2021年の日本株は基本的に堅調なシナリオ。チェックしたい10の視点

 2020年は、ほぼ年間を通じて新型コロナウイルスに振り回される格好となりました。

 株式市場は、いわゆる感染拡大の「第1波」時に世界的に急落したかと思えば、その後の「第2波」「第3波」の局面を経て、NYダウ平均株価が3万ドル台に乗せたり、日経平均株価も29年ぶりの株価水準まで上昇するなど、歴史的な高値を更新するタイミングが、意外にもコロナ禍の真っただ中の時期となりました。

 また、歴史的と言えば、映画業界でも『鬼滅の刃』が映画興行収入のトップに上り詰めようとしています。人の往来がまだ自由とは言い切れない中で、これまでのトップだった『千と千尋の神隠し』を最速の勢いで追い抜こうとしているのはすごいことです。いずれにしても、2020年は、社会・生活のあらゆる面で変化の大きかった年でした。

 ここからは2021年相場を展望してみようと思うのですが、「結局のところはコロナの状況次第」という前置きが付いてしまいます。「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」――。夏目漱石の『草枕』の一説が頭の中をよぎりつつ、可能な限りの全集中で皆さんと一緒に見ていきます。

2021年相場の日本株10の視点
日経平均3万円はある?
コロナ克服の動きがもたらす新たなステージ
五輪開催は間に合うか?
金融緩和「出口への意識」の芽生えに注意
中国は2021年の世界経済のリード役となるか?
米中関係はどこへ行く?
政治イベントラッシュの2021年
社会の分断と格差が不安材料に
それでも物色の流れは変わらない~キーワードは「自動化・無人化・リモート」
来るか?「令和のベビーブーム」

壱:日経平均3万円はある?

 2021年の日本株を考えていく上で、真っ先に思い浮かぶのがこれではないでしょうか。

 冒頭でも触れた通り、日経平均は12月に入って29年ぶりの高値を更新しました。この株価水準は、日経平均の最高値(1989年12月の3万8,957円)と、その後の最安値(2008年10月の6,994円)の下げ幅に対する61.8%戻し(2万6,747円)あたりの位置になります。歴史的な節目を達成したことを踏まえれば、次の目標となるのは76.4%戻し(3万1,414円)で、その途中に3万円が存在することになります。

 各国の金融緩和や財政出動による過剰流動性、低金利継続による株式の資産の優位性という前提条件が崩れない限り、株価は上方向を目指しやすいと思われます。もちろん、実体経済との乖離(かいり)から相場の行き過ぎを指摘する見方もありますが、日経平均3万円は「想定を超えている」かもしれないが、「想像は超えていない」目標地点であると言えます。

 ただし、以降の視点でも触れますが、2021年相場が日経平均3万円の達成、もしくはそれに近づく動きを見せた場合は、新たな不安が台頭していくと思われます。

弐:コロナ克服の動きがもたらす新たなステージ

 12月に入り、英国や米国で新型コロナウイルスのワクチン接種が開始されました。日本でも早ければ2021年の2月に接種が始まる見込みとなっており、「コロナ克服」への道のりを一歩進めた状況です。

 とはいえ、ワクチン接種の普及と、効果が出るまでにはまだ時間が掛かると思われますし、実際に、コロナウイルスの国内感染者数は、これまでの感染拡大の波と比べてもかなりのハイペースとなっていて、GoToキャンペーンの一時停止も判断されました。

 停止自体の是非は別として、日本政府は停止の判断材料と根拠、今後の方針を示す必要があります。でないと、再開予定とされる2021年1月12日が迫った時点でのキャンペーンを再開する・しないの議論や、再開後に感染者が増加した場合にはどうするのかといった点でフラフラすることになりかねません。今後も中途半端な対応がこのまま続くようであれば、「コロナ克服」による経済・社会の正常化のスピード感で出遅れる可能性も出てきます。

 株式市場は「ワクチン相場」で上昇してきましたが、ワクチン接種が現実となった今、国や地域で生じるコロナ対応の差と、ワクチン分配と接種率の差、その後のコロナ克服の格差によって、マネーの動きに隔たりが出てくる展開も想定されそうです。

参:五輪開催は間に合うか?

