2021年は米国から円高を押し付けられるのか?

 米国の連邦政府債務は既に27兆ドル弱とGDP(国内総生産)比で130%を超す。バイデン体制は、社会保障給付やインフラ投資などによる「大きな政府」に一段と傾きそうだ。この状況で、ひとたび金利が上昇すれば、連邦政府の利払い負担も跳ね上がって財政悪化は止まらなくなる。

「イエレンは自分たちの政治目的、キャリアアップに夢中なゴマスリの金融コメンテーターや政治家に対してだけ進歩的だからだ。そのため、重要なのはモルガン・スタンレーのこのチャートだけである」と指摘されているように、市場が国有化されるなか、今後も株価の行方はパウエルとイエレンの疑似MMT(現代貨幣理論)コンビに託されている。

2022年末までジャブジャブ!?世界のGDPの0.7%にあたる流動性が毎月追加されている

出所:ゼロヘッジ

 こうした米国の政策を受けて、2021年は米ドルが大きな下落に見舞われるという予測が多い。

「新型コロナウイルスのワクチンが広く配布され、世界的な貿易や経済成長の回復を助ける場合、ドルは来年に最大20%下落する可能性がある。米シティグループが予想した。

 カルビン・シー氏ら同行のストラテジストは16日のリポートで、「ワクチン配布はわれわれが設けた弱気相場のチェックポイント全てに該当し、ドルは2000~2010年の前半と似たような道筋をたどるとみている」と分析した。この時期にドルは複数年にわたる下降局面に突入した。

 ワクチン開発の進展だけでなく、世界経済が正常化しても米金融当局がハト派の姿勢を維持することでドル相場は苦しい展開になると、シティはみている。さらに世界各国で成長ペースが加速する可能性は高く、投資家が米国資産を離れ、国外資産へ乗り換えるとも予想する」

出所:11月17日 ブルームバーグ「ドルは来年20%下落する可能性も、新型コロナワクチン普及で-シティ」

 日本経済にとって、大きな問題となるのが円高だ。

 日米の企業利益率をみると、日本企業の売上高営業利益率は一桁台前半の低収益で低迷しているが、米国企業は10%台の後半の収益を維持している。なぜ、こうなるかというと、欧米は政策を総動員して自国通貨安政策を進めてきたのに対して、米国から円高を押し付けられてきたからだ。

 円高になると日本の輸出企業は厳しいコストカットやリストラをおこない、輸出数量や輸出販売金額を維持してきた。国内で厳しいコストカットの結果、日本国内は不景気になり、輸出企業は輸出の数量や金額を維持しようとするため、輸出販売による利益率も小さいという悪循環が続いてきた。

 一方、米欧の企業は輸出数量が増えなくても、ブランディングの確立と通貨安にすることで利益を拡大してきた。日本は円高に負けまいとしてさらに輸出を維持し、それがまた円高となって跳ね返ってくるということの繰り返しである。日本は通貨安競争に負け続けてきたのである。

 そうした経緯からアベノミクスという円安誘導が行われた。しかし、日本の輸出企業がもうかっている現在の円安は、FRB(米連邦準備制度理事会)のQEインフィニティ(無限大金融緩和)と自作自演の円安相場の反動で、円高転換のリスクが高まっている。

 米国株投資をしている投資家も、今後は為替ヘッジが必要になるかもしれない。例えば投資信託や株式でアメリカの商品に投資をして、せっかく株価が上がったとしても、同時に為替が「円高」になってしまうと、その株式の日本円での価値は目減りしてしまうため、実際の利益は株価の上昇分よりも小さくなってしまうからである。

2021年のブラックスワン(5大予測)

 2020年は新型コロナのパンデミックという不意打ち的なブラックスワンが出現した。さて、2021年相場のブラックスワンは何か?

2021年はこうなる!5大予測
1 新型コロナの終息で金融緩和や財政出動が縮小し株式市場が反転する
2 米民主党がハイテク企業を狙い撃ちし増税や規制強化の法制化に本気で動く
3 米大統領がバイデンからハリスに交代する
4 新型コロナの終息で社債が暴落する
5 米金利が2%以上に上昇する

 の5つが、筆者の運用を考えるうえでのブラックスワンだ。詳細は長くなるので、楽天証券の新春セミナーでお伝えしたい。

 5つのブラックスワンに付け加えるとしたら、地政学リスクだろう。世界最大のヘッジファンドの主宰者レイ・ダリオが『変わりゆく世界秩序』と題し、現在、リンクトインで「米中関係と戦争」を取り上げている。

 ここで、レイ・ダリオは帝国のサイクルのより詳細な解説をしている。帝国のサイクルのなかで、今、中国と米国がどこにいるのかを確認していただきたい。

帝国の背後にある典型的な大きなサイクル

出所:レイ・ダリオ『変わりゆく世界秩序』

中国の台頭(過去の独・日の台頭がフラッシュバック。1930年代の焼き直しか?)

