「株主優待」で人気の銘柄から、予想配当利回りの高いものを選ぶ

 日本には、「株主優待」という世界でも珍しい制度があります。上場企業が、株主に感謝して贈り物をする制度です。

 株主への利益還元は、原則、配当金の支払いによって行うものですが、それとは別に、優待を実施している企業があります。個人投資家にとって魅力的な制度なので、積極的に活用したら良いと思います。

 ただ一部の「優待好き」投資家に、優待品の魅力ばかり見て、配当利回りを見ていないことがあるのには、首をかしげます。というのは、人気の優待銘柄には配当利回りの低い銘柄も多いからです。

 配当利回りを見ず、ひたすら優待品だけ見て投資するのは、必ずしも合理的な投資行動とはいえません。優待品がたくさん送られてくるのはうれしいですが、それよりも、たくさん配当金をもらって、それで自由に好きなものを買った方がいいといえます。

 理想的には、「株主優待と配当利回りが両方とも魅力的な銘柄」を選んで投資したら良いですが、それは意外とありそうでありません。配当利回りの高い会社には、「株主への利益還元は、配当金でやるべき」という考えを持っていて、株主優待を行わない企業が多いからです。

 ただし、一生けんめい探すと、優待も配当利回りも魅力という銘柄も見つけられます。今日は、楽天証券の「株主優待検索」で、優待人気上位10社に入っている銘柄の中から、予想配当利回りが3.8%以上の銘柄を選びました。

 ただ、アナリストとしては、それだけで選ぶこともできません。収益力が堅固な銘柄を選ばなければなりません。そこで、コロナ禍の影響を受けている2020年度でも営業利益率10%以上を出せる見込みの銘柄に絞りました。以下の3銘柄は、その条件を満たしています。

<優待人気上位10社のうち、予想配当利回り3.8%以上、営業利益率10%以上の3社>

コード 銘柄名 配当利回り 営業利益率 優待内容
2914 日本たばこ産業 7.1% 22.4% 優待内容
8591 オリックス 4.8% 11.0% 優待内容
9433 KDDI 3.8% 20.0% 優待内容
注:配当利回りの算出根拠は、以下の表を参照。営業利益率は、コロナ禍の影響を受ける2020年度ベース。日本たばこ産業は2020年12月期会社予想ベース。KDDIは2021年3月期会社予想ベース。2020年度の営業利益予想を開示していないオリックスについては、2020年9月中間決算の実績。

<配当利回りの算出根拠>

銘柄名 配当利回り 株価  年間配当金 
日本たばこ産業 7.1% 2,164.0 154
オリックス 4.8% 1,574.0 76
KDDI 3.8% 3,137.0 120
出所:各社決算短信より作成。配当利回りは、今期年間配当金(会社予想)を11月17日の株価で割って算出。

日本たばこ産業(JT)の投資魅力

 JTは、12月決算銘柄です。6月末と12月末の株主は配当金を得る権利が得られます。予想配当利回り(会社予想ベース・6月末と12月末の配当金を合わせたベース)は、11月17日時点で、7.1%です。配当利回りの高さが魅力的です。

 JTは優待でも人気ですが、1つ注意があります。今から投資しても、最初に優待の権利が得られるのは、1年2カ月先の2021年12月からとなります。年1回、12月末時点で1年以上継続保有している株主に、株主優待品(自社製品・食品など)を贈る権利を付与するからです。

 今から投資しても、今年の年末ではまだ1年経過していませんので、2020年12月末の権利は得られません。

 JTは、株式市場では不人気ですが、私は、安定高収益の高配当株として評価しています。詳しくは、以下のレポートを参照してください。

2020年10月13日:配当利回り7.7%、JT株の投資価値を見直し

オリックスの投資魅力

 オリックスは、3月決算企業です。中間決算期末(9月末)と、本決算期末(来年3月末)に、配当金を得る権利が確定します。予想配当利回りは、11月17日時点で4.8%です。

 オリックス株を保有すると、配当金とは別に、年1回(3月末)、優待品を受け取る権利が確定します。ふるさと優待カタログBコースから、1点選んだものがもらえます。

 オリックスは、長期保有の株主は、優待内容が増加する制度にしています。3年以上、保有する株主には、1ランク上のふるさと優待カタログAコースから、1点選ぶことができます。

 カタログギフトとは別に、半期ごとに贈られる株主カードを使えば、オリックスグループが提供する各種サービスを割引価格で利用できる特典もあります。

 オリックスは金融株であり、金融株全般に、低金利が長期化する中で収益が圧迫される不安があり、株価は低迷が続いています。

 ただし、オリックスはリース事業を中核に多面的な業務展開で安定的に高収益をあげていく力を持っていると私は評価しています。前々期(2019年3月期)の純利益は3,237億円で、5期連続で最高益を更新していました。

 コロナ禍の影響を受け、今期(2021年3月期)の純利益(会社予想)は1,900億円まで落ち込む見通しです。ただし、最悪期は4~6月で、既に過ぎたと考えられます。

 7月以降、回復が始まっています。コロナが収束すれば、いずれ最高益を更新する力があると判断しています。割安な株価と、配当に注目して、長期投資する価値があると考えています。

KDDIの投資魅力

 KDDIは、3月決算企業です。中間決算期末(9月末)と、本決算期末(来年3月末)に、配当金と株主優待品を得る権利が確定します。予想配当利回り(会社予想ベース)は、11月17日時点で、3.8%です。

 KDDI株を保有すると、配当金とは別に、年1回(3月末)、優待品を受け取る権利が確定します。同社が注力する総合通販サイト「au Wowma!」より、「全国47都道府県のグルメ品」から自由に選べるカタログギフトがもらえます。

 KDDIは、長期保有の株主ほど、優待内容が増加する制度にしています。100株を保有する場合、保有期間5年未満の株主には3,000円相当、5年以上保有すると5,000円相当のカタログギフトが贈呈されます。詳しい内容は、同社HPで確認してください。

 KDDI株は、携帯電話事業の競争激化懸念で株価の上値が重くなっていますが、業績は好調です。世界景気に影響されずに安定成長を続け、今期(2021年3月期)、19期連続の増配を予定しています。

 携帯電話収入は、減少し始めていますが、通信と融合したライフデザイン事業の利益拡大によって、成長を続けています。これからも安定高収益を維持していくと予想しています。

 私は、優待にこだわらず、シンプルに高配当利回り株を買っていく戦略も、良いと考えています。三菱UFJ FG(8306)・配当利回り5.2%(今期1株当たり配当金・会社予想25円を11月17日株価479.4円で割って算出)や、三菱商事(8058)・配当利回り5.3%(今期1株当たり配当金・会社予想134円を11月17日株価2,520.5円で割って算出)の投資価値も高いと考えています。