先週は一時10%超も上昇。過熱相場のシンボルと化した原油相場
先週、原油相場は、一時10%以上も上昇しました。バイデン氏が米大統領選挙に勝利したことを宣言したり、新型コロナウイルスに対して高い効果が期待されるワクチンの開発が報じられたりしたことが、要因と言われています。
図:先週1週間の各種銘柄の変動率 (2020年11月6日から13日)
株価指数、通貨、コモディティ(商品)、暗号資産の4つのジャンルの主要25銘柄の、先週の騰落率を確認すると、原油は上昇率No1でした。普段から変動率が高い傾向があるビットコインを上回る上昇率でした(各銘柄の変動率の詳細は、今週のジャンル横断騰落率ランキングをご参照ください)。
以前より、「バイデン氏が次期大統領になれば、原油相場は下がる」、とみられてきました。選挙戦の最中、バイデン氏が、米国のパリ協定への復帰、化石燃料の消費を減少させることを、強く訴えてきたためです。バイデン氏の選挙戦での活動や、それを受けたとみられるクリーンエネルギー関連企業の株価の上昇を見て、「石油の時代は終わった」と述べるアナリストもいたくらいです。
先週の騰落率からもわかるとおり、実際はそれとは真逆のことが起きています。バイデン氏の勝利宣言後、一時10%超も上昇した原油相場の値動きを、どのように説明すればよいのでしょうか。
原油固有の上昇要因については、OPECプラス(石油輸出国機構=OPECと、非加盟国で構成される組織)が来年、2021年1月からの減産緩和を延期する、米国のシェール主要地区の原油生産量が減少する見通し、北半球が暖房シーズン入りする、などの理由を挙げることができます。
しかし、足元、新型コロナの影響で消費が本来の状態に戻っておらず、需給バランスをダブつかせないようにするため、供給を絞る必要があることから、OPECプラスの減産緩和延期は、ごく当たり前の行為であり、減産延期が需給を引き締める強い材料にはならないと考えられます。
また、米国のシェール主要地区の原油生産量が減少する見通しが出ているものの、これは数カ月前からわかっていたことです。北半球が暖房シーズン入りすることについては、毎年起きていることです。ここで挙げた3つの原油固有の上昇要因に、原油相場を1週間で10%も上昇させるだけの新鮮味やサプライズ感は、筆者はないと感じています。
むしろ今は、バイデン氏の次期米大統領就任観測、コロナ禍の消費減少、人類の生活様式が変化していることで加速しているESG、SDGsなど、地球や人類に良いことをすることを是とする考え方の普及、コロナによって受けている経済的なダメージから回復するために、資源の調達コストが上昇しない方がよいとする考え方など、原油の下落要因を探す方が簡単です。
このような環境であるにもかかわらず、なぜ、原油相場は大きく上昇したのでしょうか? 筆者は、さまざまな市場に広がった、強い“過熱感”が要因と考えています。先週の原油相場の上昇は、各種市場に過熱感が広がったことを示す、バロメーターのような役割を果たしたと、言えると思います。
図:足元の原油相場の変動要因
価格と実態のかい離が拡大。将来の期待を今“爆食”する各種市場
先週は、下落してもおかしくない原油の他、主要株価指数やドルが上昇しました。そして強い不安が生じた時に買われることがある金(ゴールド)が下落しました。これは、景気過熱時に起きる、熱狂的で盲目的な買いが先行する状態に似ています。
先々週、米大統領選挙の投開票を通じて、安堵(あんど)感、解放感、安心感といった3つプラスのムードが発生しました。これらに、先週のワクチンの報道が加わったことが、熱狂的・盲目的とも言える、過熱感を帯びた状態が発生した原因と考えられます。
図:足元の市場全体のムード
一方で、まだトランプ氏が敗北宣言をしていないこと、そしてまだ、ワクチンが一般人に投与されておらず効果が実感できていないことに注意が必要です。今の相場に、まだ実態が伴っていない可能性があることに、目を向ける必要があります。
一般社会では、“バイデン氏が次期米大統領”とみなして先に進んでいますが、大統領選挙の慣例となっている“敗北宣言”が、まだトランプ氏から出ていません。このため、議会で正副大統領が決まる可能性を排除することは、まだできないと、考えらえます。
法廷闘争が激化した場合、急速に不安感が広がり、各種市場が不安定化する可能性がある点を、意識をしておく必要はあると考えています。(次期米大統領選出までのスケジュールは、前回のレポート「バイデン逆転、トランプ再始動?金相場は上昇か?」をご参照ください)
足元の、熱狂的・盲目的とも言える、過熱感を帯びた状態のもととなっている、バイデン氏の勝利宣言やワクチンに効果がある旨の報道は、いずれも“まだ起きていない、あるいは確定していない事象“です。一方、トランプ大統領が法廷闘争をしていること、新型コロナの患者数が欧米で爆発的に増加していることは、“現在、進行形中の事象”です。
まだ起きていない、確定していない事象を材料として価格が動くことは、将来の思惑(期待・不安)を、今、織り込んで価格が動いていることとほぼ同義です。一方、まさに今、進行している事象を材料として価格が動くことは、現実を織り込んで価格が動いていることと同義です。
市場が、将来の事象か現実か、どちらを材料視するのかは、その時の状況次第ですが、どちらかといえば、値動きの根拠としてより強い力を持っているのは、現実、つまり今で言えば、トランプ大統領が法廷闘争をしていること、新型コロナの患者数が欧米で爆発的に増加していることだと筆者は思います。
しばしば、人とは、見たいように見、聞きたいように聞き、感じたいように感じ、信じたいように信じる生き物だ、という話を耳にします。バイデン氏の勝利宣言に、ワクチンの効果がある旨の報道が加わったことで、どこか、市場には(良くも悪くも)人間味が現れているように、感じます。
下落要因を多分に抱える原油でさえ、大幅上昇するほど、各種市場は将来の期待を今、織り込んでいる可能性があります。
不可思議ともいえる、原油相場の大幅上昇は、市場に、見たくないものに目を向け、聞きたくないことに耳を傾け、感じたくないことに感覚を研ぎ澄まし、信じたくないものを信じることが、必要である、そして、聞こえがいいキーワードに、足元をすくわれてはならないことを、教えてくれていると、筆者は考えています。
“過熱感”の後押しを受け、原油相場は上値を伸ばし、9月の高値44ドル超えを目指す!?
先週、大きく上昇した原油相場ですが、目先、もうしばらく、上昇する可能性があると考えています。先週と同じ、将来の期待を今織り込む、過熱感を帯びた状態が、もうしばらく、継続すると考えているためです。
図:WTI原油先物の推移 単位:ドル/バレル
特に株式市場においては、多くの投資家は、上昇する今の相場を好んでいると考えられます。目先は、欧米の新型コロナの患者数が爆発的とも言える勢いで増加し、“まだ、あきらめない”としてトランプ氏は戦う姿勢を崩していないなど、不安要素はあるものの、逆に、不安要素があるからこそ、明るい将来を織り込むムードが強まる可能性があります。
足元、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物相場は、1バレルあたり42ドル近辺で推移しています。下落要因を抱えているものの、株式市場などの上昇を受け、9月上旬につけていた44ドル近辺を目指す、過熱感が継続していれば、45ドルに達する可能性があると、現段階で、考えています。
[参考]具体的な原油関連の投資商品
国内ETF/ETN
投資信託
外国株
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