2021年のビットコイン相場を展望します。展望する上で参照するのは、2020年のビットコインや主要な株価指数、金(ゴールド)の価格推移、そして、2020年に起きた、新型コロナ関連をはじめとしたさまざまな出来事です。

 これらの価格推移や出来事から、主要なテーマを7つ取り上げ、“7大予測”とし、各テーマを掘り下げます。まずは、2020年のビットコイン価格の推移と、変動が大きかった時の主な要因を確認します。

図:2020年のビットコイン価格の推移(2020年1月1日から11月30日)単位:円/ビットコイン

出所:楽天ウォレットのデータより筆者作成

 上図からわかるとおり、また報じられている通り、2020年のビットコイン価格は大きく上昇しました。楽天ウォレットの11月30日のビットコイン価格は、1月1日に比べて、140%以上、高くなりました。年初に比べ、価格が2.4倍以上になったのです。

 同じ期間の、他の主要銘柄の騰落率は、NY金先物は+17.1%、NY原油先物は▲25.7%、NYダウは+3.9%、ナスダックは+38.8%、日経平均は+11.9%でした。ビットコインの上昇率は他の主要銘柄に比べ、突出していたと言えます。

 その突出した上昇は、「株や金との関係」、そして「新型コロナがもたらす影響」が主因となり、発生したと、筆者は考えています。また、これらは2021年も引き続き、ビットコイン相場の変動要因になり得ると、考えています。

 以下の7つは、「株や金との関係」「新型コロナがもたらす影響」という2大要因から、2021年のビットコイン相場を展望するヒントとして導き出したテーマです。

2021年のビットコイン相場予測
1 ビットコイン価格は、市場全体のムード改善時、主要株価指数とともに上昇する
2 ビットコイン価格は、ドルが大幅下落する時、金(ゴールド)とともに上昇する
3 ビットコインは、金相場低迷時、無国籍資産として株のヘッジ対象になり得る
4 ビットコイン価格の変動率は、イーサリアムの変動率の7割程度を維持する
5 円建てビットコインは、円高時、ドル建てに比べて上昇する力が弱くなる
6 コロナ禍でDXが加速し、ビットコインの通貨としての地位は向上する
7 主要国・企業のデジタル通貨容認により、ビットコインの通貨としての地位は向上する

1:ビットコイン価格は、市場全体のムード改善時、主要株価指数とともに上昇する

 2020年3月下旬から6月ごろまでの上昇局面、および11月3日の米大統領選投票日から発生した期待先行相場“バイデン・ワクチン相場”では、ビットコインは主要な株価指数とともに上昇しました。

 景気刺激策や新政権発足、有効性の高いワクチンなどへの、“強い期待”が先行する局面では、市場全体がリスクを取って運用を積極化させる“リスク・オン”のムードに覆われることがあります。このような“リスク・オン”のムードが強まっている時は、株価もビットコイン価格も、ともに上昇することがあります。

 逆に、2020年2月から3月にかけて発生した、大規模なショック“新型コロナ・ショック”のような、市場全体が“総売り”となった時は、株価もビットコイン価格も、ともに下落することもあります。

2:ビットコイン価格は、ドルが大幅下落する時、金(ゴールド)とともに上昇する

 2020年7月から8月初旬にかけて、ビットコイン価格は金価格とともに上昇しました。この間、国内外の金先物価格は、NY市場は1トロイオンスあたり2,000ドル、大阪市場は1グラムあたり7,000円という、史上最高値をつけました。

 金先物価格の史上最高値達成時、ビットコイン価格も、明確な上昇トレンドを描いていました。“ビットコイン高・金高”は、“無国籍資産”への注目が高まっていたことが一因であると、筆者は考えています。

 この間、米国の金融緩和策が強化されるとの見方から、米ドル(以下ドル)の下落が目立っていました。基軸通貨(貿易で最も多用される通貨)であるドルが下落したことで、“ドルの代わりの通貨”を物色する動きが目立ち、国籍がない、特定の国の信用状況に影響を受けない通貨“無国籍通貨”という側面を持つ、ビットコインや金が買われたと、考えられます。

 金融緩和が強化されるなどで、ドルが大きく下落する時は、ビットコインも金も、ともに上昇することがあります。逆に、ドルが大幅上昇した場合は、ともに下落することがあるため、注意が必要です。

3:ビットコインは、金相場低迷時、無国籍資産として株のヘッジ対象になり得る

 ヘッジとは、簡単に言えば“保険”です。例えば、株式を保有している投資家が回避したい(保険をかけたい)のは、株価が下落することで発生する損失です。

“株価が下落する局面で、上昇する銘柄を同時に保有すること”が、株式を保有している投資家にとっての“ヘッジ”と言えます。しばしば、金(ゴールド)は、株と相反する動き(逆の動き)をすることがあるため、金(ゴールド)は株のヘッジに役立つ、と言われることがあります。

