毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄:信越化学工業(4063)、SUMCO(3436)
1.2020年7-9月期の半導体用シリコンウェハ世界出荷面積は、前年比6.9%増、前期比0.5%減
SEMI(国際半導体製造装置材料協会)が2020年11月4日に公表した2020年7-9月期の半導体用シリコンウェハ世界出荷面積は、31億3,500万平方インチ(前年比6.9%増、前期比0.5%減)となりました。
2020年7-9月期前年比は、5Gスマホ、パソコン、サーバーなどの販売増加に伴う世界半導体出荷の増加により、2020年4-6月期に続きシリコンウェハとしては高い伸びを示しました。
一方、前期比(2020年4-6月期比)では微減でした。新型コロナウイルス感染症による半導体サプライチェーンの混乱に直面した大手半導体メーカーが、2020年1-3月期、4-6月期と半導体用シリコンウェハの社内在庫を積み上げましたが、7-9月期にその動きが一服したためです。
グラフ1 半導体用シリコンウェハの世界出荷面積:四半期ベース
表1 半導体用シリコンウェハの世界出荷
2.2022~2023年にシリコンウェハ需給ひっ迫か
SEMIは10月14日に半導体用シリコンウェハの中期予測を発表しています。その中身を、表2に示します(グラフ1、表1はノンポリッシュドウェハを含んでいるが、表2は含まない。その差は僅少である)。2020年の前年比は2.4%増と小幅ですが、2021年、2022年、2023年は各々5.0%増、5.3%増、4.1%増と比較的高い伸びになっています。
信越化学工業、SUMCOの各社は、顧客が要望する出荷面積に応じて設備投資を行う「逐次増強」を行っているため、急な需要増加が起こると、需給ひっ迫が起こりやすくなります。このまま進めば、2022年には需給ひっ迫とそれに伴う比較的大きな幅の価格上昇が起こる可能性があるため、2022~2023年には逐次増強ではない(グリーンフィールドを含む)設備投資増強が検討される可能性があります(グリーンフィールドは工場新設。既存ラインの増強はブラウンフィールドと呼ばれる)。
このように考えると、信越化学工業半導体シリコン事業とSUMCOの業績は、2022年3月期(SUMCOは2021年12月期)、2023年3月期(同2022年12月期)と順調に拡大すると予想されます。
表2 シリコンウェハ出荷面積予測
3.世界シェア3位のグローバルウェーハズが4位のシルトロニックを買収する
12月10日付けで半導体用シリコンウェハで世界シェア第3位のグローバルウェーハズ(台湾)はドイツのシルトロニック(世界シェア第4位)を買収すると発表しました。両社を単純合算すると世界シェアはSUMCOを抜き、信越化学工業に次ぐ業界2位になります。
グローバルウェーハズは、先端品以外の汎用シリコンウェハの大手であり買収を繰り返して大手になった会社です。また、シルトロニックは、7ナノ、5ナノ向けの先端品の量産には十分成功しておらず、それ以下の準先端品が主力と思われます。このため両社の合併後は、先端品市場では信越化学工業とSUMCOに影響はないと思われますが、汎用品では競合すると思われます。
表3 半導体用シリコンウェハ業界の業界シェア(売上高ベース)
信越化学工業
1.2021年3月期2Qは、12.3%減収、9.4%営業減益
信越化学工業の2021年3月期2Q(2020年7-9月期)は、売上高3,511億8,700万円(前年比12.3%減)、営業利益933億8,000万円(同9.4%減)と減収減益になりました。前期比(今1Q比)では減収増益となりました。
表4 信越化学工業の業績
表5 信越化学工業のセグメント別業績:四半期ベース
表6 信越化学工業のセグメント別業績:通期ベース
2.セグメント別動向
1)塩ビ・化成品:6月から塩ビ市況が上昇に転じ、事業環境が好転した
セグメント別に見ると、塩ビ・化成品事業は、売上高1,036億円(前年比20.5%減)、営業利益183億円(同30.4%減)となりました。アメリカの塩ビ子会社シンテック(12月決算。信越化学工業の7-9月期決算にはシンテックの4-6月期決算が取り込まれている)が、新型コロナによる不況のため、4,5月と塩ビ価格を値下げしたことが響きました。
ただし値下げ後は、巣ごもりによるDIY需要や、アメリカ・メキシコ国境に建設中の「トランプの壁」に塩ビパイプが大量に使われること、経済対策の効果などによる需要の増加に加え、タイフーンによって競合する2社が出荷停止となったため、6月以降継続的に市況が上昇しています。
この結果、年初から10月までに累計18セント、推定で10~15%程度塩ビ市況が上昇しています(会社側は値上げ幅のベースとなる塩ビの本体出荷価格を公表していない)。これによって、シンテックの7-9月期、信越化学の10-12月期から、塩ビ・化成品事業の業績は好転すると思われます。
