バイデン氏勝利宣言でも原油が、感染拡大でも欧州株が上昇した“バイデン・ワクチン相場”は一巡
米大統領選挙の投票日(11月3日)から11月13日(金)までの各種銘柄の騰落率を確認します。過熱感を帯びた時にしばしば見られる“株・原油の大幅高、金安”でした。
図:米大統領選挙の投票日(11月3日)から11月13日(金)までの各種銘柄の騰落率
主要株価指数で上昇したのは、29年ぶりの高値に沸いた日経平均株価、史上最高値に達したNYダウ平均株価だけではありません。新型コロナの爆発的ともいえる感染拡大が起きている欧州の主要株価指数も、大幅に上昇しました。感染拡大が起きていない中国の株価指数(上海総合)よりも、感染拡大が起きている欧米の主要株価指数の方が、大きく上昇したわけです。
また、前回の本稿『バイデン勝利宣言も原油は一時10%超上昇、なぜ?!つい甘い夢を見たがる癖を自覚しよう!』で触れましたが、同期間、原油価格が大きく上昇しました。バイデン氏が米大統領選挙で勝利宣言をしたことで、クリーンエネルギーが台頭するとの見方から、大きく下落するとみられていた原油相場が、逆に、大きく上昇したわけです。
感染拡大が起きている欧米の主要株価指数と、バイデン氏の勝利宣言によりクリーンエネルギーが台頭する見方が強まった原油は、下落してもおかしくない状況でしたが、これらが軒並み大幅上昇したのは、大統領選挙起因の複数のプラスのムードに加え、人類が待ち望んだ高い効果が見込めるワクチンが登場したことによる強い“期待”が上乗せされたことが、きっかけだったと、筆者は考えています。
このような、11月3日(火)から11月13日(金)までに発生した、異なる市場を横断し、期待先行の過熱感が覆った相場を、ここでは“バイデン・ワクチン相場”と呼ぶことにします。
かくして、“バイデン・ワクチン相場”で大幅上昇した主要株価指数と原油相場でしたが、その勢いが、一巡しつつあります。以下は、11月16日(月)から19日(木)までの、騰落率です。日頃から変動率が高い傾向があるビットコインを除けば、各種銘柄の変動率は上下2%程度で、小動きと言えます。
図:11月16日(月)から19日(木)までの各種銘柄の騰落率
図:米大統領選挙の投票日(11月3日)から11月13日(金)までの市場の概況
金(ゴールド):過熱感を帯びた相場でも、9月以降の安値を下回らなかった
金(ゴールド)は、“バイデン・ワクチン相場”の間、下落し続けました。ムードの改善により“有事のムードの側面”から、株高により“代替資産”の側面から、ドルが強含んだことにより“代替通貨”の側面から、これら3つのテーマで、下落圧力がかかったためです。
金(ゴールド)にとって、厳しい状態だったわけですが、それでも、NY金先物は、1トロイオンスあたり1,850ドルという、この3カ月来の安値を底割れすることはありませんでした。大阪取引所の金先物は、1グラムあたり6,200円の水準を、維持しています。
図:NY金先物(期近 日足)
図:大阪金先物(期先 日足)
株価が大きく上昇した“バイデン・ワクチン相場”の最中、逆風が吹きつつも、金(ゴールド)相場が3カ月来の安値を底割れせず堅調を保ったことの根底では、
・新型コロナの世界的な流行
・欧米の中央銀行の大規模な金融緩和
という、2つの現在進行形の金相場を支える材料が存在していたと考えられます。
“バイデン・ワクチン相場”が一巡しつつある中、今後、これら現在進行形の2つの事象が意識され、新型コロナの世界的な流行は“有事のムード”、欧米の中央銀行の大規模な金融緩和は“代替通貨”、仮にその時、株価が不安定化していれば“代替資産”の各側面から、金(ゴールド)に上昇圧力がかかる可能性があると、筆者は考えています。
上昇に勢いが付けば、金相場は今年8月上旬につけた史上最高値(NY金先物は2,000ドル、大阪の金先物は7,000円)まで回復することが、具体的に見えてくると、現段階では考えています。
図:金相場を取り巻く環境(筆者イメージ)
原油:コロナ禍、クリーンエネルギー台頭による下押し圧力があっても、上昇可能
原油は“バイデン・ワクチン相場”で、最も大きく上昇した銘柄の一つであり、同相場が一巡してもなお、堅調さを維持しています。とはいえ、原油相場はさまざまな下落要因を抱えています。
バイデン氏が米大統領選挙で勝利すれば、米国の化石燃料の消費量が減少するとの見方が大勢を占めていたため、同氏の勝利宣言をきっかけに原油相場は大きく下落するとみられていました。
また、新型コロナの感染拡大がきっかけで人類の生活様式に変化が生じていますが、この変化が、ESG、SDG‘sなどの地球や人に良いことを実行することを是とする考え方を、社会に一段と浸透させる要因になっているとみられます。
