2020年がもうすぐ過ぎ去ろうとしていますが、本稿を持って、今年最後のレポートになります。テーマは以前から決めていました。「中央経済工作会議」(以下「会議」)という、中国で毎年12月に実施される、重要な会議です。

 会議の目的は、その年の経済情勢を振り返り、翌年の経済政策に向けて指針を示すこと。

 この指針を前提として、中国は年を越し、さらに旧正月である春節(2021年は2月12日)を迎え、その流れで3月の全国人民代表大会(全人代)を開催し、経済成長率など、その年のあらゆる政策目標を具体的な数字で内外に表明するのです。

 この意味で、前年末の会議を注意深く分析すれば、共産党指導部が昨今の経済情勢をどう分析していて、どこまで自信と掌握があって、どこに課題とリスクを見出しているのかが大体理解できます。そして、翌年の経済目標や政策もある程度予測できるようにもなるのです。

 本レポートでは、以下、私が今回の会議で注目した、昨今の経済情勢を見極め、2021年の経済政策を展望する上で重要だと考える8つのポイントを紹介し、分析していきます。

2021年の中国経済の鍵を握る!8つのポイント
1 景気の下振れ圧力は小さい
2 金融緩和、財政刺激の手は安易に緩めない
3 国家戦略「内需拡大」のための供給側「構造改革」+需要側「管理」
4 「新型挙国一致」体制で科学技術の自力再生に邁進
5 アリババ、テンセントなどへの「独禁法」違反での締め付けは序章
6 「賃貸住宅への傾斜と下支え」が次なる不動産政策
7 米国との長期的競争を意識した「食料安全保障」が国家戦略に
8 環境汚染、気候変動対策を戦略的に推進

景気下振れ圧力は小さい

(1)景気の下振れ圧力は小さい

 会議では、近年、共産党指導部が重要会議で提起することが多かった「経済下行圧力」(経済下振れ圧力)、「穏増長」(安定成長)という類の文言が見られませんでした。要するに、経済成長率が低迷するという近年の懸念が、2021年においては存在しないということです。

 最大の理由は言うまでもなく新型コロナです。これによって、2020年の経済成長率は明らかに鈍化し、その反動として、2021年度の成長率が跳ね上がるためです。2021年度の中国経済成長率に関して、IMF(国際通貨基金)は+8.2%、世界銀行は+7.9%と予測しています。

 私が中国共産党・政府で経済政策を担当する官僚や政府系学者と議論をする限り、+8%は固いというのが主流な見方のようです。と同時に、「2020年、2021年セットで+5%前後の成長率が見込めれば、中国経済のマクロ面は安定的に推移している」(国家発展改革委員会幹部)という認識のようです。

 私もこの見方が有益だと考えます。つまり、2020、2021年をセットで眺め、今年は下がった、来年は上がったと一喜一憂するのではなく、この2年間がトータルでどうだったかで、中国経済の良しあしを判断すること。

 そして、本当の勝負は2022年度。習近平共産党総書記が続投するのか否か、どんな「新人」が指導部入りするのかが明らかになる党の第20回大会が秋に開かれるこの年に、中国経済が引き続き「5%前後」の成長率を実現できるかということ、が重要だと考えます。

 私自身は、これから中国が直面していく「政治の季節」という要素を考慮したうえで(前々回レポート:「世界経済の勝者は誰か?最重要イベントをめぐる2021年の中国情勢10大予測」ご参照)、2020年から2022年の3年間を一つのまとまりとして捉えるようにしています。

 会議は、2020年の経済情勢の総括として、「我が国は、主要経済体のなかで唯一プラス成長を実現する国になった」と評価しています。コロナ抑制と経済再生の両立と共存を、ある程度うまく回せた、乗り切ったというのが党指導部の判断なのだと解釈できます。

金融緩和、財政刺激の手は安易に緩めない

(2)金融緩和、財政刺激の手は安易に緩めない

 会議は、来年のマクロ政策について、連続性、安定性、持続可能性の3つを保持するとしたうえで、次のように提起しています。

「積極的な財政政策と穏健な金融政策を引き続き実施する。経済回復のための必要な支持の強度を保持し、政策運営において、ピンポイントに有効性を高めていく。急いで曲がることはせず、政策の時効性をしっかり把握すべきだ」

 私が注目したのは「急いで曲がることはしない」(中国語で「不急転弯」の部分)です。今年、新型コロナの経済への影響を最小限にとどめるべく、中国政府も他国政府同様、相当程度の金融緩和と財政出動に踏み切りました。

「曲がる」というのは、非常事態にあった今年を貫通したこの政策を拙速に変更することはせず、徐々に元の基準(積極的な財政政策と穏健な金融政策)に戻していく、という意味です。

