1.米国学費問題の現状と今後の解決策

 今回は、バイデン大統領の重要施策の一つである教育機会の促進について取り上げます。バイデン大統領は先週の就任直後、学生ローンの支払い猶予期間を9月末まで延長する措置を発表しました。高騰する学費は米国内で深刻化しており、今後も追加の施策が打ち出される可能性があります。

 米国の学費問題は深刻で、州立大学で年間1万ドル(103円換算で約103万円)、私立大学ではその数倍はかかるもようです。多くの学生がローンを組んでおり、昨年は4,000万人の米国人が学生ローンを負い、平均で毎月200ドルから299ドル(約2万600~約3万800円)を支払う義務が生じたと報道されています。学費の高騰により大学への進学を諦める人や、卒業できたとしても収入が上昇せず、生活が困窮する人が少なくない状況です。

 今後、バイデン大統領が教育関連の施策として打ち出す可能性があるものは、(1)コミュニティカレッジへの2年間の学費免除、(2)世帯収入が12万5,000ドル(約1,288万円)を下回る人々を対象にした学費免除の大学の設立、(3)学生ローンの1万ドル(約103万円)免除、です。これらが実現した場合、学費の面で諦めていた人々が大学に入学するチャンスを掴むことになります。

2.オンライン教育「チェグ」の成長は、新型コロナウイルス特需で終わらない

 この教育機会促進の流れに乗っている企業に、チェグ(CHGG)があります。同社は、2005年にアイオワ州立大学の学生が創立し、当初は教科書のレンタルを手がけました。現在は、レンタル以外にも、高校生・大学生向けに、オンライン版テキストの販売、宿題やエッセイの作成サポート、大学の奨学金情報の提供サポートをオンライン上で行い、学生を支援しています。学生の間で認知度が高く、サポートサービスのサブスクリプションユーザー数は年率29%で拡大しています(2015~2019年の期間)。

<チェグ・サービス事業のサブスクリプションユーザー数>
単位:百万人

出所:会社資料より楽天証券作成

 この分野は競争が激しいですが、チェグは新型コロナウイルスの特需前から毎年大きく成長し、リーディングカンパニーのポジションを築いています。その理由は、サブスクリプションが月14.95ドルから始められ(「Chegg Study」の場合)、一部のサービスは広告型であるため無料で利用できるという手軽さと、サービスの充実度にあるとみられます。例えば、「Chegg Study」では、分からない問題をスマホで写真に撮って送ると、30分程度でエキスパートから解説の返信を得ることができます。また、「Chegg Writing」では、エッセイの参考文献や構成、文法などをチェックしてもらえます。

 業績は、新型コロナウイルスの特需後も拡大する見込みです。2020年12月期に需要を先食いした部分はありますが、ターゲットになりうる米国の高校生、大学生の数がおよそ3,600万人であるのに対し、同社のサブスクリプションユーザー数は390万人(2019年時点、一部海外ユーザーを含む)と、シェアを拡大する余地が多く残されています。新型コロナウイルスの影響で、将来のユーザーである小学生も含め、オンラインで勉強することの利便性が広く認識されたことも、長期的にポジティブに働くでしょう。

<チェグの業績推移>
単位:百万ドル

出所:ブルームバーグより楽天証券作成
予想:ブルームバーグコンセンサス(日本時間1月21日時点)

 2021年12月期の予想PER(株価収益率)は61.15倍(1月20日時点)と割安さはありませんが、長期的な成長ストーリーが魅力的な銘柄と考えています。チェグは、米国内のシェア拡大以外に、2つの成長戦略を打ち出しています。それは、仕事に直結するスキルベースのカリキュラムの充実と、海外進出です。

 スキル系のカリキュラムでは、2019年10月に当該サービスを提供していた「Thinkful」という企業を買収しました。チェグのCEOは、「米国の大学生の平均年齢は25歳まで上昇しており、4割の学生が週に30時間以上働いている状況だ。彼らはスキルベースのカリキュラムを必要としている」と述べており、今後この分野へ積極的に投資する見込みです。

 もう一つの戦略、海外展開では、現在190カ国でサービスを提供しています。まだ規模は小さいですが、会社側は、「学校のシャットダウンによりチェグへの需要が急速に高まっている」と述べており、2020年3Qでは、「エキスパートに寄せられた質問の25%が海外からで、コンテンツ(オンライン上のページ)は前年同期比82%増加の2.52億ビュー(閲覧数)になった。」と述べています。米国のサービスモデルをローカルに移植できれば、将来的に海外が次の収益柱になる可能性があります。