出所:レイ・ダリオ『変わりゆく世界秩序』

 QEインフィニティ政策とMMTがニューノーマルで、新しい資本主義の形なのだという。しかし、新しい資本主義というより、すべて国有化していくという社会主義の運動に見える。世界が国家資本主義化するのなら、一番強いのは中国だ。

長期的な投資の成功を達成する上で重要なこと

 好況・不況という景気の変動は人間の過剰な楽観論に過剰な悲観論が続くことによって引き起こされる。振り子がある方向に行きすぎると供給過剰となり、別の方向に行きすぎると供給不足となる。ある方向への過剰は別の方向への不足を生み出すといったように、拡張と収縮はけっして終わることがない。

 誰もが市場の方向性に同意しているときには、何らかの理由があるため、一般的には、何か他のことが起こることになる。相場はファーストイン・ファーストアウトだ。誰もが売っているときに買い、そして誰もが買っている時に売ることだ。

 相場は行きたいところに行く。経済もサイクル、相場もサイクル、その裏にあるのは、人間の心理だ。

エリオット波動の基本と波の個性

「相場のフラクタル構造は、フィボナッチ数列のもと、5つの局面とそれに続く3つの局面という8つの基本リズムを1つの周期として反復して繰り返す」
出所:「エリオット波動入門」(パンローリング)

 投機は価格の上昇による「正のフィードバック」のループによって強化され、その結果、「経験の浅い投資家」を市場に参入させることになる。ポジティブ・フィードバック・ループが続き、「陶酔感」が高まると、投資家は市場でのリスクを「レバレッジ」し始める。このサイクルは以下の通りである。

投機のサイクル

出所:リアル・インベストメント・アドバイス

1)   バリューレベルで投資家がマーケットに参入
2)     株価が上昇 
3)     変化が始まる
4)     投機家がIPO(新規公開株)に目を止める
5)     初心者投資家がマーケットに参入 
6)     株価が上昇 
7)     ポジティブ・フィードバック・ループ、株価は上昇するのみ
8)     株価の上昇が心理的に強化される
9)     陶酔感が広がる
10)    レバレッジをかけた投資家が増える
11)    陶酔感が熱狂になり、クレジットが拡大
12)    熱狂によりリスクの許容度が高まる
13)    リスク許容度の高まりによって詐欺や相場操縦が横行する
14)    マーケットがクラッシュし、投機が一掃される 
15)    新たな規制とともに政府が介入
16)    投資家はすべてのリスクを避ける

 相場に「強気」か「弱気」かは、問題ではない。長期的な投資の成功を達成する上で重要なのは、必ずしも市場サイクルの前半で正しかったかではなく、後半で間違えないことなのである。

相場のトレンドを認識する新しい取引手法

 かれこれ2年ほど、セミナーのたびに「まだか?」とお客さんから聞かれていた新しいDVDを、年明け2月頃には出版できそうだ。この取引手法を、筆者は日足と週足のアルゴリズム取引で使っている。

 今週、楽天FXのMT4で使えるように売買システムを移植したが、誰もがすぐに相場のトレンドを認識できるものになっている。この売買システムは昨今のバブル化している株式相場でもうまく機能している。

 下のサイドバーが赤くなると「買いトレンド」、黄色くなると「売りトレンド」で、売買シグナルにしたがってチャートの色も変わるようになっている。

ユーロ/ドル(日足)

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

豪ドル/ドル(日足)

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

NZドル/ドル(日足)

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ユーロ/ドル(週足)

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

豪ドル/ドル(週足)

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

ドル/スイスフラン(週足)

出所:楽天MT4・石原順インディケーター

●トレードがうまくいかないときは枚数を減らすこと
●うまくいっているときには枚数を増やすこと
●コントロールができないような局面では決してトレードしないこと

 と、「マーケットの魔術師」(パンローリング)でポール・チューダー・ジョーンズは述べているが、これはPCを使ったアルゴリズム取引にも言えることである。

12月23日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

 12月23日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、土居雅紹さん(楽天証券株式会社 常務執行役員)をゲストにお招きして、「1~2月相場のアノマリーの状況」、「10年間の生産年齢人口増減と各国の一人当たりGDP」・「先月の銘柄のフォローアップと今月の銘柄」というテーマで話をしてみた。土居さんの米国株の投資戦略、ぜひ、ご一聴を!

12月23日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」

出所:YouTube

 ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロードできるので、投資の参考にしていただきたい。

12月23日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー

出所:YouTube