楽天証券では、このような塩ビの需要増加と市況好転を織り込み、塩ビ・化成品事業の業績を2021年3月期売上高4,470億円(前年比7.7%減)、営業利益850億円(同7.7%減)、2022年3月期売上高4,840億円(同8.3%増)、営業利益1,140億円(同34.1%増)と予想します。今期は減益となる見込みですが、来期は二ケタ増益転換すると予想されます。また、景気回復が続けば、2023年3月期も業績好調が予想されます(今回の2021年3月期楽天証券予想は前回予想より下方修正になっていますが、これは4-6月期の市況下落を織り込んだためです)。
2)シリコーン:化粧品向けが悪化しているが、自動車向けが回復
シリコーンは、化粧品、建材、自動車など多種多様な用途で使われています。今1Q、2Qは化粧品向け、自動車向けが悪化したため、大幅減益となりました。ただし、足元では自動車向け、建設向けが回復しています。今3Qからは業績回復が期待できます。
3)機能性化学品
今2Qは医薬品向けセルロースが伸びましたが、建材用が不調でした。今3Qからは緩やかな回復が予想されます。
4)半導体シリコン:長期契約価格は小幅上昇が続く
2021年3月期2Qは売上高941億円(前年比3.4%減)、営業利益370億円(同5.7%増)と堅調な決算でした。今1Q比では減収減益でしたが、これは新型コロナ禍の中で大手半導体メーカーが今年3月頃から行ってきたシリコンウェハの社内在庫積み増しの動きが7-9月期に一服したためです。実需は先端品中心に順調に伸びており、特に10ナノ、7ナノ、5ナノの先端ロジック半導体向けエピタキシャルウェハの実需が強いもようです。信越化学が強いメモリ向けポリッシュドウェハも堅調と思われます。また、7-9月期は自動車向け200ミリウェハが回復しており、業績に寄与したと思われます。
主力の300ミリウェハの長期契約比率は2020年で推定95%以上、2021年で80~90%と思われます。先端品の実需が強いことから、長期契約価格は300ミリウェハについて、年率5%以上上昇していると思われます。2020年の5ナノ量産開始、2021年のDDR5(最新の高速DRAM)本格量産開始、2022年の3ナノ量産開始と、これらの生産ラインにEUV露光装置が普及するにしたがって、シリコンウェハもより高純度の先端品が必要になります。そのため、300ミリではコスト増加以上の値上げ(おおむね5%以上か)が毎年実現すると予想されます。
SUMCOが2017~2018年に行った40~50%の300ミリウェハの値戻しに比べると(信越化学も同様の値戻しを行った模様)、今の長期契約価格の値上げ幅は小幅ですが、先端品の需要増加は今後も続き、2022~2023年には300ミリウェハの需給ひっ迫が予想されるため、長期契約価格は堅調に上昇すると予想されます。
また、200ミリウェハの需要好調が続く場合は、200ミリの長期契約価格、スポット価格ともに上昇すると予想されます(2020年の200ミリの長期契約比率は不明だが、2019年が約70%だったので同程度か)。そうなれば、これも来期以降の業績に寄与すると思われます。
このため、楽天証券では半導体シリコン事業の業績を、2021年3月期売上高3900億円(前年比0.6%増)、営業利益1600億円(同11.7%増)、2022年3月期売上高4290億円(同10.0%増)、営業利益1900億円(同18.8%増)、2023年3月期売上高4700億円(同9.6%増)、営業利益2200億円(同15.8%増)と予想します。引き続き信越化学の全社業績を牽引すると思われます(2022年3月期楽天証券予想は前回予想に比べ下方修正になっているが、これは前回予想が強気すぎたため)。
5)電子・機能材料:EUVレジストに注目したい
今2Qは売上高571億円(前年比0.9%増)、営業利益185億円(同10.8%増)となりました。今1Qに比べても増収増益となりました。今1Qに新型コロナ禍の影響で工場稼働率が落ちていたマグネットが回復しました。半導体向けではArF露光装置向けレジスト(シリコンウェハ上に回路を描画する時に使う感光材)とマスクブランクス(シリコンウェハ上に回路を描きつけるときに使う回路を描き込んだフォトマスクの材料)が今1Qに回復し、今2Qも高水準でした。
先端半導体の生産に必要な電子材料を生産しており、今期以降も業績好調が予想されます。今後はEUV用レジストの増加が予想されます。
3.2021年3月期会社予想は上乗せ期待が強い。