 延期された東京五輪は、このままいけば2021年7月23日に開幕を迎えます。

 ワクチンの効果も含め、開催までにどこまでコロナの状況が改善しているかがカギになりますが、現時点では、関係者の開催意思とは裏腹に、開催は難しいのではないかという世論の方が多い印象です。

 2021年3月にIOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が来日する予定ですので、開催の判断はそのタイミングで行われると思われます。コロナの状況がよほど悪化していない限り、無観客での競技実施や、参加国の規模縮小など、何とか開催に向けて動くことが予想される一方、「感染リスクの高い日本には行きたくない」と言われないようにする必要があります。

 ワクチン期待があるとはいえ、時間的な猶予はあまり残されていません。先ほども触れた通り、足元の日本のコロナ対応がもたついてしまうと、五輪開催に悪影響を及ぼす可能性があります。

肆:金融緩和「出口への意識」の芽生えに注意

 2020年の株高は「大規模かつ継続的な金融緩和」を前提にもたらされています。

 過去の相場の歴史を見ても、金融緩和による過剰流動性相場の場面は多くありますが、相場が行き過ぎた際には、長期金利の上昇や中央銀行による利上げなど「引き締め」が行われて過熱感が冷まされていきます。ただ、今回はコロナ禍による非常事態という「錦の御旗」の元で、緩和政策が長期化するという見方がより株価を押し上げています。

 ワクチン普及とそれに伴う経済の正常化期待は、当面の間は相場を支える材料になりそうですが、ワクチン効果で経済・社会が正常に向かうほど、過剰流動性との両立がしにくくなっていきます。

 実際の経済正常化と金融引き締めはまだ先の話になりますが、最近の相場の特徴にもあるように、ワクチンの普及と効果が想定以上に進むと、引き締めを先取りする格好で株式市場が調整を迎える展開には注意しておく必要がありそうです。

伍:中国は2021年の世界経済のリード役となるか?

 新型コロナウイルスの震源地とされる中国の経済は、徹底した封じ込め作戦と管理によって、経済指標を見る限り、世界でもいち早く回復への軌道に乗せたと言えます。実際に、習近平氏をはじめとする中国指導部は2021年の実質経済成長率の目標を「8%前後」とする方向で調整に入ったとの報道もあります。

 とはいえ、足元の中国経済の強さは、まだコロナ封じ込めの落ち着きの反動によるところが大きく、回復が顕著となっている生産活動、輸出、国内投資に比べると、雇用や所得の戻りはまだ鈍いままとなっています。また、世界的にコロナ禍にあえぐ状況が続けば、輸出に再びブレーキがかかる可能性もあります。

 また、中国は同時に企業の債務問題の処理を手掛けており、社債のデフォルト(債務不履行)も相次いでいます。デフォルトを引き起こした企業の中には、国有企業の他、半導体関連企業や外資系自動車メーカーとの合弁会社なども含まれていて、金融市場の混乱を懸念する声も上がっています。

 確かに、相次ぐデフォルトはネガティブに聞こえますが、その背景にはハイテク業への支援拡大による選択と集中や、いわゆる「ゾンビ企業」の淘汰(とうた)といった構造改革の表れであれば、「コロナ克服」の視点で世界経済の中で一歩先を行く中国は今後も資金を集めやすく、2021年も魅力的な市場のひとつになりそうです。

陸:米中関係はどこへ行く?

 11月3日の米大統領選挙を経て、2021年1月にはバイデン米大統領をはじめとする米民主党の新政権が発足します。

 バイデン新政権は、トランプ前政権のような強硬な関税策を採らないとされており、突発的な関係悪化は避けられるという見方が多くなっているため、不透明感は後退していくと思われます。その一方で、米民主党は人権問題や民主主義イデオロギーを重視するスタンスのため、中国の香港やウイグル自治区、そして台湾などへの中国の姿勢に対して圧力をかけることも考えられます。

 したがって、米中の対立構造は2021年も続いていくと思われますが、米中交渉の過程で、現在強まっている中国ハイテク企業への規制や制限が緩和されるかどうか、中国が12月に施行した「輸出管理法」によって中国とのビジネス環境がどこまで悪化するかが焦点になりそうです。

漆:政治イベントラッシュの2021年

 2021年は国内外で政治イベントが相次ぎます。

 日本では、7月22日に東京都議会、9月30日に自民党総裁、10月21日に衆議院がそれぞれ任期満了を迎え、選挙が行われることになりますが、とりわけ注目されるのは衆議院の選挙がいつ行われるのかです。衆議院解散のタイミングとしては、来年の通常国会で予算が成立した後の4月、五輪閉会後の9月、そして任期満了の10月あたりになります。今回の選挙は政権与党のコロナ対策の評価という性格を併せ持つため、政治不安で市場が揺らぐ場面があるかもしれません。

