10月の新興株<マザーズ、ジャスダック>マーケットまとめ

 米ナスダックも凌駕(りょうが)する世界最強指数と化していた東証マザーズ指数。10月も前半は輝きを増す一方でした。BASEやメルカリなど主力のネット株の勢いがすさまじく、マザーズ指数の上昇をけん引。BASEが下げる日はメルカリやメドレーの上昇でカバー、メルカリが下げる日はマネーフォワードやジーエヌアイの上昇でカバーなど…何か主力株が下げても、似たようなサイズの別の主力株が上げてカバーする、抜群のチームワークを発揮していた月前半のマザーズ市場。

 マザーズの時価総額上位銘柄ばかりが躍動した10月第1週、この週にマザーズ株を買っていたのは外国人投資家でした。外国人が週間244億円買い越しで、これは過去最大額。「外国人も日本のマザーズに目を付けているのか?」なる雰囲気も生まれ、翌10月第2週の14日にマザーズ指数は年初来高値を更新。後になって振り返ると、ここがピークでした。ピークを打つタイミングでマザーズ株を買っていたのは個人投資家。週間403億円(うち信用300億円)の買い越しは、個人投資家として過去最大額でした。

 一方で、前週に過去最大の買い越しだった外国人は366億円の売り越し(過去2番目の売り越し額)。たった1週間で“ドテン売り”していたことから察するに、10月第1週にBASEやメルカリなどを買い上げていたのは、短期の海外ヘッジファンドだったと推測できます。こうした短期勢が作ったモメンタムを見て、“強いものに付け”のスタンスで過去最大の買いエネルギーを投下したのが個人投資家で、メインは信用取引の買いでした。結果的には、その後に地合いが豹変(ひょうへん)したわけですが、布石となるような亀裂の存在があったことも無視できません。

 その亀裂とは、信用買い残の多い個人に人気の銘柄が相次いで急落したことでした。信用買い残がマザーズ最大のアンジェスが15日、「ワクチンの大量生産が可能になるのは2022年後半」との一部報道をきっかけに急落。同じく15日には、信用買い残比率が2割を超えていたロコンドも、第2四半期決算の発表後に急落。そして、19日に信用買い残が2番目に多かったジーエヌアイが、新薬パイプラインに関するリリースをきっかけにストップ安に。また、直近IPO(新規公開株)も軒並み安値更新状態で、マザーズ指数が示す以上に個人の信用評価損益率が悪化していました。

 そのタイミングで、欧米の株式市場が新型コロナ感染者の再拡大を引き金にリスクオフモードに一変。大統領選挙も接近していたこともあって、ポジションを軽くする(=現金化)投資行動が広がるなかで、マザーズ市場では前述のような人気銘柄のロスカットと、高値を維持していた主力ネット株の利益確定がミックスするような展開になったともいえます。22日にはマザーズ指数が▲4.5%で、マザーズ指数先物に一度サーキットブレーカーが発動されました。急激な地合い悪化の余波は月末まで継続。これまでの上げ相場が強烈だったこともあり、「山高ければ谷深し」への警戒感が負の連鎖につながりました。なお、コロナ禍で他指数を圧倒してきたマザーズ指数ですが、10月の月間騰落率は▲4.5%と3カ月ぶりに月間マイナス。日経平均株価は同▲0.9%、TOPIX▲2.8%、日経ジャスダック平均▲1.9%に対してアンダーパフォームとなりました。

10月の売買代金ランキング

 前月末においても、マザーズ最強モメンタム株として君臨していたのがBASE。9月末時点の25日移動平均売買代金は135.5億円でしたが、10月末時点では197.9億円に、さらに増加。東証1部の上位10銘柄と肩を並べる流動性を維持しました。そのほか、2位のメルカリも、25日移動平均売買代金が約100億円に増加(9月末時点では79億円)。時価総額の大きい主力ネット株に関しては、海外に口座を持つヘッジファンドなどの関与率が高まっていたものと想像できます。

 売買代金上位では、HENNGE、マクアケ、弁護士コム、AIinsideなど主力ネット株は月間で大きく値上がりしています。それでもマザーズ指数が月間でマイナスに転じたのは、指数ウエイトの低い個人投資家の人気銘柄の下げが非常に大きかったため。売買代金上位でいえば、ジーエヌアイやアンジェスなどバイオ株のほか、rakumo、トヨクモなど直近IPOの多くが、株価の安値割れに伴って売りが売りを呼ぶ展開になりました。