 2021年、政府の金融緩和と財政出動への積極性は低下するでしょうが、そのプロセスは、景気の実態を見ながら、徐々に、慎重に下げていくということ。景気が予想より悪くなれば、金融緩和や財政出動を通じて下支えする用意と柔軟性を備えているということです。

(3)国家戦略「内需拡大」のための供給側「構造改革」+需要側「管理」

 中国政府は近年、「供給側構造改革」と題して、サプライサイドの改革を経済の持続可能な発展を実現していくための処方箋としてきました。例えば、企業向けの減税やコスト削減、規制緩和、過剰生産能力の解消、債務削減などがそこには含まれます。

 会議で特筆すべき、新たに出てきた言い回しが、「供給側構造改革を主線にしつつも、需要側管理に注力する」というもの。そのために、「生産、分配、流通、消費といった各分野を通じて、需要が供給をけん引し、供給が需要を創造するハイレベルな動態バランスを形成し、国民経済システム全体の効能を向上させる」としています。

 新型コロナや米国との戦略的競争という新たな常態(ニューノーマル)を受けて、「国内大循環」という新たな概念を使って内需重視の新たな国家戦略を掲げた習近平政権が、需要を促すために最大限に重視する要素が「雇用」です。

 中国政府は、2020年、すでに都市部で新たに創出する雇用1,100万人の目標を達成したと高らかに宣言しています。中国において、雇用は国民の間でも最も敏感かつ神経質に認識、議論される経済指標の一つです。

 雇用が安定的に創出されなければ、国民が積極的に消費する局面は生まれません。社会不安も広がります。そして、雇用創出には経済成長が必要であり、(2)で述べた、政策ツールは柔軟に使っていくということです。

「新型挙国一致」体制で科学技術の自力再生に邁進

(4)「新型挙国一致」体制で科学技術の自力再生に邁進

 これも会議における特筆すべき点です。

 共産党指導部は、

・米国との関係が長期的、戦略的、全体的に対立していくこと
・米国が国家安全保障の観点から、科学技術の分野で、輸出規制、取引停止、企業制裁などを通じて、中国の経済力、技術力、そして軍事力を封じ込めようとしていること
・その趨勢と局面は米国一国に留まらず、同盟国を中心に、欧州や日本など、技術先進国にも波及していくこと

 この3点を前提に、「国家戦略としての科学技術力を強化する」ことを、来年度に取り組むべき任務の最優先事項に据えたのです。

 会議は、科学技術の分野でイノベーションを推進するために、国の組織者としての役割、企業の主体的役割、シンクタンクや大学など研究開発機関の役割を統合させることの戦略的重要性を提起しました。官民が一体となり、「新型挙国一致」体制で、「国家の発展と安全を制約する重大な難題の解決に尽力する」という新たな目標設定をしました。

 まさに、外国の企業、技術、資本に依拠するのではなく、中国経済を持続的に発展させ、世界に誇る技術力、ブランド力を駆使するための自力再生戦略と解釈できます。

 そのために、十年という時間軸で基礎研究を実施していく行動計画を制定していくと言います。これから十年というのは、習近平政権になって打ち出した産業政策で、国際的にも物議を醸してきた「中国製造2025」を跨ぐことになり、基礎研究、科学技術力向上を通じて製造業の充実、産業構造の転換をもくろむ壮大なプランだと理解できます。

 これから、全国各地に「基礎学科研究センター」を、条件が伴う地域には「国際・地域科学技術イノベーションセンター」を創設し、政府はそれを支持していくと明記しました。

 科学技術やイノベーション開発という意味で、政府がこれまで戦略的に重視、支持してきたのが北京、上海、深センですが、私自身は、今後、同センターの創設を含め、湖北省武漢市、江蘇省南京市、四川省成都市、安徽省合肥市、陝西省西安市という五都市の動向に注目していくつもりです。

アリババ、テンセントなどへの「独禁法」違反での締め付けは序章

(5)アリババ、テンセントなどへの「独禁法」違反での締め付けは序章

 会議は「反独占と資本の無秩序な拡張防止を強化する」と主張しました。国として、インターネット、IT大手を含めたプラットフォーム企業を支持していくとしつつも、関連企業の発展は規範的で秩序だったものであるべきで、データの収集、使用、管理を含め、消費者の権益を保護するものでなければならないという立場をあらわにしました。

 今後、規制や監督を強化し、独占的、不正当な競争行為に断固反対すること、金融イノベーションは慎重な管理監督の前提下で進行すべきであることをうたいました。今月に入り、SAMR(国家市場監督管理総局)が、アリババやテンセントが関与した複数の案件に対して、独禁法違反という名目で、50万元の罰金を科し、調査を開始すると発表しました。