 中国では2021年に中国共産党が結党されて100周年を迎えます。中国では節目の年に合わせて国威発揚に努める傾向があり、例えば米中関係において、米国の圧力に屈するわけにはいかないため、強い姿勢を示すなどの影響が出てくる可能性がある他、経済面で実績を作るために前のめりの政策を実施することも考えられます。

 また、米国では年初の1月5日にいきなりヤマ場がやってきます。ジョージア州で上院議員の決戦投票が行われ、2議席の行方が争われます。現時点での米上院の獲得議席は、民主党が48議席、共和党が50議席とわずかに共和党がリードをしていますが、この決戦投票で共和党が1議席でも確保すれば、大統領と下院は民主党、上院は共和党の「ねじれ議会」の構図が確定します。

 2議席とも民主党が獲得した場合、民主党と共和党の議席が同数となりますが、多数決の際に副大統領(カマラ・ハリス氏)が投票権を持つため、実質的に上院でも民主党が多数派になります。

 民主党が勝利した場合、積極的な政策による財政赤字の拡大や、GAFAMなど米大手IT企業への規制強化などが警戒され、株式市場にとって悪影響となる可能性には注意が必要となります。

捌:社会の分断と格差が不安材料に

 コロナ禍は我々の社会・生活に大きな変化をもたらしました。例えば、コロナの影響を多大に受けた業種・職種とそうでないところとの所得・雇用の格差をはじめ、国内外の株高の恩恵を受けた資産を持つものと持たざるものとの格差などです。米大統領選挙でも「社会の分断」がキーワードとなっていました。

 とりわけ、株高で生じた経済的格差は、金融緩和が助長した面がある他、格差拡大による二極化の進展は中間層の存在が希薄となり、富やマネーがうまく循環せず、経済の潜在成長率を低下させることになり、将来の継続的な成長や社会不安の火種になりかねません。

 先ほど、日経平均3万円の視点を取りあげましたが、まだコロナ禍から脱し切れていない現状でのスピード達成は、実体経済以上に株価だけが上昇していること、そして将来の社会的な不安材料の台頭を意味している可能性があり、もしかしたらあまり喜んでばかりいられないのかもしれません。

玖:それでも物色の流れは変わらない~キーワードは「自動化・無人化・リモート」

 2021年の物色テーマです。「経済がイマイチでも、稼いでいる企業の株は買える」という基本的な視点は変わりません。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)や5G、自動運転などの世界の潮流は、コロナ禍によって「自動化・無人化・リモート」というキーワードを伴い、職場環境から製造現場、公共交通機関や医療、教育、エンターテインメントなど、分野を広げつつその流れが加速しています。また、それらを支えるデバイス機器等に使われる高機能半導体やサイバーセキュリティなどへのニーズも高まっています。

 これらのテーマは、株価が急落する場面があった場合には、逆に買いのチャンスとなる他、新型コロナが向かい風となった旧来型の事業銘柄については、コロナ状況の改善や循環物色の対象として時々買われるという構図が2021年も続きそうです。

拾:来るか?「令和のベビーブーム」

 こちらも、2021年の物色テーマについてです。

 コロナ感染者増に伴い、懸念されていたのが「医療崩壊」です。感染者受け入れ数の問題はもちろん、コロナ患者で病院が埋め尽くされることによって、他の病気やケガの治療が受け入れられない不安、そして出生数の減少です。2020年の出生数は過去最少となった2019年(86万5,239人)を下回る可能性があります。

 となると、ワクチンが効果を発揮し、医療体制が落ち着いてくれば、その反動で出生数が増加してくることも考えられます。

 これまでのところ、菅政権の少子化対策は待機児童解消や男性の育児休業取得促進など、既存政策の繰り返しにとどまっていますが、さらなる拡充があれば「令和のベビーブーム」があるかもしれません。

 

 以上、かなり大ざっぱな論点整理となってしまいましたが、2021年の日本株は基本的に堅調な推移となるのがメインシナリオです。そして、そのシナリオが崩れそうかどうかを、紹介した10の視点でチェックしながら臨むことになります。

 毎年この時期になると干支にちなんだ相場格言が注目されますが、2021年の丑年は「つまづき」とされ、過去の丑年相場を振り返ると相場の天井になっていることが多いです。「繁栄」だった2020年の子年相場が格言通りとなっただけに、2021年は少し気を引き締めるぐらいで臨むのが良いのかもしれません。