発送電分離が実施されて、電力自由化はほぼ完了

 日本の電力自由化は、以下の工程表にしたがって、段階的に進められてきました。

◆1995年12月:電気事業法改正、発電事業を自由化→発電事業へ新規参入促進
◆2000年3月:大口需要家向け、電力小売りを自由化→大口需要家向け電力料金の引き下げを促進
◆2016年4月:電力小売りを完全自由化→一般家庭向けの電力料金引き下げを促進
◆2020年4月:発送電分離

 今年4月に、発送電分離が実施され、20年以上かけて進められてきた電力自由化はほぼ完了しました。本来ならば、自由化を経てさらに競争力を強めていく電力株を選別して投資するのが面白くなっていくはずでした。

 ところが、残念ながら、現時点では日本の電力株に投資すべきでないと考えています。原発(原子力発電)を抱えるリスクがきわめて大きいからです。

 ESG投資【注】の観点からも、日本の電力株は投資対象としにくいと考えています。原発は、使用済み核燃料の処分問題が未解決で、安全性にも課題が残っているからです。

【注】ESG投資:E(エコ)・S(社会的責任)・G(ガバナンス)を重視する投資戦略。

電力9社に投資するのは、リスクが高い

 電力株の投資判断をする際に、避けて通れないのは、原発事業のリスクについて考えることです。

 結論から言うと、原発事業を保有している電力9社【注1】、すなわち、東京電力HD(9501)、中部電力(9502)、関西電力(9503)、中国電力(9504)、北陸電力(9505)、東北電力(9506)、四国電力(9507)、九州電力(9508)、北海道電力(9509)には、投資しない方が良いと判断します。

【注1】電力9社
沖縄電力(9511)は原発非保有なので、この9社に含まれません。沖縄電力は今日のレポートでの投資判断の対象外とします。

 原子力発電を運営するコスト、廃炉コストとも、安全基準の強化によって、世界的に年々高くなっているからです。日本ではこれまで原発が低コスト発電とみなされてきましたが、廃炉コストや、使用済み核燃料の最終処分コストまで考慮すると、高コスト発電となる可能性が高いと考えています。

 重要な影響が及ぶのが、核燃料サイクル事業【注2】の成否です。

【注2】核燃料サイクル事業について
現在、日本は、核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業の原価を計算しています。核燃料サイクルとは、使用済み核燃料を再生してMOX燃料を作り、再び原子炉で発電に使うものです。これをプルサーマル発電といいます。さらに、そこから得られるプルトニウムを使って、高速増殖炉で発電を行う計画です。高速増殖炉では、使用するプルトニウムを上回る量のプルトニウムが得られ、何度も発電を繰り返すことができる、とされてきました。

 夢のような核燃料サイクルが実現することを前提としているため、日本の電力会社は、使用済み核燃料から得られるプルトニウムなどを資産として計上しています。使用済み核燃料はプルサーマル発電や高速増殖炉で新たに発電を行うための「資源」という扱いです。

 ところが、日本の核燃料サイクル事業は、現時点でまだ何も実現していません。最近、核燃料サイクル事業は安全性が確保できず、実現不可能との見方が強まっています。使用済み核燃料から未使用のウランやプルトニウムを取り出してMOX燃料に加工する予定であった青森県六ヶ所村の再処理工場は技術上の問題が次々と出て、完成していません。

 高速増殖炉の開発も進んでいません。日本では、再処理したプルトニウムで動くはずであった高速増殖炉「もんじゅ」は1995年にナトリウム漏洩事故を起こして以来、稼働が停止したまま、廃炉が決定しました。2018年から30年かけて廃炉を進める計画です。欧米でも技術的な困難と経済性から、高速増殖炉の開発を断念する国が増えています。

 今の日本は、技術的にまったく完成のメドがたっていない核燃料サイクルが実現することを前提に原発事業を推進しています。核燃料サイクルが実現することを前提に原価を計算するので、原発は低コスト発電で、再稼動が電力会社の財務を改善するとされています。