市場 コード 銘柄名 10月末
終値
時価総額
(億円)
売買代金
25日移動平均値
(億円)
月間
騰落率
東証マザーズ 4477 BASE 11,240 2,433 197.9 2.2%
東証マザーズ 4385 メルカリ 4,400 6,890 99.8 -9.3%
東証マザーズ 2160 ジーエヌアイ 1,800 783 96.3 -51.9%
東証マザーズ 4475 HENNGE 7,600 1,216 77.6 12.6%
東証マザーズ 4479 マクアケ 11,820 1,379 75.0 11.3%
東証マザーズ 6027 弁護士コム 13,850 3,083 65.4 23.9%
東証マザーズ 4488 AIinside 58,300 2,206 59.2 32.3%
東証マザーズ 3998 すららNT 6,040 389 57.2 -13.5%
ジャスダック 2484 出前館 3,080 2,633 56.2 10.7%
東証マザーズ 4485 JTOWER 7,280 1,498 55.1 31.9%
東証マザーズ 7779 サイバダイン 714 981 51.8 37.8%
東証マザーズ 4480 メドレー 5,830 1,762 50.5 15.7%
ジャスダック 3776 ブロバンタワ 432 260 47.2 3.6%
東証マザーズ 4051 GMO-FG 18,200 719 46.4 64.0%
東証マザーズ 4563 アンジェス 1,090 1,341 45.8 -24.7%
東証マザーズ 4478 フリー 8,240 3,999 40.0 3.6%
東証マザーズ 4060 rakumo 2,325 128 39.5 -32.5%
東証マザーズ 4436 ミンカブ 2,522 347 36.9 19.0%
東証マザーズ 3923 ラクス 2,067 3,746 35.1 9.7%
東証マザーズ 4058 トヨクモ 4,980 252 31.9 -40.0%

売買代金ランキング(5銘柄)

1 BASE(4477・東証マザーズ)

 歴史的なマザーズラリーのシンボルストックになったのは文句無しBASEでした。10月の月間騰落率は2.2%ですが、すさまじいエネルギーを伴った“往って来い”の1カ月に。9月末の終値1万1,000円に対して、10月8日に付けた上場来高値は1万7,240円! ここをピークとして調整にひっくり返り、10月末の終値は1万1,240円でした。

 上場来高値を付けた8日の出来高は、上場来最大の438万4,200株。売買代金は671億円で、この日のマザーズ市場全体の約2割を占めました。「あの猛烈な上昇と、出来高は誰がやったの?」と疑問に思うところでしたが、正解は“外国人”だったようです。この日を含む10月第1週(5~9日)、マザーズ最大の買い手は外国人(過去最大の週間244億円買い越し)でした。海外のヘッジファンドがBASE中心に主力ネット株の高値を演出し、個人投資家も群がったところで翌週ドテン売りに転じた、そんなところでしょうか…。

2 メルカリ(4385・東証マザーズ)

 マザーズ指数が年初来高値1,368ポイントを付けたのは14日、メルカリが年初来高値5,930円を付けたのも14日。メルカリといえば、マザーズ指数の“ユニクロ”的存在で、指数ウエイトは約10%あります。そのメルカリ株が10月に入って上げが加速し、14日の高値まで22%上昇しました。この株が22%上昇したというのは、マザーズ指数を2.2%押し上げるということ。

 マザーズ指数は、メルカリをけん引役として高値を切り上げ、月後半はメルカリの異様な弱さとともに水準を切り下げたともいえます。21~26日は4日連続で3%以上の下落率を記録。前述のBASE同様、海外ヘッジファンドの短期マネー流入も巻き込んで高値を切り上げたものの、ドテン売りでトレンドが反転したものと想像されます。

3 ジーエヌアイ(2160・東証マザーズ)

 マザーズのバイオ株で時価総額トップに浮上していたジーエヌアイ。市場の期待は、「10月16日」に集中していました。というのも、9月29日のリリースで、最有望パイプライン「F351」についての戦略的方向性の開示を10月16日にすると予告していたため。こういう形で告知してしまうと、短期の投資家たちにとっての“イベントドリブン”になってしまいます。同社株に関しても、期待して買い持ちしていた投資家が多い状態でした。

