早いもので今年も残すところ1週間余りになりました。新型コロナウイルスに振り回された1年でしたが、残念ながら、来年もコロナ禍は継続する可能性が高そうです。

 ワクチンの開発は進みましたが、日本でワクチンが普及するのはまだ先。集団免疫が確立するのは、2022年4月頃と目されています。また、イギリスで新型コロナウイルス変異種の感染拡大が確認されたことで、過度の期待は禁物にも思えます。

 こうした状況を踏まえ、2021年の経済・社会にどのような動きがあるかを考える際、コロナ禍が継続するという前提に立っています。社会全体としては厳しい状況ではありますが、その中にも前向きな動きがあると思います。

2021年の日本経済・社会 10大予測
1 東京五輪・パラ五輪、一部は無観客試合に
2 業界再編。宿泊・飲食サービスは激震
3 株主優待に転機
4 ふるさと納税は大都市圏の攻勢で過熱
5 コンテンツはVRに注目
6 解雇規制緩和の議論が本格化
7 空前の勉強ブーム到来
8 健康志向の高まりは様々な業界に波及
9 金融緩和継続で強気相場は続くも、オフィス市況は軟調
10 コロナ税の議論は場外乱闘で

オリンピック開催は?外食へのダメージは?

1.東京五輪・パラ五輪、一部は無観客試合に

 2021年の最大のイベントは東京五輪・パラ五輪。世論調査では新型コロナ感染拡大を踏まえ、東京五輪・パラ五輪の中止を求める声が増えていますが、欧米並みの感染拡大がない限りは、都市機能も行政もほぼ通常通り機能するので、開催されると見ています。

 政治も絡みます。前倒し解散がなければ、衆議院議員の任期満了は10月。東京都議会議員の任期満了は7月22日。選挙イヤーです。中止すると政治的ダメージが大きいですし、IOCも中止を否定しています。

 ただ、医療リソースの制約があることは事実。感染対策だけでなく、熱中症による救急搬送の抑制など様々な措置を講じる必要があります。大規模な観客動員もスタッフ・ボランティアの大量投入も難しいでしょう。条件が悪い競技会場では観客を減らすにとどまらず、無観客試合もありえそうです。

2.宿泊・飲食サービスは大激震

 他の業種に比べて、著しく経営が苦しい宿泊・飲食サービス。日銀短観(12月調査)の宿泊・飲食サービス(全規模)の業況判断DIは▲66、資金繰り判断DIは▲40と厳しい数字でした。

 そして、12月14日に年末年始のGoToトラベル全国一律停止が決まったことで、さらに追い込まれました。制度融資等を利用して、極限まで資金調達をしてこの状況ですので、自力で踏ん張る余地は限られています。ただでさえ多かった倒産・廃業が、年度末に向けて一層増加するでしょう。

 食材を納める業者などを巻き込んでの連鎖倒産もあり得ます。比較的資金余力のある大手はこれを機会に業界再編を仕掛けることも考えられます。また、コロナ後を見据えて、割安と見た外資による買収も増えそうです。

優待は危機?ふるさと納税は再過熱?

3.株主優待に転機

 引き続き人気の株主優待ですが、2021年は転機が訪れるかもしれません。資金繰りを支援する政策が続いていますが、金融機関からすれば、貸出先には少しでも多くの自己資本を確保して欲しい局面です。

 経営が厳しい状況では、キャッシュフローが流出するような株主優待(例えば、ギフトカードや商品カタログ)への風当たりが強まります。飲食店の優待券・割引券も店舗の閉鎖や業態変更で使いにくくなっています。こうした流れは来年も続くので、株主優待への見方がシビアになりそうです。

4.ふるさと納税は大都市圏の攻勢で過熱

 株主優待の熱が冷める一方、ふるさと納税は引き続き人気を博しそうです。コロナ禍の支出で自治体の財政は火の車。税収減もあり、一円でも多くの収入が欲しいと躍起です。

 東京都内ではこれまでふるさと納税の返礼品を設けていなかった渋谷区や三鷹市などが返礼品を新設しました。ふるさと納税で他の自治体に税収が奪われるのを少しでも減らすためです。

 ふるさと納税はマクロで見れば、税収はゼロサムどころかマイナスサムになるのですが、背に腹は代えられません。大都市圏の税収が地方に流れるという構図に待ったをかけようとするなら、地方はさらに返礼品に知恵を絞ります。「仁義なき戦い」になるかもしれません。

解雇規制の議論本格化。勉強・健康ブームが来る?