 とはいえ、2020年10月のように、株が下落、金(ゴールド)も小動きという場面では、金が株のヘッジになじまないケースもあります。このような時に、金と同じ“無国籍資産”の側面を持つビットコインが、金に代わり、株のヘッジ役になることがあります。

 実際、2020年10月の騰落率は、NYダウが▲4.73%、金(ゴールド)が▲1.43%、ビットコインは+28.60%でした。ビットコインが、株の下落を補って余りある上昇をみせたわけです。

4:ビットコイン価格の変動率は、イーサリアムの変動率の7割程度を維持する

 ビットコインと暗号資産の中でも比較的人気があるイーサリアムについて、考えます。これら2つの価格の推移(山と谷のタイミング)はほとんど同じです。2020年1月1日から11月30日までの、2つの価格の関係を示す相関係数は、“非常に似通っている”ことを示す+0.91でした。

 一方、山と谷のタイミングが非常に似ているものの、異なる点もあります。変動率です。同じ期間で、上昇したり下落したりした時の“程度”が異なります。当日の終値と前日の終値を元に計算した変動率(前日比)は、2020年1月1日から11月30日までの平均で、ビットコインは+0.3%、イーサリアムは+0.5%でした。

 同じ期間の最大変動率は、ビットコインが+18.8%、イーサリアムが+20.4%、最小変動率はビットコインが▲27.1%、イーサリアムが▲32.0%でした。全体的に、ビットコインの変動率はイーサリアムの7割程度であることがわかります。

 そもそも、ビットコインは、先述のとおり、株価指数やコモディティ銘柄に比べて変動率が高い傾向があります。イーサリアムの変動率はそのビットコインを超えているわけです。

“変動率の高さ”をメリットと感じる投資家にとっては、ビットコインの他、イーサリアムも、投資対象になると言えそうです。2021年も、2020年と同様の傾向が続く可能性があると、筆者は考えています。

5:円建てビットコインは、円高時、ドル建てに比べて上昇する力が弱くなる

 同じビットコインでも、円建て(えんだて)とドル建て(どるだて)、という異なる通貨建てのビットコインが存在することに留意が必要です。

 コモディティ(商品)市場を例にすれば、NY金先物価格が世界の金価格の重要指標の一つであり、このNY金先物価格が変動すれば、世界中の異なる通貨建ての価格が、それに倣う傾向があります。大阪(日本)の円建て金先物価格も例外ではありません。

 NYのドル建て市場が上昇し、大阪の円建て市場がそれに連動する傾向があるのですが、時として、連動性が低くなる、NY市場が上昇しているのに、大阪市場がNY市場ほど上昇しない、あるいは大阪市場が逆に下落する、などの事象が発生することがあります。

 このような事象は、おおむね“ドル/円”の急変時に発生します。ドル建て市場が上昇した時、ドル/円が大きくドル安/円高に振れている場合、円高が重石となり、円建て市場がドル建てほど上昇しない、あるいは円建て市場は逆に下落することがあります。

 ドル建て市場が下落した時、ドル/円が大きくドル高/円安に振れている場合、円安が追い風となり、円建て市場がドル建てほど下落しない、あるいは円建て市場は逆に上昇することがあります。

 ビットコインの世界も同様で、円建て・ドル建てなど、通貨建てが異なるビットコインが存在することに、留意が必要です。後述する主要国のデジタル通貨政策などは、基軸通貨であるドルを基調としたドル建てビットコインに直接的に影響が及ぶ可能性があるためです。

 余裕があれば、国内で円建てビットコインに投資をする際、ドル建てビットコインや、ドル建てと円建ての間に存在する“ドル/円”の動きにも、注意してみるとよいと思います。

6:コロナ禍でDXが加速し、ビットコインの通貨としての地位は向上する

 “DX(ディーエックス)”とは、デジタル・トランスフォーメーションのことです。簡単に言えば、“社会の根底からのデジタル化”です。デジタル技術を使って、経営や事業のあり方、生活や働き方を“変革”する、という考え方です。

 付加価値を高めたり、効率化を図ったりする、単なるデジタル化(デジタライゼーション)とは、異なります。

 ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を確保して新型コロナの感染リスクを下げるために、ビデオ会議などのデジタル技術が各所で積極的に導入されているのはもちろんですが、紙や印鑑を廃止したり、免許証や保険証を一元化したり、新しい規格の電波(5G)を用いて、自動運転、医療、介護など、幅広い分野で変革が起きつつあります。一部は、過去の慣習を否定することを含むため、まさに“変革”と言えます。