 会議は、この動きが一過性のものではなく、政府の政策として持続的に実施されることを如実に示したのです。近年、中国政府は、不動産市場と中国企業による外国企業買収行為に対し、「バブル」という観点から警戒し、状況に応じて締め付け策を取ってきましたが、私の見方では、今後、IT、ネット金融といった分野がこの分類に入ってくる見込みです。

 もちろん、この新政策を受けて、中国の関連産業、企業が低迷する、株価が下がるという状況にはならないでしょう。ただ、マーケットのルールと秩序を整理するために、これから一定期間(短くて数カ月、長くて数年)、「整頓のための過渡期」に入るということです。

 私は株の専門家ではなく、特に具体的な銘柄や案件への直接的な言及は避けますが、仮に私が関連企業に投資しているとした場合、政府の締め付け策を受けて、株価が「急落」した際に多めに買い、それをしばらく持ち続ける選択をするでしょう。

「賃貸住宅への傾斜と下支え」が次なる不動産政策

(6)「賃貸住宅への傾斜と下支え」が次なる不動産政策

 近年、中国政府の不動産市場への政策の根幹は、「住宅というのは住むためのものであり、投機のためのものではない」というものです。不動産バブルを警戒し、同市場への投機マネーに警告を与えることを目的にしています。中央政府として、引き続き不動産バブルの形成と崩壊を、中国経済にとっての最大のリスクの一つと認識しているのです。

 その意味で、会議が「大都市における住宅の突出した問題を解決する」、「保障性のある賃貸住宅を高度に重視し、分譲と賃貸住宅が公共サービスにおいて同等の権利を得られるようにする」、「土地供給も賃貸住宅の建設に傾斜させる」と明記したのは特筆に値します。

 私の分析では、やはり新型コロナや景気の相対的低迷を受けて、特に都市部で生活する若年層の雇用や収入を懸念しているということだと思います。

 この層は、中国で現在4億人いる中産階級に属し、科学技術やイノベーションを含め、中国経済を長期的にけん引していく、マーケットにおける、労働や消費を含めたアクティブプレイヤーです。彼ら、彼女らの支出圧力を緩和することで、社会不安を削減し、経済成長に生かすというもくろみがあるのでしょう。

 賃貸住宅の充実は、同時に投機マネーが流れる分譲住宅の氾濫をけん制し、不動産バブルの形成・崩壊という政府の懸念を解消することにもつながるという意味で、一石二鳥の良い政策だと踏んでいるのでしょう。実際に、この政策は中国市場において「世論受け」する類のものです。

食糧問題と環境問題への対応は?

(7)米国との長期的競争を意識した「食料安全保障」が国家戦略に

 会議は「食料と耕地の問題をしっかり解決する」と、食料安全保障を来年の経済政策における優先項目にあげました。14億人を養うために、近年、中国は食糧の純輸入国として歩んできました。

 例えば、2018年、中国は32億人民元を使って7.27万トンの食糧を輸入しています。会議は、120万平方キロメートル、すなわち国土の8分の1を食料生産のための高地にするという「レッドライン」を明記しました。

 3年ぶりに中央経済工作会議で審議された「食料安全保障」は、明らかに米国との国力の競争が長期戦になるという前提に立っています。政府は、食料生産に不可欠な耕地(土地)を非農業、非食料生産の目的で開発、使用することを断固として封じ込めるという立場を表明しています。

 今後、中国は全国各地の党・政府による支持の下、農業関連の研究開発や技術革新が促進される見込みです。農業、食料関連の銘柄が今後どう推移するか注目の価値ありです。

(8)環境汚染、気候変動対策を戦略的に推進

 今年に入ってから、習近平総書記も表明したように、中国は国家目標として、二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにCO2排出量と除去量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを目指しています。

 会議では、前者のための行動計画を一刻も早く制定する任務がうたわれ、条件が整っている地方から目標達成に邁進することを中央政府として支持する立場を表明しました。

 この過程で、産業、エネルギー構造を最適化し、石炭消費を可能な限り減少に転じさせ、再生可能エネルギーの大々的発展を推進することを提唱しました。これから、大規模な「国土緑化行動」を推進していくとも提起しています。

 私から見て、中国共産党指導部は、環境汚染や気候変動に関する対策を、国内では人々の生活環境を改善させ、持続可能な経済を実現し、対外的には中国の影響力や発信力を向上させることができる分野だと認識し、高度に重視してきました。この傾向は、米国がバイデン政権に移行する過程で、強まることはあってもその逆はないでしょう。

 中国共産党の政策分析という観点から言えば、政府の環境汚染、気候変動政策に関与、貢献する分野、銘柄、例えばクリーンエネルギー株などは一押しです。短期的に見ても、長期的に考えても、下落する理由や背景が見出せません。

 この分野には勢いのある民間企業が多く、コーポレートガバナンスや透明性という意味でも、中国の中では先進的です。中国の環境分野に資本、技術、管理経験といった側面から参画する外資も面白いかもしれません。