 注目された16日のリリースで同社が発表したのは、(1)「F351」についてCDE(医薬品審査評価センター)など当局への相談に向けて準備していること、(2)次の段階に進むのはおおむね2021年第2四半期ごろになる見通しだということ。順調に進展しているように見えますが、同社が日付を予告していたのがあだになったと思います。想定より時間がかかると判断されたのか、短気な短期筋は失望売り。16日終値で3,890円だった株価は、月末には1,800円と、リリース前の半分以下に。

4 マクアケ(4479・東証マザーズ)

 マザーズ指数に逆行して、10月も月間で二ケタの上昇率を記録しました。月間騰落率がプラスとなるのは、4月以降7カ月連続。この7カ月の中でも、とくに上昇率が大きかったのが4月の+49%と、7月の+41%です。いずれも決算発表への期待と、それに応える好決算を出してきました。決算のポジティブサプライズを伴って、決算とともに上昇してきたのがマクアケといえます。

 27日に発表した本決算では、前2020年9月期はコロナ禍でのECサイト利用拡大により、売上高が前期比2.4倍、営業利益が同4.1倍に。さらに、同社が開示した今期見通しでは、売上高を前期比60%増の51.7億円、営業利益を同22%増の6.2億円。このくらいの成長分は織り込み済みかと思いましたが、発表翌日はギャップアップで始まり上昇来高値も更新。マザーズ全体の地合いが悪化するなか、数少ない高値更新銘柄としてトレンドフォローの買いが集中しやすかった側面もありそうです。

5 出前館(2484・ジャスダック)

 決算発表翌日のリアクションが、意外な方向へ強く出るケースはありますが…今回の同社の決算プレーは典型例。15日の引け後に本決算を発表し、今2021年8月期は売上高が前期比2.7倍の280億円、営業利益が130億円の赤字(前期は26億円の赤字)でした。コロナ禍で宅配需要が急増し、売上高が伸びる一方で、高水準の広告宣伝費や運営コストが収益を圧迫するようです。今は、決算数値を定量的にAIがスコア化するようなシステムがあります。そのシステムの判定では、かなり悪いスコアが付いていたのですが…。

 発表翌日16日は、決算失望気味に前日比マイナスで開始。ただ、その後まさかの急騰となり、ストップ高に(前日比+23%)!「同時に発表した中期経営計画で、2023年8月期に120億円の営業黒字に転じる見通しを出していたのが良かった」など後講釈は付きましたが、ストップ高した翌日は大幅安…。あのストップ高は何だったのか? という感じですが、出前館は信用倍率が0.2倍程度の売り長銘柄です。高値圏でのショートカバーを誘発する目的で、決算後に仕掛け的な買いを入れた短期筋の影響が大きかったのかもしれません。

10月の株価値上がり率ランキング

 月後半に新興株市場の地合いが悪化したこともあり、月間騰落率(※あくまで月末終値比較です)が2倍以上になった銘柄はゼロ。とはいえ、値上がり率上位ランクイン20銘柄の中に、時価総額が大きい銘柄がかなり多かったのが10月でした。9月はランクイン20銘柄の全てが小型株(時価総額が最大の銘柄でもBBタワーの251億円)だったことを思えば、AIinsideやJTOWERの大幅高が目を引きます。

 個別で材料があったというより、テーマ株物色の中核に位置付けられたことが大きかったといえそうです。政府がデジタルトランスフォーメーション(DX)企業への税制優遇を検討していると伝わったこともあり、DX関連の中核になったのがAIinside。また、米アップルの新作iPhone発表もあったことで、高速通信規格「5G」のテーマ人気も復活。リバーエレテック、不二硝子など小型の関連株もにぎわいましたが、このターンの5G関連物色で中核となり流動性を高めたのはJTOWERでした。

