バリュー株がグロース株を追いかけ、株価上昇

 米時間11月3日の米大統領選の少し前から、東京株式市場の物色に変化が見られています。コロナ禍以降目立って買われてこなかった「バリュー(割安)株」の主力銘柄に買いが入り出し、猛烈な勢いで株価が上昇し始めています。

 とくに値上がりが目立つのは「海運」「鉄鋼」「非鉄金属」「化学(の一角)」「輸送用機器(自動車、自動車部品の一角)」「機械」「電機(の一角)」「保険」「不動産」などのセクターです。

 改めて見ると、多くの銘柄がバリューセクター=景気敏感セクターに定義されることがわかります。個別企業の成長期待には乏しいものの、景気の浮揚には敏感に反応する銘柄(注:例外あり)が位置するセクターです。その中で値上がりが目立つ銘柄の株価の動きを検証してみましょう。

日本製鉄(5401)の3カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

住友金属鉱山(5713)の3カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

ホンダ(7267)の3カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

日本郵船(9101)の3カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

 コロナ禍以降ここまで、上記のようなバリュー株が目立って値上がりした印象はないと思います。世の中がどのようになるかが見通しにくい中で、より個別に成長性があるもの、コロナを追い風にするものが買われてきたからです。

 では、足元、その様子に変化が表れた要因は何なのでしょうか? いくつかの出来事を指摘することができます。

≪米大統領選終了≫

 バイデン前副大統領の当選が確実視されています。開票結果についてトランプ大統領は認めていないものの、選挙そのものは終了しています。ビッグイベント通過によって「不確実性」が消えた格好です。

≪新型コロナワクチン開発進展≫

 11月9日、米ファイザー社は開発中の新型コロナウイルス感染症に対するワクチンについて臨床試験の中間解析で90%以上の有効性を示したと発表。さらに16日には米モデルナ社が同様に94.5%の有効性が初期データから得られたと発表しました。

≪景気持ち直しの見方強まる≫

 11月16日、内閣府は2020年7-9月期のGDP(国内総生産)速報値を、実質ベースで4-6月期から5.0%、年率換算で21.4%増えたと発表しました。4-6月期に戦後最大の落ち込み(28.8%減)となった反動が主因です。その直前の上場企業四半期決算発表でも多くの企業の業績推移が示唆していました。

グロース株が売られているわけではなく、広範囲に買われている

 もうひとつ重要なことを指摘します。それは「ここまで買われていたグロース株が売られているわけではない」ということです。

 これについても主要な銘柄の足元の動きを検証しておく必要があります。グロース株が買われる時はバリュー株が注目されず、逆にバリュー株が買われる時はグロース株が売られる、と単純には言えない動きが見られています。

キーエンス(6861)の3カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

東京エレクトロン(8035)の3カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

ファーストリテイリング(9983) の3カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

 足元は、「バリュー株に上昇するものが目立つものの、グロース株が売られているわけではない」と説明するのが適当と思われます。

 その状況の中で、日経平均は1991年6月3日以来、約29年5カ月ぶりに2万6,000円台乗せを見せたのです。買いが広がっている様子が見て取れます。

 東京市場はこれまでの「限定的に買われる」から「広範囲に買われる」に転換した可能性もあります。各国中央銀行の対コロナ金融緩和を背景とした株式市場の過剰流動性はかねてより指摘されていることですが、ここにきて現実味が増しています。

 ここでは足元反発の動きが急なバリュー株の中から主力株の次位、2番手や3番手に位置する銘柄を紹介します。

10万円で買えるバリュー株。2~3番手の銘柄から選定

 株価データは2020年11月18日終値ベース。

神戸製鋼所(5406・東証1部)

 鉄鋼高炉国内3位企業です。アルミ・銅、産機・建機・電力なども手掛けています。

・神戸製鋼所の1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

飯野海運(9119・東証1部)

 ケミカル船、タンカー、ガス船、バラ積み船が主力。保有する土地の含み益が大きい企業としても知られています。

・飯野海運の1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

日野自動車(7205・東証1部)

 トヨタ自動車の子会社で、国内普通トラック(積載量4トン以上)製造大手企業です。トヨタ自動車のSUVの受託生産も行います。

・日野自動車の1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

日本精工(6471・東証1部)

 ベアリングメーカーで国内最大手、世界で有数の企業です。主力は自動車向け軸受けです。

・日本精工の1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

ルネサスエレクトロニクス(6723・東証1部)

 自動車向け半導体の大手メーカーです。車載用マイコンは世界首位級の強みを持っています。

・ルネサスエレクトロニクスの1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

コンコルディア・フィナンシャルグループ(7186・東証1部) 

 傘下に地方銀行首位級の横浜銀行と東日本銀行を持ちます。神奈川県と東京都を中心に1都6県に展開する金融グループです。

・コンコルディア・フィナンシャルグループの1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

著者によるこの記事の解説音声はこちら(soundcloudサイト/9分20秒)