今回のテーマは「現渡(げんわたし)」です。

 現渡とは、信用取引の売り建玉を買い返済、つまり株を買い戻して返却するのではなく、保有している現物株を返却することで手仕舞うことです。言葉の通り、現物株を渡すことで決済します。現渡しをすると、証券会社の口座内では、現物の保有株と売り建玉がなくなり、売り建玉分の代金が入金されます(もちろん諸経費は差し引かれます)。

 前回紹介した現引と同様、今回の現渡についても、「普通に返済すれば良いのに、わざわざ現物株で決済することにメリットがあるの?」という疑問が湧きますが、一般的には現引よりも現渡の方が「使える」とされているようです。現渡が主に使われるのは、「つなぎ売り」と呼ばれる局面ですが、言葉だけは聞いた事があるという方も多いかもしれません。

 つなぎ売りとは、保有している現物株が下落しそうな時に、売却するのではなく、信用取引で保有株数分の売り建てを行うことです。こうすることで、株価の下落による現物株の評価損を信用売り建ての評価益で相殺できます。予想に反して株価が上昇してしまったら、保有株式で現渡をします。

 例えば、100円で買った株が300円まで上昇し、現時点ですでに200円の利益が出ていますが、「まだ400円くらいまでは行きそう、だけどいったん調整があるかも」という時には、つなぎ売りが使えそうです。

 この場合では、現在の株価300円で売り建てをすることになります。その後の株価が150円まで下がった後に200円まで戻ったため、「調整が終了した」と判断すれば、信用売り建てのみを買い返済します。これにより、100円の利益を獲得しつつ、再び株価の上昇を待ちます。逆に調整がなく、一気に400円まで値上がりしたとしても、現渡によって200円の利益(300円-100円)が得られます。

 ここでのポイントは、つなぎ売りは保有株式の値下がりリスクを回避するための手段であること、すでに現物株で利益が出ている場合、つなぎ売りと現渡によって現時点での利益がいったん確定できるという点です。

 とはいえ、株価が下落しそうな場面でつなぎ売りをして、底を打ちの場面で買い戻しをするといったタイミングを捉えるというのは相当難しいと思います。ですので、つなぎ売りは「相場判断に迷いが生じた際の時間稼ぎ」として割り切ることも大事かと思います。少なくともつなぎ売りをしている期間は価格変動リスクが回避できます。

 また、「株主優待取り」として良く知られている取引手法も、つなぎ売りと現渡を組み合わせたものです。株主優待の権利付最終日に「現物買い・信用売り」を行い、権利落ち日以降に現渡を行うことで、株価の変動リスクを回避しつつ、株主優待をゲットできます。なお、この取引手法についてはこちらに詳しく載っています。

 ちなみに、株主優待取りでは逆日歩の発生がリスクとなります。逆日歩については以前も紹介したように、いつ、いくら発生するか分からない「厄介」なものです。ですので、信用売残が多い銘柄や、「貸株注意喚起」となっている銘柄、直近で逆日歩が「0円」となっている銘柄(結果的に逆日歩は発生していないが、株不足によって逆日歩決定の入札自体は行われている)、過去に逆日歩が多く発生している銘柄などはなるべく避けるといったことが大切です。

≫≫1分でわかる信用取引17【信用取引戦略】現物取引と賢く使い分ける(その1)

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