市場 コード 銘柄名 月間
騰落率
10月末
終値
前月末
終値
時価総額
(億円)
東証マザーズ 9270 バリュエンスH 84.0% 3,865 2,100 510
ジャスダック 5199 不二ラテ 76.4% 8,000 4,535 103
ジャスダック 6666 リバーエレテク 73.1% 1,293 747 97
東証マザーズ 4051 GMO-FG 64.0% 18,200 11,100 719
東証マザーズ 3645 メディカネット 51.2% 794 525 43
ジャスダック 5212 不二硝 45.9% 1,440 987 31
ジャスダック 3891 高度紙 44.2% 1,759 1,220 193
ジャスダック 9376 ユーラシア 42.6% 676 474 25
東証マザーズ 3914 JIG-SAW 42.6% 7,200 5,050 486
ジャスダック 4970 東洋合成 38.7% 10,170 7,330 828
東証マザーズ 7779 サイバダイン 37.8% 714 518 981
東証マザーズ 1431 リブワーク 36.6% 1,988 1,455 216
東証マザーズ 4482 ウィルズ 34.5% 1,177 875 223
ジャスダック 4557 医学生物 34.3% 4,385 3,265 229
東証マザーズ 4488 AIinside 32.3% 58,300 44,050 2,206
東証マザーズ 4485 JTOWER 31.9% 7,280 5,520 1,498
ジャスダック 7070 SIHD 31.1% 464 354 53
ジャスダック 6658 シライ電子 29.5% 259 200 36
東証マザーズ 3479 TKP 29.2% 2,900 2,244 1,105
東証マザーズ 7317 松屋R&D 28.9% 4,305 3,340 112

値上がり率ランキング(5銘柄)

1 バリュエンスHD(9270・東証マザーズ)

 決算サプライズで10月の値上がり率トップにランクイン。まずは月初、前2020年8月期の業績予想の上方修正でストップ高に。営業利益を従来予想2.4億円→6.3億円に大幅増額。これでも前期比では7割減ですが、新型コロナ影響で買取店舗の一部休業をするなかでも想定以上に仕入れが順調、地金の販売も好調だったことが寄与したようです。

 さらに上昇第2弾は、15日に発表した2021年8月期の業績予想のサプライズで発現。今期の売上高を前期比53%増、営業利益を同4倍の大幅増収増益見通しを開示したことで、ここでも翌日ストップ高に。株価の大幅上昇で、11月より厳格化したマザーズ→東証1部昇格基準をクリアできる数少ないマザーズ銘柄にもなっています。

2 リバーエレテック(6666・ジャスダック)

 10月にテーマ株物色が盛り上がった5G関連の小型株として人気化し、2014年12月以来となる株価1,000円台に。人気化のきっかけは、19日に発表した水晶振動子の製造ライン増設でした。5Gの普及によって、電子機器の電源管理で使われる「音さ型水晶振動子」の小型化の需要増が見込まれるため、設備増設で安定した供給体制の構築を進めると。

 稼働開始は来年6月とのことですが、今回のリリースを通じて5G普及の恩恵を享受する電子部品メーカーと認知されました。小型の材料株ということもあって、個人投資家の物色対象に加わったようです。

3 GMO-FG(4051・東証マザーズ)

 7月上場の直近IPOですが、他の直近IPO株の人気離れが止まらないなか、GMO-FGの独壇場といった雰囲気になりました。上場直後の決算発表時に上方修正していたことで業績評価が高いこと、人気のGMOグループであること―などは言えますが、そうした理由よりも、流動性とモメンタム面の優位性で、短期勢の投機の対象になっただけにも思えます。

 というのが、上場来高値を付けた15日の引け後、東証が信用規制(委託保証金率を50%以上、そのうち現金を20%以上)をかけました。そして東証の信用規制を受け、翌16日から急落。信用で買っていた個人投資家の比率が圧倒的に高い銘柄だと分かります。

4 不二硝子(5212・ジャスダック)

 時価総額わずか30億円程度ということもあり…5G関連の超小型株として、一部の個人投資家が好んで触る仕手系材料株のような存在に。動意づいたのは8月からで、8月に月間騰落率3.1倍を記録。その翌月の9月は見向きもされず、同▲40%と急落。

 そして10月は、5G関連のテーマ株物色が盛り上がったことを受けて同+46%で再浮上。買い手のメインは個人投資家、かつ信用買いであることも一目瞭然です。信用買い残は23日時点で10万7300株と、上場来で最大に積み上がっています。1年前の信用買い残は2,800株程度の銘柄ですので、個人の信用買いのしこりが短期間で大きくなり過ぎた気も…。

5 ニッポン高度紙工業(3891・ジャスダック)

 3カ月前(第1四半期の決算発表後)の再来、好決算をきっかけに値幅制限いっぱいまで買われました。22日、第2四半期の決算発表と合わせて、今期の業績予想を上方修正。営業利益を9億円→19億円に変更、倍増以上の増額がサプライズに。

