確定申告に関する重要なルールとは?
前回のコラムにて、「修正申告」「更正の請求」「期限後申告」の違いや、いくつかのシーンにおける対処方法をお伝えしました。
確定申告においては1点重要なルールがあります。それは、一度提出した確定申告書につき、税額が多過ぎたため還付を求める「更正の請求」(※)を行えるのは、各種所得控除・税額控除などを漏らしたり、計算間違いをした場合に限られているという点です。これについて、例を用いて説明します。
※申告する内容により、更正の請求ではなく修正申告となるケースもあります。
税法ではいくつかの申告方法のうち、納税者が自分で好きに選択してよい、というものが結構あります。ただし、例えばAの方法とBの方法があって、確定申告ではAの方法を使って申告したが、実はBの方法を使った方が税額は少なくなるため更正の請求で還付を受ける、ということはできません。これはAの方法もBの方法も、二つとも法で認められた正しい方法であり、そこには控除漏れがあった、計算間違いをした、という誤りはなく、更正の請求を受ける理由が存在していないからです。これが確定申告の重要なルールです。
今から前年分の株式投資の売却損を繰り越したい!それって可能?
このルールが適用される典型的なケースが、株式投資の売却損の繰り越しです。売却損の繰り越しは、確定申告することが要件となっています。
例えば、2019年の株式投資の売却損につき、確定申告をし忘れたため今から申告しよう、というのは可能なのでしょうか。
まず、2019年分の確定申告書をまだ提出していない場合は、今から確定申告(期限後申告)をすれば売却損の繰り越しが認められます。
しかし、すでに2019年の確定申告書を提出している場合は、話がややこしくなります。
源泉徴収ありの特定口座かどうかで扱いが異なる
一般口座や、源泉徴収なしの特定口座で生じた売却損の繰り越しについては、すでに2019年分の確定申告書を提出していても、更正の請求の手続きにより認められます。
ところが、源泉徴収ありの特定口座で生じた売却損の繰り越しは、2019年分の確定申告書をすでに提出している場合は更正の請求が認められません。
なぜこのような違いが起きてしまうのでしょうか。それは、そもそも売却損益を確定申告する必要があるかどうかの差にあります。
原則として、一般口座や源泉徴収なしの特定口座で生じた上場株式の売却損益は確定申告する必要があります。
一方、源泉徴収ありの特定口座で生じた上場株式の売却損益は、確定申告してもしなくてもよいことになっています。
一般口座や源泉徴収なしの特定口座での売却損益は、確定申告する必要があるのにしていないということになり、更正の請求が認められます。
しかし、源泉徴収ありの特定口座での売却損益は、これを含めないで確定申告書を提出した時点で、「売却損益は確定申告しないことを自らの意思で選択した」とされ、更正の請求を受け付けてもらえないのです。
ですから、源泉徴収ありの特定口座を使っている方は、源泉徴収ありの特定口座で生じた売却損益につき確定申告した方が有利ならば、それを含めた内容で最初から確定申告するようにしてください。
一般口座 | 特定口座 源泉徴収なし |
特定口座 源泉徴収あり |
|
確定申告の 必要性 |
〇 | 〇 | × |
更正の請求の 可否 |
〇 | 〇 | 確定申告書を 既に提出済みの場合 できない |
なお、上記は所得税についての話であり、住民税については納税通知書が送達される日より前に更正の請求書を提出するなど必要な手続きが済んでいないと、売却損の繰越控除の適用を受けることはできないとされています。この点からも、確定申告の期日内に売却損の繰り越し控除も含めて申告しておくことが望まれます。
配当金についても要注意!
同じようなことが上場株式の配当金についても言えます。上場株式の配当金は、次の3つから選ぶことができます。
(1)配当金を受け取るときの源泉徴収のみで課税を完了させ、確定申告しない
(2)総合課税の配当所得として確定申告する
(3)申告分離課税の配当所得として確定申告する
ですから、配当金を除外して確定申告書を提出した後で、配当金を確定申告した方が有利だと気づいても、配当金を含めて更正の請求を行うことは認められていません。
最初の確定申告書を提出した時点で、配当金については(1)の方法を選んだとみなされてしまうからです。
また、配当金を総合課税の配当所得として確定申告した後、上場株式の売却損と損益通算した方が税額を低くできると気づいても、更正の請求により申告分離課税の配当所得に変更することもできません。自身で(2)の方法を選んだことになるからです。
なお、まだ確定申告書自体を出していない方が、確定申告の期限後に配当金につき申告して税額の還付を受ける、などという場合は期限後申告(還付申告)をすることができます。
知らなかったでは済まされないのが税金の世界。余計な税金を払わないよう、今回お伝えしたことについては最低限知っておいてください。そして今後は複数の選択肢がある場合は有利な選択をした上で、その内容を含めた確定申告書を申告期日内に提出するようにしましょう。
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