 ところが、日本政府が核燃料サイクルを断念する場合、国内に積み上がった使用済み核燃料は、最終処分に莫大(ばくだい)なコストがかかる「核のゴミ」に変わります。そうなると、原発はきわめてコストの高い発電となります。既に大量に抱えている使用済み核燃料の最終処分コスト負担によって、電力会社の財務が悪化する懸念もあります。

<参考資料>使用済み核燃料の処分方法(核燃料サイクルを行う場合と、行わない場合)

<図A>核燃料サイクルを行わない場合:使用済み核燃料を直接処分

<図B>核燃料サイクルを行う場合:プルサーマル発電まで

<図C>核燃料サイクルを行う場合:高速増殖炉まで

(出所:各種資料より筆者作成)

電力株の投資判断

 原発事業について、不透明材料が残っていることを考えると、現時点で、原発事業を有する電力会社に投資するのはリスクが高く、投資は避けた方が良いと思います。

 そんな日本の電力会社ですが、原発事業のリスクから解放されれば、高く評価できます。日本は、送配電ロスが5%しかない、きわめて高効率の送配電網を維持しています。送配電にかかる高い技術力は注目に値します。高圧交流送電では、世界トップとなる技術を有します。

 日本の電力会社が持つ、高い発送電技術は、今後、新興国に輸出していく価値があります。ところが、原発事業のリスクに縛られて、思うような海外での事業展開ができなくなっています。とても、残念なことと考えています。

 電力株の投資判断は、以上です。ここから先は、未来のエネルギー循環社会を作るために何が必要か、私見を書きます。

未来のエネルギー源として、人類は何に頼ったら良いか?

 人類は今、主要なエネルギー源を、化石燃料(原油・天然ガス・石炭)に依存しています。ところが、今のペースで化石燃料を使い続けたら、数百年以内に、資源が枯渇する可能性があります。そのために、代替エネルギーの開発が必要となっています。

 主要な代替エネルギー源として、以下3つがあります。

【1】太陽由来のエネルギーを活用
【2】地球内部にあるエネルギーを活用
【3】核エネルギーを活用

 【1】【2】【3】のどれ1つとっても、人間がとても使いきれない莫大なエネルギー量があります。それを人間が使いやすい電気にうまく変えれば良いわけです。ただし、コスト・利便性・安全性すべてを満たし、化石燃料にとって代わることのできる方法が、現時点で見つかっていません。結果的に、化石燃料への依存が続いています。

「エネルギー循環社会」を実現するために越えなければならないハードル

 克服しなければならないハードルは、以下の通りです。

【1】太陽由来のエネルギーを活用:地球上に広く薄く拡散しているため、それを集めて効率良く発電する方法を見つけるのが簡単ではない。
【2】地球内部にあるエネルギーを活用:地下深くに熱源が存在するため、そこまで水を送り込んで水蒸気に変えて発電タービンを回すのは簡単ではない。
【3】核エネルギーを活用:安全性が担保できない。使用済み核燃料の最終処分方法が決められない。

 以下、それぞれ簡単に現状を説明します。

【1】太陽由来のエネルギーを活用

 太陽光・風力・水力・潮力などのいわゆる自然エネルギーの活用が進められています。これらはすべて、元をただすとほとんど太陽由来のエネルギーです。

 太陽から地球まで、毎日、人間が使いきれない莫大なエネルギーが届いています。そのエネルギーはほとんど地球にとどまらず、宇宙に放出されます。このエネルギーのほんの一部だけでもうまく捉えて人類が利用できるようにすれば、今あるエネルギー問題はすべて解決します。

 ところが、太陽から来るエネルギーは、地球上に広く薄く拡散しているため、それを集めて効率良く発電する方法を見つけるのが簡単ではありません。太陽光発電や太陽熱発電は、太陽エネルギーを直接とらえる方法ですが、それだけではとても人類が使うエネルギーに足りません。