 DXは、特に“コロナ禍”で進みやすくなっていると考えらえます。コロナ禍で、デジタル化の必要性に強く注目が集まっているためです。社会が、デジタル技術を以前にもまして、必要としているのです。コロナ禍が日本だけの話ではない以上、このような流れは、世界各地で起きています。

 通貨の分野でDXが進めば、何が起きるのでしょうか。紙幣や硬貨といった、手に取ることができるお金の流通量が減少するかもしれません。DXはデジタル技術によって社会を根底から変革するものであるため、DXが浸透した社会で“支払いは紙幣や硬貨で”ということは、少なくなると考えられます。

 社会で起きているDXの波は、さまざまな分野で大きくなる可能性がありますが、“デジタル”は、その名の通り、ビットコインが本領を発揮する舞台といえるでしょう。(コロナ禍がきっかけとなり)DXが浸透すればするほど、ビットコインは通貨としての地位を向上させる可能性があります。コロナ2年目の2021年は、ビットコインの地位をも占うDXの行方にも注目です。

7:主要国・企業のデジタル通貨容認により、ビットコインの通貨としての地位は向上する

 DXの流れの一環とも言える“通貨のデジタル化”が、各所で具体的に進行しています。

 中国ではすでに“デジタル人民元”の実証実験が始まっています。日本でも“デジタル円”の実証実験が2021年春に始まるとの報道もあります。これらは、中央銀行(日本でいえば日本銀行、中国でいえば中国人民銀行)が発行するデジタル通貨(CBDC)、つまり既存の法廷通貨のデジタル化という意味で話題を呼んでいます。

 また、米IT大手フェイスブックが提唱する「libra(リブラ)」も、2021年1月に運用が始まるとの報道があります。銀行口座を持っていなくても、スマートフォンがあれば、決済できるとされており、金融の技術が及んでいない国や地域の人々が商行為に参加できると、期待されています。

 このような流れが本格化すれば、管理者が今よりも容易に通貨を管理しやすくなったり、ニセ札が出回るデメリットを低減できたりするかもしれません。もちろん、ハッキングによる盗難やマネーロンダリングなどのリスクがある点に留意する必要はあります。

 主要国で実証実験が本格化したり、主要企業での運用が始まったりすれば、これまで以上に“デジタル通貨”が一般化すると考えられます。この点もまた、ビットコインの通貨としての地位を向上させる要因になると、考えられます。先述のDXの件と相成り、2021年は“デジタル通貨元年”と呼ばれる年になるかもしれません。

 以上、7大予測として、2020年に起きたさまざまな価格推移・出来事をもとに、2021年のビットコイン相場を展望しました。

 具体的な価格動向については、予測が難しいのですが、7大予測の中で述べた、(1)ビットコイン価格は、市場全体のムード改善時、主要株価指数とともに上昇する、(2)ビットコイン価格は、ドルが大幅下落する時、金(ゴールド)とともに上昇する、(3)ビットコインは、金相場低迷時、無国籍資産として株のヘッジ対象になり得る、が入れ替わりながら、断続的に発生し、かつ、(6)コロナ禍でDXが加速し、ビットコインの通貨としての地位は向上する、(7)主要国・企業のデジタル通貨容認により、ビットコインの通貨としての地位は向上する、といった、ビットコインの地位向上につながる要因が、通年で存在し続ければ、今(2020年12月時点)よりも、2021年12月の価格は高くなっていると、筆者は考えています。

 ただし、(7)について、主要国・企業のデジタル通貨の本格運用が始まった場合、“デジタル通貨の乱立”には注意が必要です。乱立は、注意・関心が分散する要因になるため、本格化するのはビットコインにとって好ましい面があるものの、乱立の域に達した場合は、要注意と言えそうです。

 2020年の動きを見てわかるとおり、暗号資産の分野で起きていることだけを見ていては、ビットコインの価格推移を説明することはできません。株式やコモディティ、ドルなどの、暗号資産の周辺の市場に、ヒントがたくさん隠されています。

 足元のビットコイン価格は、記録的な高値圏ではあるものの、本レポートで述べた予測の多くが程よく現実のものとなれば、ドル建て価格で、次の大台である2万ドルを通過点とし、さらに上値を伸ばす展開はあり得ると、筆者はみています。

 2021年は、単純にチャート(グラフ)を見て“高い”と言わず、周辺材料にも注意深く目を向けて、材料を俯瞰しながら、ビットコインの価格を見守っていくのがよいと、筆者は考えています。