 コンデンサー用セパレーターがデータセンターや5G関連向けで堅調に推移しているとのことで、5G関連の切り口がある点も10月の地合いとマッチしたようです。

11月に注目したい新興株の動き

 4年に1度の米大統領選挙。ここでまたサプライズが発生しました。事前の世論調査で民主党のバイデン氏勝利が有力視されていましたが、ふたを開けてみると現職のトランプ氏が激戦州のフロリダ州などで勝利したと報じられました。開票速報を反映した4日の東京時間、トランプ氏の再選あるか? を意識したマーケットで起きたことは…“マザーズ爆上げ”でした。この日の東証マザーズ指数は+5.3%で、5月7日以来、半年ぶりの上昇率に。地合いが豹変した10月後半の鬱憤(うっぷん)を晴らすような展開でした。

「大統領選、上下院選の全てで民主党が勝つ“ブルーウェーブ”→財政出動→景気回復期待(財政悪化懸念)」を先取り、米長期金利が0.9%台まで上昇していたことを思えば、金利上昇圧力が後退したことはマザーズ銘柄に代表されるグロース株にポジティブ。キャピタルゲイン課税の増税懸念などは、米グロース株の利食い売りに直結する話ですので、この点でもグロース株にはポジティブです。まだ、決着していませんが…(5日時点)。

 中央銀行の流動性供給が担保されている以上、株から資金が抜けるというより、どういう株のウエイトが高められるか? が焦点となります。よく言われるところでは、バリューか? グロースか? というやつですね。そういう意味では、“グロース株売り→バリュー株買い”の壮大なリバーサル相場が起きる確率が低下したことは、マザーズなど新興株市場にとって好都合です(まだ決着したわけではないですが)。日経平均が上がって、オールドエコノミーのバリュー株が上がって、マザーズが下がる、そんな地合いは多くの日本の個人投資家が望んで無さそうですし…。

 大統領選だけ抜き取れば、最悪のシナリオを回避したように見えます(まだ決着したわけではないですが)。欧米でコロナ感染が再拡大しており、ウィズコロナで進んだデジタル化の推進が止まるわけでもありません。マザーズ株が優位に立つカタリストは生きています。ただ…10月後半の地合い悪化の影響は尾を引く可能性があります。理由は、最大の買い材料(優位性)だった「モメンタム」が壊れた(=チャートが綺麗ではなくなった)ことです。

 株価のモメンタムを理由に集まってきた資金が多く、上値追い時は好循環で相場が作られるわけですが、下落時には含み損の株が増えます。その含み損株のロスカットで株価がさらに崩れたというのが理屈ですが、実際は、10月第3週(マザーズ指数の週間騰落率▲4.9%)にしても個人投資家はマザーズを大幅に買い越していました。ロスカットした分以上に、値ごろ感から逆張りで買い向かった分が多かったということです。投資意欲が旺盛で、逆張りの資金も潤沢なのは頼もしい一方、上値で個人投資家の信用買い残が積み上がったのも事実。

 10月高値に向けた優良地合いの時期と異なり、現値より高い水準で買って“戻り売り待ち”状態のポジションが多くなっているわけです。11月4日のように、売買を膨らませながら(戻り売りを吸収しながら)上昇する展開が続けばいいですが、こんな日が続くとは到底思えないわけで…。10月後半に多発した、短期的な地合い悪化(マザーズ指数の下落)局面で、人気銘柄(直近IPO株やテーマ株)が狼狽(ろうばい)売りで大きく下がる動きを引き起こす条件を備えています。

 海外ヘッジファンドにも、信用買い残の多い銘柄を中心に「日本のマザーズ株は、空売りで足元さえポンと崩してしまえば、ロング過多の反動で簡単に崩れる」といったことが周知されたはず。マザーズ市場の場合、時価総額上位の主力株であっても、ファンダメンタルズ的な根拠が無いほど時価総額を肥大化させた銘柄ばかり。そうした市場のモメンタムが壊れた意味は大きいと思います。個別銘柄ベースでいえば、「直近の信用買い残が、発行済み株数や普段の出来高(例えば5日移動平均出来高)に対してどの程度積み上がっているか?」…最低限ですが、確認してからエントリーするか判断してください。