これまでにも触れてきたように、信用取引は資金効率が良く、収益機会の幅が広がるというメリットがありますが、その分だけリスクも伴います。

 信用取引について解説した書籍やウェブサイトでも、「信用取引はリスクもあるけど、きちんとそのリスクを理解してコントロールすれば大丈夫」的な説明がよく見受けられますが、信用取引のリスクとは何なのか、また、そのリスクのコントロールとは何なのかを理解することが大切です。

 まず、真っ先に頭に浮かぶリスクと言えば「株価の変動リスク」かと思います。当たり前ですが、株式取引を行っている以上、現物取引でも信用取引でも、日々の株価が上がったり下がったりすることで利益もしくは損失が発生します。

 現物取引の場合は株価の動きだけに集中することができますが、信用取引の場合は資金や株券を「借りて」取引しているため、株価の変動に加えて、信用取引で保有しているポジション(建玉)と、担保として証券会社に預けている委託保証金の状況を常に把握し、管理することが必要になってきます。

 新たに信用取引を始めることを「新規建て」といいますが、例えば信用取引で300万円の取引を行う場合、必要な担保(委託保証金)は、委託保証金率30%以上である90万円以上です(通常の制度信用取引の場合)。委託保証金率とは、新しく信用取引を始めるのに必要な担保の割合を示したものです。

 では、新規建てをした後は何に注意すれば良いのでしょうか? 結論から言ってしまうと「委託保証金維持率」というのが最も重要です。「維持率」とか「建玉維持率」「信用維持率」とも呼ばれています。言葉の通り、新規建てした建玉を維持するのに必要な委託保証金の割合を示したものです。ここからは維持率で表現を統一します。

 先ほどの例にならって、株価3万円の銘柄を100株、新規で買い建てしたいと思います。

 300万円の取引ですので必要な委託保証金は90万円以上ですが、ここではギリギリの90万円の委託保証金で新規買い建てをしたとします。話を分かりやすくするため、手数料等のコストは考慮しません。

 思惑に反して株価が下がってしまった時の維持率の変化を見て行きます。株価が1,000円下落し、2万9,000円となった場合は、10万円の含み損が発生します。ここで建玉を返済すれば損失10万円が確定し、この損失は委託保証金90万円から差し引かれ80万円で取引が終了します。

 ただし、「株価は再び戻るかも」ということで建て玉を頑張って維持すれば、委託保証金から含み損を引いて維持率が計算されます。つまり、{委託保証金(90万円)-含み損(10万円)}÷建玉(300万円)×100=約26%がこの時点での維持率になります。

 それでも頑張った甲斐も虚しく、株価が2万8,000円(含み損20万円)、2万7,000円(含み損30万円)と下がっていけば、維持率も23%、20%と低下していくことになりますが、信用取引の決まりでは、「これ以上の維持率低下は勘弁して」ということで「最低維持率」というのが設けられており、20%以上となっています。この20%を下回ってしまうと、「この先も建玉を維持したいならば、追加で委託保証金を差し入れてね」ということになり、これがいわゆる「追い証(おいしょう)」と呼ばれるものです。

 維持率の計算自体は先ほどの例のようにさほど難しくはないのですが、建玉を何本も保有している場合や、委託保証金に株券など(代用有価証券)を使っていたりすると、かなり複雑になってきます。特に、代用有価証券を委託保証金に使っている場合は、建玉の株価が動いていなくても、代用有価証券の株価が動くことで、維持率が大きく変わってしまうことも珍しくありません。ですので、信用取引に慣れている投資家は、委託保証金に余裕を持たせる、委託保証金の現金比率を高めるなどの工夫をしています。

 ちなみに、建玉に含み益が発生した場合はどうなるのかというと、維持率の計算に考慮されません。含み損と含み益の両方が発生している建玉を複数保有している場合、損益は相殺されず、含み損だけ維持率の計算に反映されることになるため、こちらにも注意が必要です。

  • (補足)「30万円」ルールについて

 本文では、新規建てに必要な委託保証金率は30%以上と書きましたが、厳密にはもうひとつ条件があり、最低委託保証金額が30万円以上必要というルールがあります。例えば、建玉80万円の場合、委託保証金率30%は24万円なのですが、最低委託保証金額の30万円に満たないため、24万円では新規建てできません。100万円×30%=30万円ですので、建玉金額100万円までの信用取引には委託保証金30万円以上必要と覚えておくと良いかもしれません。

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