このような考え方の浸透は、世界全体が化石燃料を使用しない方向に進むきっかけとなり、欧州主要国や中国が表明した、ガソリン車の新車販売を規制しようとするなどの、具体的な動きにつながっているとみられます。
また、感染拡大および感染拡大を防止するための措置によって減少した世界の石油の消費は、コロナ前の水準まで戻っていません。加えて、新型コロナ起因のダメージから経済を回復させるためには、特に資源を輸入する国にとっては、資源の調達コストが上昇しない方がよいとする考え方もあります。この考え方で言えば、コロナ禍では、極端な原油価格の上昇は、望まれないことになります。
このように、原油市場には、地球規模の、時間軸が長い、複数の下落要因が同時に存在しているわけです。しかし一方で、 “バイデン・ワクチン相場”で確認されたのは、原油相場は、このような下落要因にさらされていても、上昇することができる、という点でした。
たとえ大きな複数の下落要因を抱えていても、各種市場を横断した大規模なムード好転が発生し、株高が起きれば、消費増加期待が増幅し、原油相場は上昇することができるわけです。
ムードの改善→消費増加期待という点だけでなく、株高時に発生し得る、株高を阻害するマイナス要素を発生させない思惑も、株高時の原油価格の上昇要因になっていると、筆者は考えています。
原油価格が下落した場合、世界経済が悪化しているのではないか、産油国が資産を売却するのではないか、などのマイナスの心理が浮上することがあります。原油価格の下落は、期待や懸念などの思惑で動く傾向がある株式市場の下落要因になり得るわけです。
株価上昇時に、原油価格が下落すると、景気好転を強く示唆する株価上昇との整合性がとれない、上記のようなマイナスの心理が浮上する、など、株式市場の投資家間で不都合・不安が生じ、株価のさらなる上昇が阻害されかねません。この意味では、株価上昇時の原油価格の下落は、株式市場に望まれないのです。
このように考えれば、株式市場と原油市場は、ある意味(上昇・下落をともにする)運命共同体と言えます。この点は、複数の下落要因にさらされている原油相場が、株高時に上昇することができる理由の一つと考えられます。
いずれの産油国も、産油活動以外で十分な収入を得られるようになること、先進国・新興国問わず、原油を熱・動力などのエネルギー源として用いなくなること、といった、供給・消費の両サイドで、原油の重要性が、大規模に低下した時(原油が政治的武器にならなくなった時)、ようやく、株式市場と原油市場の強い結びつきがほどけると、筆者は考えます。逆に、そのような日が到来するまでは、株式市場と原油市場の連動性は保たれると、考えます。
この点は、クリーンエネルギーに着目するアナリストが提唱する「石油の時代は終わった。だから原油価格が下がる」とする説を反証する、有力な考え方だと、筆者は考えています。
短期的には、“バイデン・ワクチン相場”が一巡しつつあるものの、原油相場は、WTI先物で41ドル台を維持しています。この状態に、今後、株高が加われば、消費回復期待から、上値を伸ばす可能性があるとみています。
この場合、9月初旬につけていた44ドル近辺、あるいは。新型コロナショックの直前の45ドル近辺まで、短期的に回復する可能性があると、考えています。
図:WTI原油先物(期近 日足) 単位:ドル/バレル
[参考]貴金属・原油関連の具体的な投資商品
純金積立
国内ETF/ETN
1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN
海外ETF
GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF
投資信託
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド
外国株
ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ
国内商品先物
金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム
海外商品先物
[参考]具体的な原油関連の投資商品
国内ETF/ETN
WTI原油上場投資信託 (東証)1690
NF原油インデックス連動型上場(東証)1699
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ブル2038
NEXT NOTES 日経TOCOM原油ベア2039
投資信託
外国株
エクソンモービル(XOM)
シェブロン(CVX)
トタル(TOT)
コノコフィリップス(COP)
BP(BP)
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