中旬 7月29日 7月30日
2021年7-9月期 11月中旬 10月28日 10月29日

日米欧CPI(消費者物価指数)の発表日

2021年 日本 米国 ユーロ圏
1月 22日(12月分) 13日(12月分) 7日(12月分)
2月 19日(1月分) 10日(1月分) 3日(1月分)
3月 19日(2月分) 10日(2月分) 2日(2月分)
31日(3月分)
4月 3月分以降の
公表日は後日
発表予定
13日(3月分) 30日(4月分)
5月 12日(4月分)  ―
6月 10日(5月分) 1日(5月分)
30日(6月分)
7月 13日(6月分) 30日(7月分)
8月 11日(7月分) 31日(8月分)
9月 14日(8月分)
10月 13日( 9月分) 1日(9月分)
29日(10月分)
11月 10日(10月分) 30日(11月分)
12月 10日(11月分)