住宅ローンの平均返済終了年齢は73歳!あなたは73歳まで働くの?

 人生100年時代をテーマとした日本経済新聞のとある記事が話題となっています。それは住宅ローンの平均返済終了年齢が73歳になっている、というものです。

 これは日本経済新聞の調べとなっていますが、データ提供元である住宅金融支援機構(フラット35)が公開している利用者調査のデータによれば、ローン設定者の平均が40.2歳となっています。全員が35年ローンを設定したとすれば75歳となり、それほどおかしい数字ではありません(短く設定する人もいるので平均は下がると考えます)。

 不動産営業の現場では、毎月の返済額を楽に設定できるように長期ローンを案内する傾向があると言われます。見かけ上、今居住している賃貸の家賃と同水準に設定すれば住宅購入の不安感が軽減されるからです。

 実はこれ、異なる性質の数字を並べているわけですが、「家賃は掛け捨てですが、ローン返済は将来の資産になります」と言われると、どうしてもその気になってしまいます。

 確かに今はマイナス金利政策の影響もあって超超低金利ですから、金利負担も軽くなりますが、それでも疑問は残ります。つまり、

「あなたは73歳まで働けると考えているのか」

 という問題です。住宅ローンを73歳まで返すということは73歳まで現役として働く予定ということなのでしょうか。

 あなたの人生を通じた資産運用としても、この問題は考えてみるに値します。

住宅ローンを残したリタイアは「退職金の蒸発」を招く

 住宅ローンをリタイア年齢(できれば正社員として働ける年齢)までに完済し終えることができない場合、残りのローン残高をどうするかという問題が生じます。

 基本的には定年退職年齢を超えて働いた場合、継続雇用の給与収入は下がるため、住宅ローンの返済に支障が出ます。そこで定年退職時に受け取った退職金を相殺する格好で、住宅ローンを完済することが多くあります。

 しかし、これは極めて危険な対応です。例えば、退職金の半分が住宅ローン完済のために消えたとします。本来は、その後の20~30年にかけて取り崩して用いるべき貴重な「老後の軍資金」です。つまり、あなたの老後の資金繰りは一気に暗転した、ということになります。せめて4分の1減ならいいのですが、いずれにせよ老後生活の予算は下方修正を余儀なくされることになります。

 また、退職金が見込み通りもらえなかった場合は、さらに苦しい状態に追い込まれます。前述の新聞記事では退職金が満足に出ず(倒産だったのか、制度がないことを知らなかったのかは不明)、高齢期も働き続けながらローン返済に悪戦苦闘し、どうしようもなくなったので売却も視野に入れるような事例も紹介されています。

 基本的には、「定年退職年齢(正社員を辞める年)=住宅ローンの完済年齢」と考えてローンは設定するべきです。

あなたの未来の定年退職年齢は何歳になるか

 とはいえ、未来の定年退職年齢が75歳になるなら、この問題は生じません。そこまで見越して住宅ローンを35年で組んでいるならそれはアリなのですが、定年退職年齢は今後どうなるでしょうか。

 現在、多くの企業では60歳定年、65歳まで再雇用となっています。2020年の春、法改正があって70歳雇用社会への一歩目が踏み出されましたが、65歳定年の義務化はまだ先のことです。

 過去を振り返ってみると60歳定年が完全義務化されたのは1998年のことです。実は努力義務化の法律(1985年)がスタートしてから、13年を要しています。

 今年2020年の春には70歳雇用確保社会に向けた法改正が行われましたが、これから65歳定年に向けた取り組みが始まります。完全義務化はその次です。

 つまり、15年くらいの期間をかけて「定年が5歳延びる」と考えるくらいがいいでしょう。だとすれば、今35歳の人なら35年ローンを組んでもなんとかなりそうです。30年後には10年定年が上がると考えれば、なんとかなります。それでも「75歳定年」は微妙な具合です。

 今45歳なら、65歳定年はほぼ確実ですが、70歳定年は微妙です(70歳雇用確保は間違いないが)。ということは73歳返済終了がかなり強気の設定ということになります。

住宅ローンの早期返済は「金利を払わないという運用」でもあるが残しては仕方がない

 運用として住宅ローンを見た場合、今の超低金利環境は私たちにとってかなり有利です。

 本記事の読者のように資産運用について理解のある方にとっては「今の住宅ローン金利であれば、これを無理に早期返済する必要はないのでは」という意見もあるでしょう。「いっそ、早期返済はせずに期待リターン3~4%程度の運用に回したほうがいいのでは」という考え方です。

 確かに、現在の住宅ローンはきわめて異常な低金利環境で設定できます。過去のローン金利の推移も住宅金融支援機構のウェブサイトに公開されていますが、平成15年ごろだと固定金利で年3.5%くらいの設定で住宅ローンを組んでいたことになります。

 仮に3,000万円のローンを35年、年利3.5%で組んだ場合、総返済額は実に5,210万円になります。これが年1.0%で設定できると総返済額が3,560万円になりますので、この差は圧倒的です。

 低い固定金利でローンを設定することは、有利な取引であることは間違いないのですが、「だから返済を早める必要はない」とするリスクは心に留めておく必要があります。

 結果として定年退職年齢は65歳ないし70歳程度でとどまり、ローンの残高を残すことは「同額以上の資産形成を投資で実現しなければ、結局退職金をなくすことになる」からです。

 投資に不確実性があることも考えると、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)やiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の拠出枠を使い切ったら、投資についてはそれ以上あまり高望みせず、ローンの返済に余力を向けるほうがいいのではないかと思います。

 最後は、あなたの判断になりますが、行動ファイナンスでいうところの「オーバーコンフィデンス(自信過剰)」があなたの投資成績を過大評価しないようにしたいところです。