新型コロナの終息見えず波乱の予感も、ニューノーマルで年末には平穏さ戻る
大和アセットマネジメント株式会社
長野吉納
2020年は新型コロナウイルスの大流行という、年初には夢想だにしなかった事態となりました。「3密」が流行語大賞となるなど、日常生活の隅々まで、新型コロナウイルスの影響が及びました。
経済・金融市場も大きな影響を受け、当初は株価が急落、GDP(国内総生産)も歴史的マイナス成長を記録しました。しかし、財政・金融の政策総動員により、その後は回復基調を維持しています。
まだまだ新型コロナウイルスの感染終息が見えない状況であることから、2021年の経済・金融市場も途中経過は波瀾(はらん)万丈が予想されますが、着地は意外と平穏無事ではないかというのが、現時点での見立てです。
2021年はこうなる!10大予測 | |||||
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1 | バブルも危機も起こらず、年末比較では平穏な1年に | ||||
2 | 新型コロナウイルスの感染終息宣言は出せず | ||||
3 | 米中関係の改善は見られず | ||||
4 | バーチャル化が一段と進展 | ||||
5 | 東京五輪が開催され大盛況で終幕(*) | ||||
6 | 衆院選で与党が大勝し、菅首相が長期政権の足場を固める(*) | ||||
7 | 米国中心に長期金利が一時急上昇(*) | ||||
8 | ドル安が進行し、ドル/円も円高に(*) | ||||
9 | 電気自動車増産期待などでレアアースが急騰(*) | ||||
10 | イランが孤立を深め中東紛争リスクが高まる(*) | ||||
注:(*)はサプライズ予想。世間一般で考えられているよりも、大和アセットマネジメントでは発生確率が高いと考えている事象。ただし、必ずしも5割以上の確率を想定しているわけではなく、それらが大和アセットマネジメントの基本シナリオとは限らない |
1:バブルも危機も起こらず、年末比較では平穏な1年に
金融市場では、新型コロナウイルス感染拡大懸念が再燃し、リスクオフが急激に進む局面もあれば、コロナワクチンの接種が進むことで安心感が広がり、リスク選好が台頭する局面もあり、2020年同様、波の荒い展開が想定されます。
しかし、次第に「新型コロナウイルスのある日常」が普通となる結果、新型コロナウイルスが金融市場の材料となることも少なくなり、金融市場はファンダメンタルズから見てあるべき水準に落ち着くと考えます。
2:新型コロナウイルスの感染終息宣言は出せず
コロナワクチンの接種が進んだとしても、100%の感染防止は困難なことや、ワクチンの効果検証にも半年、1年といった時間が必要と考えられることから、2021年中に感染終息宣言を出すことは難しいと考えられます。
しかし、「新型コロナウイルスのある日常」が普通となることで、過度な警戒感は薄らぎ、旅行やエンターテインメントなどの活動も、新型コロナ前の状況にかなり近づくと思われます。
3:米中関係の改善は見られず
米国のトランプ政権からバイデン政権への交代により、一部には米中関係が改善に向かうとの期待もあります。
しかし、世論調査によると、足元では民主党支持者においても過半が中国を快く思っていないことや、民主党議員は共和党議員以上に人権問題などで中国に厳しい見方をする可能性もあることから、米中関係は対立した状態が継続すると考えられます。
4:バーチャル化が一段と進展
2020年は新型コロナウイルス感染拡大とともに、テレワークをはじめとして、さまざまな分野でバーチャル化が進展しました。この流れは、2021年も継続すると考えられます。それは、バーチャル化が一部で生産性の向上をもたらすとともに「楽」な面があるからです。「楽」になれた人間が、さらなる「楽」を追求することはあっても、不便に戻ることはないでしょう。
その半面、バーチャル化が進めば進むほど、真の「リアル」の価値はより高まり、たまに接する「リアル」に多額を投じる消費行動も増えるのではないでしょうか。
5:東京五輪が開催され大盛況で終幕
そもそも開催されるのか、開催されたとしても盛り上がりに欠けるのではないかとの懸念がある東京五輪ですが、春を過ぎる頃には新型コロナウイルスの感染がいったん沈静化し、またワクチン接種も広がることで、東京五輪を開催する環境が整うと考えます。
開催までこぎつければ、選手たちの思いとパフォーマンスが世界中のリアルとバーチャルの観客を魅了し、成功裏に終幕を迎えるでしょう。観客数はある程度制限されるでしょうが、その分、メディアはカメラワークをはじめ、今までにない映像をクリエートしてくると予想され、新たな五輪、スポーツの楽しみ方が提示される可能性もあると思われます。
