自動車9社、2020年7-9月期の決算出そろう
10日の東京市場で、トヨタ自動車(7203)が2.2%高の7,173円、本田技研工業(7267)(以下、ホンダと表記)が9.4%高の2,833.5円と、主力自動車株が大きく上昇しました。2020年7-9月期決算が出そろいましたが、4-6月対比で予想以上に利益回復が大きかったことが好感されました。
自動車産業にとって、世界販売が3割以上落ち込んだ4-6月期は「魔の3か月」でしたが、そこが最悪期で、7-9月から販売・利益とも急速に回復しつつあることがわかりました。以下、日本の自動車9社の第1(4-6月期)、第2(7-9月)四半期の純利益をご覧ください(注:日産自動車は7-9月決算未発表)。
自動車9社の四半期純利益:2020年4-6月期、7-9月期
7-9月は、トヨタ・ホンダの利益が大きく回復しました。北米・中国などで販売・利益が伸びたことが貢献しました。
7-9月の回復が予想以上だったことに加え、10-12月以降も回復が続くと考えられることから、通期(2021年3月期)の純利益予想を上方修正する会社が増えました。
自動車9社、今期(2021年3月期)純利益予想、前回予想との比較
今期(2021年3月期)純利益予想を、7,300億円から1兆4,200億円へ上方修正したトヨタの収益力が光ります。前期(2020年3月期)純利益(2兆761億円)と比べるとなお大幅な減益ですが、コロナ禍でもきっちり利益を出す力は、高く評価できます。
また、今期純利益予想を1,650億円から3,900億円に上方修正したホンダの収益力も評価できます。自動車株は、トヨタ・ホンダの2社から、投資を再開して良いと考えます。コロナ前の高値を更新した日経平均株価と比べると、トヨタ・ホンダなど自動車株は、戻りが遅く、業績・株価の戻りが本格化するのは、これからと考えています。
ただし、自動車株なら何でも投資できるというわけではありません。将来、世界的にガソリン車から電気自動車へのシフトが進む中、競争力の弱いガソリン車メーカーの収益は先細りとなる可能性があるからです。上記に挙げた自動車9社がすべて生き残っていけるか、疑問と言わざるを得ません。
構造的に収益力が弱まっている日産自動車・三菱自動車は投資を避けるべきと考えています。マツダ・SUBARUも、現時点で、積極的に投資すべきとは考えていません。
インドで高いシェアと競争力を有するスズキ、トラックで高い競争力を有するいすゞ、日野は投資して良いと判断しています。
トヨタの販売・利益の回復早い
トヨタの販売台数は、4-6月が前年同期比▲31%のマイナスと大きく落ち込みましたが、7-9月には、同▲6.9%のマイナスと、急速にマイナス幅を縮小しました。会社による販売見通しでは、10-12月に前年同期並みまで戻り、来年1-3月には前年同期比+5%の増加に転じます。コロナ禍で止まっていた販売が、急に戻りつつあることがわかります。
コロナ禍で止まっていた生産も急回復しつつあります。4月にゼロだった北米生産が、9月には前年比+8%増まで戻っています。生産が止まっていた間に在庫が適正水準よりも少なくなっているため、在庫が適正水準に戻るまで、しばらく生産は繁忙が続きます。
在庫水準が低いため、7-9月の北米では販売コスト(インセンティブ)をかけなくても販売できたため、7-9月の北米セグメント(所在地セグメント利益)は、前年同期比で638億円の増益でした。
北米と同様、中国が好調です。上半期(4-9月)の中国部門の営業利益は、前年上半期の782億円から1,124億円に増益しました。中国部門の持分法投資損益も、前年上半期の635億円から790億円に増加しました。
トヨタは、世界中の自動車メーカーが赤字で、赤字で当たり前だった4-6月に1,588億円の純利益を計上したことで、底力を高く評価されました。今回、販売が回復に向かう中での、利益の回復力の大きさが改めて評価されます。
赤字に転落したリーマンショック(2009年3月期)と比べて、財務も収益力も、格段に向上したことが分かります。自動車セクターのコア銘柄として、トヨタを保有する価値は高いと判断しています。
ホンダは乗用車の利益回復が大きい
ホンダは、4-6月の純利益が▲808億円の赤字でしたが、7-9月は2,409億円の黒字に急回復しました。上半期(4-9月期)のセグメント利益を見ると、二輪車(オートバイ)で796億円の営業利益をあげましたが、四輪車は▲705億円の営業赤字でした。金融サービスが1,648億円と安定的に営業利益を稼いでいます。
二輪事業は、最悪期の4-6月期でも112億円の営業黒字を確保していました。ところが、4-6月は四輪で▲1,958億円の営業赤字を計上していました。二輪の収益力の強さと、四輪の収益力の弱さが際立ちました。
ホンダは、二輪で高い収益力を持ちます。二輪は、アジアで業務用にあらゆる分野で使われますが、ホンダの二輪は、アジアで圧倒的な競争力を持ちます。近年、四輪より二輪の方が稼ぐ利益が大きくなっていました。
7-9月だけみると、四輪で1,253億円の営業利益をあげており、四輪の回復が全体の利益回復を牽引しました。トヨタと同様、中国と米国の販売・利益の回復が貢献しました。
自動車産業は循環的な成長産業?
自動車産業は、世界全体で見ると、これまでは循環的な成長産業でした。世界の自動車販売台数は、不況期にマイナスになることがありますが、好況期に戻ると、過去最高を更新してきました。
世界の自動車販売台数
世界の自動車販売は、2008~2009年にリーマンショックでマイナスとなった後、2010~2017年は安定成長が続きました。ところが、2018年は伸び悩み、2019年から減少に転じていました。2020年はコロナショックで、販売がさらに▲17%落ち込むと予想しています。
ただし、自動車販売は、循環します。コロナショックで今、買い替え需要が抑えられているため、潜在的な買い替え需要が積みあがってきている可能性もあります。その場合、2021年の世界自動車販売は、前年比で20%以上の増加になると考えられます。
日本は、自動車王国です。自動車産業で、ドイツと並び、圧倒的な強さを誇ります。自動車だけが強いわけではありません。自動車製造用ロボット・自動車部品・素材などの関連産業でも、日本は世界をリードしています。
もし、自動車産業が最悪期を脱し、自動車株が買えるようになるならば、日本株全体への外国人投資家の投資姿勢も、ポジティブに変化する可能性があります。そうなると、日経平均の上値余地も広がると判断しています。
中国政府がハイブリッド車をエコカーとして優遇する方針を固めるトヨタに追い風
中国の自動車行政を担当する工業情報化部は、「環境車規制」で、ハイブリッド車を「低燃費車」として優遇する方針を決めました。2021年1月から実施します。これまで中国は、EV(電気自動車)・燃料電池車を低燃費車として優遇してきましたが、ハイブリッド車には優遇がありませんでした。ハイブリッド車を飛ばして、EV中心の車社会を作っていく意思を示していました。
ところが、現実には、EV普及にはかなりの年月を要すること、深刻な大気汚染に即効性のある対策が必要なことから、改めてハイブリッド車も優遇する方針です
ハイブリッド車技術ではトヨタの独壇場です。巨大な中国市場で、ハイブリッド車普及が加速すれば、トヨタの受けるメリットはきわめて大きくなります。
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