2021年3月期会社予想業績は、売上高1兆4,300億円(前年比7.4%増)、営業利益3,770億円(同7.2%減)ですが、楽天証券では各セグメントの積み上げ予想により、2021年3月期を売上高1兆4,700億円(同4.8%減)、営業利益4,050億円(同0.3%減)と会社予想に対して上乗せを予想しています。
また2022年3月期を売上高1兆5,900億円(同8.2%増)、営業利益4,900億円(同21.0%増)、2023年3月期を売上高1兆7,300億円(同8.8%増)、営業利益5,700億円(同16.3%増)と予想します。半導体シリコン、電子・機能材料、塩ビ・化成品の3事業による順調な業績拡大が予想されます。
4.今後6~12カ月間の目標株価を2万2,000円とする。
今後6~12カ月間の目標株価を2万2,000円とし、前回の1万8,000円から引き上げます。今回の半導体ブームの中で中長期投資の対象として評価するために、2023年3月期楽天証券予想EPS 1,018.7円にシリコンウェハ、電子材料、塩ビの成長性を考慮して想定PER20~25倍を当てはめました。中長期での投資妙味を感じます。
SUMCO
1.2020年12月期3Qは、0.6%減収、25.7%営業減益
SUMCOの2020年12月期3Q(2020年7-9月期)は、売上高716億300万円(前年比0.6%減)、営業利益66億2,400万円(同25.7%減)となりました。前年比、前期比(今2Q比)とも大幅減益となりましたが、これは、9月に九州を襲った台風によって一時工場が停止したこと、ロジック向け先端品(主に7ナノ、5ナノ向け)の需要が急に増えたため、生産性(歩留まり)が悪い中で生産増加を優先したことによります。
300ミリウェハの需要は今3Qはロジック向け先端品中心に増加しており、メモリも回復傾向でした。この傾向が今4Qも続くと予想されます。また200ミリは、今3Qは民生、自動車向けが軟化しましたが、今4Qに入って自動車向けが急回復しています。
価格は300ミリの長期契約価格は堅調に上昇していると思われますが、300ミリ売上高の約20%を占めるスポット価格は今3Qも下落しました(長期契約は2~3年間の各年の納入数量と価格を取り決める。スポット価格は四半期に1回値決めする。SUMCOのスポット販売は台湾の合弁会社FSTが主に行っており、SUMCO本体でも一部行っている)。今4Qも300ミリスポット価格は軟化が予想されます。一方、200ミリは長期契約、スポットともに需給ひっ迫による価格上昇の可能性が出てきました。
表7 SUMCOの業績
2.事業環境は好転。2020年12月期3Qが業績の大底か。
事業環境は好転しています。300ミリウェハの先端品の需要が強く、ロジック向け高純度エピタキシャルウェハに強いSUMCOにとっては追い風です。7ナノ、5ナノ、3ナノ(2022年量産開始予定)と微細化が進むにつれてシリコンウェハの規格も高度化するため、長期契約価格は上げやすくなると思われます。今期は先端品の生産性に問題が生じましたが、時間がたつにつれ改善すると思われます。
また300ミリスポット価格は、2018年年末から2019年年初にピークを付けた後下がり続けているもようですが、現在長期契約価格に近い水準にあるもようです。そのため、300ミリスポット価格は今後は下がりにくくなると思われます(スポット価格が長期契約価格を下回るとスポット価格による需要が発生して価格が戻ると思われる)。
また、200ミリも事業環境が変化してきました。200ミリに対しては各社とも増産投資を行っていないため、自動車向けの需要の伸びが続けば、2021年中にも需給がタイト化し、200ミリのスポット価格上昇が起こる可能性があります。
楽天証券ではこのような事業環境の好転を踏まえ、SUMCOの2020年12月期業績を会社予想売上高2,912億円(前年比2.8%減)、営業利益372億円(同26.5%減)に近い売上高2,950億円(同1.5%減)、営業利益380億円(同25.0%減)と予想します。
また、来期2021年12月期は売上高3,300億円(同11.9%増)、営業利益530億円(同39.5%増)と予想します。300ミリ、200ミリの長期契約価格、スポット価格が各々5~6%上昇し、需要が順調に増えると想定しました。
3.今後6~12カ月間の目標株価を2,900円とする。
今後6~12カ月間の目標株価を2,900円とし、前回の1,700円から引き上げます。2021年12月期楽天証券予想EPS 127.1円に今後のスポット価格反転と、長期契約価格のより一層の上昇を期待して想定PER20~25倍を当てはめました。投資妙味を感じます。
グラフ2 FORMOSA SUMCO TECHNOLOGY(FST)の月次売上高
本レポートに掲載した銘柄:信越化学工業(4063)、SUMCO(3436)
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