6:衆院選で与党が大勝し、菅首相が長期政権の足場を固める
2021年10月21日に衆議院は任期満了となります。したがって2021年は衆院選がいつ行われるのかが、金融市場においても注目点の一つです。
任期満了に近い選挙は、いわゆる「追い込まれ解散」になりやすいため避けるのが一般的ですが、2021年前半は予算や東京五輪準備で日程的に余裕がないように思われます。そうであれば、東京五輪後の盛り上がったところで選挙に出るのが上策と考えるのではないでしょうか。
菅内閣は、安倍長期政権後のつなぎとの見方もありますが、東京五輪の成功を背景に与党が予想以上の勝利を収め、立役者である菅首相が長期政権の足場を固める可能性があると考えます。
7:米国中心に長期金利が一時急上昇
夏場にかけて、新型コロナウイルスの感染が一時的に沈静化し、コロナワクチン接種も進むことで、経済正常化への期待が世界的に高まる可能性があると考えます。現状では数年にわたって超低金利政策の据え置きが予想されている米国の金融政策も、巻き戻しの思惑が急浮上し、長期金利が急上昇する可能性もあると思われます。米国長期金利の上昇は世界の金融市場に波乱をもたらし、急速にリスクオフが進む恐れもありそうです。
8:ドル安が進行し、ドル/円も円高に
米国長期金利の上昇は、新型コロナウイルスの感染終息が見えないことなどで一時的なものに終わり、また金利上昇を抑制するためのFRB(米連邦準備制度理事会)の行動を誘発することで、急上昇後に一転急低下する可能性があると思われます。
金利上昇はドル高要因ですが、イエレン次期財務長官はFRB議長時代にドル高への警戒を示したこともあるため、ドル高局面では口先介入する可能性もあると考えられます。市場参加者が信頼感を持つイエレン次期財務長官がドル高をけん制したとなれば、その効果は大きく、急速にドル安が進行し、ドル/円でも円高に振れる可能性があると思われます。
9:電気自動車増産期待などでレアアースが急騰
米国、中国が温暖化ガス排出削減に動き始めたこともあり、世界的に電気自動車(ハイブリッド車や燃料電池車を含む)シフトが加速し始めています。
高性能の電池やモーターにはレアアースが不可欠とされており、その生産の多くを中国が担っています。中国は以前、レアアースの輸出を制限した際、価格高騰やサプライチェーン見直しで需要減退を招いたこともあり、輸出制限には慎重とみられていますが、需要の強さと国際情勢によっては戦略物資として管理し、その結果、価格が高騰する可能性もあると考えられます。
10:イランが孤立を深め中東紛争リスクが高まる
米国の政権交代を受け、米国とイランの関係が改善に向かうとの期待もありますが、従来は対立していたイスラエルとアラブ諸国が、対イランでの利害一致などもあり関係改善に動いたことで、米国としてはイランと対立するイスラエル・アラブ諸国側に付かざるを得ません。
イランも関係改善を期待しているようですが、失望する結果となり、また2021年に実施予定のイランの大統領選挙では対外強硬論が世論をリードしやすいとみられるため、一段とイランが強硬路線に振れることも考えられます。中東情勢のさらなる緊張は、世界の金融市場にもネガティブな影響を及ぼす恐れがあります。
新たな視点で客観的に状況を整理できるチャンス
以上が大和アセットマネジメントの考える2021年の10大予測です。実際のところ、1年後に10大予測がズバズバ当たることはあまりありませんが、予想外のことが起こったとしても、意外と着眼点や考え方は的を射ていたりします。年末年初に1年を考えることは、これまでの状況やポジションといった過去に引きずられることなく、新たな視点で客観的に状況を整理できるというメリットがあるのかもしれません。
ぜひ、皆さんも皆さんなりの10大予測を考えて、1年後に振り返ってみてはいかがでしょうか。きっと新たな気づきがあると思います。
長野吉納(ながの・よしのり)プロフィール
大和アセットマネジメント株式会社調査部長。
1991(平成3)年大和証券投資信託委託株式会社(現大和アセットマネジメント株式会社)へ入社。アナリスト・ファンドマネージャーを経て、現在はストラテジスト業務の一方調査部長として国内外のエコノミスト・ストラテジストを統括する。入社以来約30年にわたり一貫して株式市場を中心とした金融市場でのグローバルな調査・運用業務に従事している。
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