5.コンテンツはVRに注目

 リアルでの情報発信やイベントが難しいので、YouTubeなどの動画配信サービスを利用した発信が増えています。情報発信が容易になると視聴者側の選択肢が増えるというメリットがある一方、どうしてもコンテンツが玉石混交になるというデメリットがあります。ビジネスとして動画の付加価値を高めていくにあたって、来年は差別化・高度化したコンテンツ、特にVRが増えそうです。

 コンサートや海外旅行などの代替として需要がありますし、リアルな空間よりもバーチャル空間の方が一度にたくさんの集客ができます。5Gの通信網整備を見越してコンテンツ開発も進みそうです。ゲーム業界でもPS5の普及でVRに弾みが出るかもしれません。

6.解雇規制緩和の議論が本格化

 目下、失業率は上昇を続け、10月の完全失業率は3.1%になりました。これだけのショックの割にはまだ低い水準にありますが、雇用調整助成金など様々な支援策があっての数字なので、実態はもっと悪いことになります。

 一方、こうした支援で失業を免れているのは、主に正社員。正社員というインサイダーとそれ以外のアウトサイダーの格差が広がっているうえ、中高年の雇用を守るために、若年層、特に新卒にしわ寄せがきています。

 こうした対立軸に加え、ゾンビ企業が人材を活用できず、不況からの回復を遅くするという指摘もあります。事業承継や中小企業再編の議論とともに日本型雇用慣行の是非、とくに解雇規制をめぐる議論が本格化しそうです。

7.社会人の勉強ブーム到来

 在宅勤務が増えて通勤時間が減った分、今年はビジネス書が売れたようです。また、様々なウェビナー(Webを使ったセミナー、オンラインセミナー)が開催されました。

 当初は物珍しさや新しい交流の機会としての利用が多かったようですが、勤務先あるいは自分のキャリアに対する不安もあって、来年はより実践的な内容や高度な内容を勉強するニーズが増すと思います。

 オンラインに特化することで格安の資格試験講座を提供する事業者が伸びています。また、無料で誰でも視聴できる大学の講義の動画配信が増えています。6.で述べた日本型雇用慣行の議論もあり、社会人の勉強ブームが来そうです。

8.健康志向の高まりは様々な業界に波及

 在宅勤務による運動不足や体重の増加、また、こうした情勢なのでストレスに悩まされる方が増えています。

 日本は医療機関へのアクセスが容易で、医療費の自己負担も少ないことから、予防医療への関心が薄かったのですが、コロナ禍で潮目が変わりつつあります。食事、運動、睡眠など様々な分野で情報発信が増え、オンラインによるカウンセリングも広がりました。

 また、新型コロナウイルス重症化の遺伝的リスク因子はネアンデルタール人から受け継いだと考えられるという、ネイチャーの論文を機に遺伝子検査に関心を持つ方も増えました。日本はバイオもヘルステックも遅れ気味ですが、逆に言えば、伸びしろが大きい分野でもあります。

金融相場で株は強気?コロナ税どうなる?

9.金融緩和継続で強気相場は続くも、オフィス市況は軟調

 経済が本格的に回復するにはまだ時間がかかるので、世界的な低金利、カネ余りは来年も続きます。

 日本では異次元緩和も続きますし(むしろ、出口がないのではと心配です)、財政出動も積極的です。一部の業種を除けば、資金繰りに余裕があるため、信用リスクは低く抑えられています。個人的にはやや楽観的なのではとも思いますが、強気相場を理屈づける材料には事欠きません。

 一方、大企業のオフィスワーカーを中心に在宅勤務が進み、コロナが終息しても、在宅勤務を継続するという動きが強まっています。オフィスの減床を表明する企業も増え、契約更新のタイミングで影響がはっきりと出て来そうです。

 副次的な影響として、在宅勤務のスペース確保の需要、空きテナントの利用という供給要因から、トランクルームの増加が見込まれます。

10.コロナ税の議論は場外乱闘で

 2020年度は過去最高の国債発行額になり、年度末の政府債務対GDP比では260%を超える見込みです。2021年度も高水準の財政支出が続きます。

 東日本大震災後に復興税が課せられたように、コロナ税が課せられる可能性は十分に高く、来年は国会外での議論が白熱すると思われます。選挙もあり政治の場では増税の議論がしにくいですが、国債格付けへの影響が懸念されますし、将来の社会保障への不安から消費を控える動きが見られます。

 資金循環統計の家計の金融資産は1900兆円を突破し、資産格差の拡大が窺えます。当然、反対意見も多いですし、増税派の中でもどの税を上げるかで紛糾するでしょう。来年や再来年に増税できる環境になるとは思えませんが、コロナ禍で格差が広がったこともあり、キャピタルゲイン課税が注目を集めそうです。