10倍高期待株とはどんなもの?

 米国では10倍になるような株のことを「テンバガー」と言います。

 私はテンバガーを見つける方法として次のようなことを励行しています。

IPO売り出し目論見書をちゃんと通読すること!

 まず、新しい会社がニューヨーク証券取引所やナスダックにIPO(新規公開株)する際、その売り出し目論見書(Prospectus)を丹念に通読します。期待が持てる銘柄かどうかを精査するわけです。

 IPOの売り出し目論見書を研究するほうが、たとえばその会社が後で毎年出す年次報告書に比べてなぜ重要なのか? といえば、リスク開示(Risk Factors)の項目が充実しているからです。

 一例を示すと2020年9月にIPOされたユニティ・ソフトウェア(U)のリスク開示は46ページにも及びました。

 とりわけ重要な点は、IPOの売り出し目論見書に記載されるリスク要因は、「会社がディスクローズしたいリスク」だけにとどまらず「会社がディスクローズしたくないリスク」も弁護士からの指図で開示せざるを得ないという点です。

 そのような、経営陣にとって本当に「きまりの悪い」、うやむやにしたいリスクについて投資家が知りたいなら、その機会は一度しか回ってこないということです。

 そういう事情があるので、私は(面倒くさいな)と思っても、我慢してIPO売り出し目論見書のリスク開示は全て読むように努めています。ときどき、「あっ!」というような発見があります。

IPOして間もない会社のほうが10倍になりやすい

 投資家向けの新聞「インベスターズ・ビジネス・デイリー」紙の創設者、ウイリアム・オニールによると、ある上場企業の株価上昇の大部分は、IPOしてから数年以内に達成されてしまうことが多いのだそうです。したがって10倍株を探すならIPOして間もない会社にフォーカスしたほうが良いということになります。

最重要なのは決算!

 しかし、10倍株にぶち当たるために必ず投資家が励行しなければいけない大事なルールがあります。それは3カ月に1回発表される四半期決算をちゃんと精査するということです。

 王道のやり方は、コンセンサス予想を(1)EPS (1株当たり利益)、(2)売上高、(3)来期以降のガイダンスのそれぞれが上回っていたか? をチェックすることです。この3つの項目をすべてクリアした決算だけが「良い決算」と言えます。このうち一つでも取りこぼしたら、それは「悪い決算」です。

 なお、ガイダンスとは会社の財務部長による、来期、ならびに今年通年のEPS、売上高予想を指します。

 では、なぜ「良い決算」である必要があるのでしょうか?

 その理由はカンタンです。「良い決算」では、実際の結果が予想より大きな数字で入ってくるのに加えて、財務部長が今後の予想数字を上方に誘導しているわけですから、アナリストとしては「実績」ならびに「未来」の両方の数字を上方修正する必要があるからです。もっと平たい言い方をすれば、コンセンサス予想がジワジワ上昇するということです。

 一般に株式は良いニュースや悪いニュースをどんどん織り込み、株価に反映させていくものだと信じられています。この仮説が正しいのなら、予想数字がジワジワ上昇するということは株価が上昇することに他ならないわけで、「良い決算」=おのずと今後株価が上がる理由を含んでいると考えるのは、極めて自然なことです。

ワクワクするストーリーに目を奪われるな

 ここで重要なのはワクワクする投資テーマ、素晴らしい製品、画期的なサービスなど、我々が目を奪われがちなストーリーは、よく考えればこの世の中には掃いて捨てるほどあるということです。そんなものには何の価値もありません!

 本当に希少価値があるのは、来る決算、来る決算、必ず投資家の期待に応え、「良い決算」を出し続けることができる会社です。そのような銘柄は、本当に一握りしかありません! 10倍株になるのは、そのような銘柄だけです。

テンバガー発掘は消去法のゲームだ

 テンバガーを発掘するには、まず見込みのありそうな銘柄を仕込む必要があります。この部分は、実はあまり重要ではありません!

 重要なのは「良い決算」を出した銘柄は継続保有し、「悪い決算」を出した銘柄は売却するという点です。つまり、ダメな会社をどんどん間引きしていく作業こそが、テンバガー発掘のプロセスに他ならないのです。

(なんだ、そんなにシンプルなの?)

 そう思う読者が多いと察します。しかし「良い決算」を出し続ける企業を保有し続け、「悪い決算」を一度でも出したら、ためらわず売り飛ばすというのはカンタンなようで、それほどカンタンではありません。心を鬼にして悪い決算を出した銘柄をポートフォリオから蹴り出す習慣をつけてください。

どんな銘柄がテンバガー候補か?15選

 下の表では近年IPOされた急成長株の一部を収録しました。この中にはすでにIPOした値段より10倍以上になっている銘柄もあります。またテンバガー達成まであと一歩のところに来ている銘柄もあります。さらにIPOして日が浅く今後に期待すべき企業も含まれています。

2021年の10倍高期待株15選
会社名 ティッカー
シンボル
IPO価格 現在値 IPO価格
からの株価上昇
事業内容
アトラシアン TEAM 21 226.19 10.8倍 ソフトウエア開発コラボツールをSaaSで提供
オクタ OKTA 17 242.35 14.3倍 アイデンティティ・クラウド
トレードデスク TTD 18 887.18 49.3倍 プログラマティック広告
トゥイリオ TWLO 15 319.75 21.3倍 プログラマブル・コミュニケーション・クラウド
モンゴDB MDB 24 272.01 11.3倍 クラウド・データベース
ドキュサイン DOCU 29 231.01 8.0倍 電子署名
ヴィーヴァ VEEV 20 273.90 13.7倍 製薬会社向けクラウド
ズームビデオ ZM 36 413.54 11.5倍 ビデオ通話
クラウドストライク CRWD 34 161.19 4.7倍 クラウド・セキュリティ
クーパ COUP 18 319.18 17.7倍 経費・調達クラウド
スノーフレーク SNOW 120 339.89 2.8倍 データ・クラウド
ユニティ U 52 145.67 2.8倍 ゲーム開発プラットフォーム
グッドアールエックス GDRX 33 37.42 1.1倍 処方薬比較ショッピング
ロイヤルティ・ファーマ RPRX 28 42.29 1.5倍 処方薬ロイヤリティー投資
パランティア PLTR 10.8 24.03 2.2倍 ビッグデータ解析
注:現在値は2020年12月3日引け値
単位:ドル

 なお、上記の銘柄の多くは2016年以降にIPOされた歴史の浅い会社ですが、ここ数年はとりわけ筋の良い企業がたくさん登場しました。これはネットの定着により、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)という事業形態が市民権を得たことなどの構造的な要因が関係しています。また、それらの銘柄に投資家が高い評価を与えた背景として、超低金利という状況があったことも見逃せません。

 今後もそのような条件が続く保証はありません。現在のような、よりどりみどりのテンバガー候補銘柄がひしめく状況は、長く続かないと考えた方がいいでしょう。