過去3カ月の推移と今回の予想値

※矢印は、前月からの変化

11月雇用統計のレビュー

 BLS(米労働省労働統計局)が12月4日に発表した雇用統計によると、11月の非農業部門雇用者数(NFP)は24.5万人増加し、失業率は6.7%に低下しました。

 失業率の低下と雇用の増加は、新型コロナ対策が成果を上げ、経済活動が継続的に再開している証拠。ただし、この数カ月間は雇用のペースは伸び悩んでいます。11月は運輸業や医療部門で顕著な雇用増が見られた一方で、小売業と政府部門の採用は減少しました。

 11月の失業率(6.7%)は、4月に比べて8ポイント低下しました。しかし新型コロナ拡大前の2月時点(失業率3.5%、失業者580万人)よりも、まだ3.2ポイント高い状況です。失業者は1,070万人まで減少しましたが、2月時点よりもまだ490万人多い。

 失業者のうち、一時解雇者(レイオフ)は44.1万人減の280万人。4月の1,810万人に比べると大幅に減少しましたが、2月に比べてまだ200万人多い状況。11月の永続解雇者(パーマネント・レイオフ)は370万人。前月比ほぼ横ばいで、2月時点よりまだ250万人多い。また、11月の労働参加率はやや下がって61.5%。2月時点に比べると1.9ポイント低い状況。

 失業率が6.7%まで下がり、平均労働賃金が前年比4.4%に上がったことで、FOMC(米連邦公開市場委員会)のメンバーも一息つくことができたようです。昨年12月の会合でFOMCは「米経済を支援するためにあらゆる手段を行使し、雇用最大化と物価安定という目標を促進することに全力で取り組む」という力強い声明を発表しました。とはいっても追加で緩和政策を発表するわけではなく、債券購入の満期延長も見送りでした。

12月雇用統計の予想

 1月8日に発表される最新の雇用統計は、市場予想によると、失業率は6.8%に1ポイント上昇。非農業部門雇用者数は5.0万人増加にとどまる見込み。増加数は6カ月連続の縮小で、勢いはありません。雇用者が前月比マイナスになる可能性もいわれています。平均労働賃金は前月比0.2%増、前年比4.5%増の予想。

 雇用統計のなかで、平均労働賃金も注目したいパーツです。なぜかというと、2021年におけるマーケットの大テーマである「世界的景気回復」のなかで「インフレ上昇」も副作用的なテーマとして出番を待っているからです。労働賃金の上昇は消費意欲を高め、物価上昇につながります。FRB(米連邦準備制度理事会)はインフレが多少上昇したところで利上げしないと約束していますが、焦って利下げする必要もありません。労働賃金の上昇は、FRBマイナス金利の可能性をさらに遠ざけます。一部のFOMCメンバーからは「緩和縮小」を検討すべきとの意見も出始めています。

コロナで経済システムが変異

 新型コロナに対する米国の政策対応は、「失業は一時的なものであり、経済が再開すれば元に戻る」という根拠に基づいて、失われた所得を補うことに焦点を当てています。

 しかし、全ての業種の雇用がコロナ前に戻ることはありません。なぜなら、この失業は不況が原因ではなく「雇用の構造変化」が生み出したものだからです。

 雇用の構造変化は、コロナ前からすでに起きています。米アマゾンの無人コンビニ「Amazon Go」がオープンしたのは2018年1月。日本でも同様の試みが2020年1月頃にスタートしています。そこにコロナウイルスが大流行したことで、人々が他人との接触を自主的あるいは強制的に避けるように社会のスタイルが激変して、雇用の構造変化が一気に加速したのです。経済構造変化は、コロナとは関係なく避けて通ることができなかったわけで、ある意味健全な進化ともいえます。しかし、問題は変化のスピード。3年かかるはずだった変化が半年のうちに起きているのです。経済システムというのは、長い時間をかけた変化にしか対応できない。数年で起こるべき変化が数カ月に凝縮された結果、さまざまな問題が起きているのです。

無人のビーチ

 米国の労働市場は今年6月以来、マーケットが予想していたより170万人も多くの雇用を生み出しています。とはいえ、雇用の回復は一様ではなく、先行きのある企業が採用を拡大する一方で、衰退に向かっている企業は生き残りをかけて大規模な人員カットを断行するか、規模を縮小するか、あるいは運命を受け入れ廃業するかの選択を迫られています。

 ブッキング(Booking=予約)、 エンターテインメント(Entertainment=娯楽), エアー(Air=空旅), クルーズ(Cruise=船旅)、ホテル(Hotel=宿泊施設)など、いわゆるBEACHと呼ばれる業界では、特に新型コロナによる売上の落ち込みが深刻。雇用の構造変化が進むなかで、これらの仕事は消えてしまうリスクにさらされています。世界観光協会は、観光業界全体ですでに1億4,000万人以上が職を失い、観光業に携わる人の二人に一人が失業する日がいずれ来ると悲観的な報告をしています。

 また、低、高スキル労働者の雇用が増える一方で、業種と関係なく中スキル労働者、いわゆるゼネラリストと呼ばれるサラリーマンが不要とされる時代になっています。

 もっとも暗い話ばかりではなく、米国、ヨーロッパや英国では、ロックダウンで外出を制限された若者たちによって一大起業ブームが起きているそうです。ただ、雇用市場が構造変化に対応するにはまだしばらく時間がかかるわけで、それまでの間、政府は従来の失業対策によって支えるしかありません。皮肉なのは、政府の手厚い雇用対策がゾンビ企業を延命させることになり、結果としてゾンビ企業が新しい起業の成長を妨げていることです。