NYダウは3万ドルを超えるも、ドル/円が動かなかった理由

 新型コロナワクチンの高い治験効果や、次期米大統領のバイデン氏への政権移行許可報道、また新米財務長官の報道で株式市場はにぎわい、11月24日のNYダウ平均株価は3万ドルを超えました。ところが、ドル/円は大きな動きを示しませんでした。

 日本の祝日だった11月23日のアジア市場では103円台後半でほとんど動かなかったドル/円は、米PMI(購買担当者景気指数)が予想を大きく上回ったため、103円台後半から104円台半ばに上昇。しかし、翌24日の日経平均株価が600円超上昇し、NYダウが3万ドルを超えたものの、ドル/円の勢いは限定的でした。

 このドル/円を見ていると、どうやらPMIはきっかけであり、再び積み上がった短期筋のドルのショートポジションの巻き戻しの域を出ていない動きのようです。これは9日の米ファイザー社のワクチン開発報道で2円以上円安に動いた構図と同じような動きですが、今回は米長期金利の上昇が伴っていないことも、ドル/円の続騰を阻んでいるようです。9日は米10年債金利が0.8%台から1%に迫る急騰を見せ、ドル/円は103円台から105円台に上昇しましたが、米長期金利が0.9%割れまで低下してくると104円台に下落しました。そして今回の米長期金利は0.8%台でほとんど動いていません。

盛り上がりに欠けた今回の米大統領選挙後のドル/円相場

 今年2020年の米大統領選挙後のドル/円相場は、今ひとつ盛り上がりませんでした。いまだトランプ米大統領が敗北宣言をせず法廷で争う姿勢を示していることや、高い効果の新型コロナワクチンが開発され間もなく接種が始まる一方で、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらないこと、さらにねじれ議会の見通しから、バイデン氏の政策も規模や時期が不透明なことなどによって、米大統領選の結果そのものを材料にした動きは見られませんでした。4年前のように、トランプ氏の勝利宣言後、政策への期待感が高まり、ドル/円は1カ月で101円台から114円台へと10円以上の円安になった動きとはかけ離れた状況となっています。

 また、来年2021年1-3月期の米国GDP(国内総生産)は、新型コロナ感染拡大による経済再規制からマイナス成長予想が出始めています。足元の米景気指標はよいものが出ていますが、経済再規制の影響を受ける2021年前半の景気が悪化すれば、米長期金利も上がり切らず、ドル/円はFRB(米連邦準備制度理事会)の超金融緩和の中ではジリ安となる構図は続いていきそうです。 

 このジリ安の構図によって、ドル/円は6月の109円台を頭に毎月大台を1円ずつ切り下げてきました。7月は108円台、8月は107円台、9月は106円台と頭が切り下がり、10月は106円台の戻りを見せましたが、10月後半から再び105円台、104円台へと頭が切り下がってきている状況となっています。ただ、新型コロナワクチン開発報道やバイデン氏への政権移行許可報道を受けてもほとんど反応しなくなってきていることから、このままクリスマス、年末相場に入る可能性も高まってきているかもしれません。

2020年の年間レンジの半値は106.70円

 2020年のドル/円のレンジは、2月の高値112.23円と3月の安値101.18円の11円5銭(注)です。2019年のドル/円のレンジである8円30銭(注)の年間値幅をたった3週間ほどで上回ることになりました。その後はこのレンジの枠内で動いているだけです。2020年のドル/円レンジの半値は106.70円です。月間終値ベースでは7月以降、この半値以下の水準が続いています。この半値以下のレンジで推移している限り、100円トライの可能性は残っていそうです。
(注)筆者の情報収集により算定した参考値

年末年始の動きには注意

 今年はあと1カ月ありますが、クリスマス休暇まで静かなマーケットが続いても、年末年始の動きには注意する必要があります。時々、クリスマスまでは動意が全くない相場が新年に向けて年末から急変動する時があります。

 今年は懸念材料を抱えたままクリスマスを迎え、年を越すことになりそうなため、特に注意が必要です。トランプ米大統領の円滑な政権移譲にはいまだ不透明さは残っていますが、あと3週間弱で新政権が確定します(12月8日が選挙人確定日、12月14日が選挙人投票日)。この選挙人投票日に、選挙人が党の候補以外の人物に投票することがまれにあります。「不誠実な選挙人(faithless electors)」とも呼ばれ、1948年以降で16人いたとのことです。このうち2016年の前回の大統領選挙では最多の7人だったそうですが、これまで不誠実な選挙人が当落を左右したことはないそうです。

 そして2021年1月6日に連邦議会の上下院合同会議で選挙人投票の結果が開票され、新大統領が正式に決定されます。

 また、1月5日にはジョージア州における上院2議席を巡る決選投票が行われます、選挙の結果によっては新政権が議会の過半数を取れず、ねじれ議会となり、議会運営が思うようにできない可能性があります。その辺りを狙い、投機筋が年末にかけて仕掛けてくることも予想されます。 

 このように今年は年末年始の動きには特に注意する必要がありそうです。年末年始までまだ1カ月以上ありますが、これらのタイムスケジュールを早めに留意しておくことは重要と思われます。