 そこで、太陽エネルギーによって生まれる風力・水力・潮力などを使って、大量の電力を得ることも必要になっています。水力を除けば、自然エネルギーを使った発電はこれまで高コストのものが多く、補助金無しには普及が進みませんでした。ところが、近年、技術革新によって急速にコストが低下しています。太陽光を使ったメガソーラーの一部は、補助金無しでも、競争力のある低コスト発電となってきています。

【2】地球内部にあるエネルギーを活用

 地球内部にも、人類が使いきれない莫大なエネルギーがあります。地球内部へ30キロメートルも掘り進むと、高温のマントルに突き当たります。そこから内側は非常に高温です。地球全体を見渡すと、温度が低いのは私たちが生活している地表(地殻)だけということがわかります。そのエネルギーをうまく活用することも必要です。

 地球内部のエネルギーで発電することにチャレンジしているのが、高温岩体発電です。地球上どこでも、平均すると地下10キロメートルまで掘れば、300度Cくらいの高温帯に達します。そこへ水を送り込んで水蒸気に変え、その蒸気でタービンを回せば発電できます。ただし、そこまで深く掘り進んで、水を送り込むには大変なコストがかかります。現時点では、技術的にもコスト面でも、商業利用が可能な発電方法となっていません。

 地球内部のエネルギー活用で、すでに商業利用が可能な低コスト発電が、いわゆる「地熱発電」です。火山地帯などで、地下水が熱せられて水蒸気になり、地下2~3キロメートルの深さに閉じ込められている場所を、地熱資源と言います。そこから水蒸気を噴き出させ、その力を使って発電するのが、地熱発電です。良質の地熱資源が見つかれば、低コストの基盤電源として利用可能です。ただし、そのような地熱資源は、世界に遍在しています。日本・インドネシア・米国が、三大地熱資源国と言われています。良質な地熱資源は遍在しており、それだけ使っていても、人類が使うエネルギーは賄えません。

 将来的には、地球内部を20~30キロメートル掘り進む、高温岩体発電を主流にしていく必要があります。

【3】核エネルギーを活用

 ウランから核エネルギーを取り出して発電するのが、原子力発電です。使用済み核燃料からプルトニウムを取り出して行う「プルトニウム発電」まで安全に行うことができれば、莫大なエネルギー量を確保できます。

 ただし、核エネルギーの利用には、さまざまな危険が伴います。最終的に残る「核燃料廃棄物」の保管にも、莫大なコストがかかります。安全性と経済性の両面から、人類が永続的に使っていくエネルギーとするのは、困難と考えられます。

「エネルギー循環社会」を実現するまでに、ハードルはたくさんありますが、それでも私は、未来のエネルギー問題について、楽観的です。化石燃料が枯渇する前に、人類は太陽エネルギーや地球内部のエネルギーを積極的に活用する術を身に付けると、考えているからです。

 近年、代替エネルギーの開発が滞っているのは、安価な化石燃料が大量に存在する現状が変わらないからです。米国でシェールガス・オイルの生産が急拡大し、原油・ガス価格が急落した影響が大きいと言えます。

 1970年代には、「あと30年で地球上の石油資源は枯渇する」と言われたこともあります。ただし、それは誤りでした。その後、採掘可能な石油・ガスの埋蔵量は大幅に増加しました。採掘技術の進歩により、従来採掘が不可能と思われていた深海やシェール層の原油・ガスまで採掘できるようになったことが影響しています。

 日本の近海にも、メタンハイドレートと言われるエネルギー資源が大量に眠っていることがわかっています。メタンハイドレートはメタンが氷状になったもので、燃える氷ともいわれます。採掘コストが高いので商業利用は進んでいませんが、将来、技術革新が進めば、利用可能になる可能性もあります。

 このように、化石燃料の可採年数は、年々延びる一方で、なかなか化石燃料の限界が見えません。数百年は、化石燃料への依存が続く可能性があると思います。ただ、その先を見据えて、自然エネルギーの活用技術もどんどん進歩していくと予想しています。