ビットコイン価格上昇、ルビコン川を渡った米“ペイパル”の株価は上昇傾向を維持。

 以下の図のとおり、ビットコイン価格は先週(10月16日~23日)、13%以上、上昇しました。

 インターネットを経由した決済サービスを手掛ける米国のPayPal(ペイパル:PYPL  NASDAQ)が、3億4,000万人以上の同社の顧客に、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を購入・保管・販売できる機能を提供すると公表したことがきっかけとみられます。

図:ビットコイン価格とペイパルホールディングスの株価の推移 単位:ドル

出所:ブルームバーグより筆者作成

 この件について専門家はさまざまな反応をしていますが、肯定的に受け止めるものが複数あります。“ビットコインがより普遍的な通貨になる可能性がある”、“暗号資産に関わる今年最大のニュースだ”、“銀行の間で、暗号資産を取り扱う競争が始まるだろう”、そして中には“ルビコン川を渡った”などという反応もありました。

 ペイパルという世界規模のプラットフォームでビットコインの購入や保管、それを使った商品の購入ができるようになれば、ビットコインの認知がさらに広がり、確かに“普遍的な(大勢に浸透する)通貨”になる期待が持てそうです。足元のビットコイン市場は、この点が好感されているとみられます。

 また、さまざまな反応のひとつ、“ルビコン川を渡った”は、何を意味しているのでしょうか。ルビコン川とは、イタリア北部を流れ、アドリア海にそそぐ川で、古代ローマ時代は、イタリアと北部のガリアとの国境だったと言われています。

 当時、軍隊を連れてこの川を渡って南下してはいけない(イタリア側に入ってはいけない)、という決まりがあったと言われていますが、軍人であるユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)は、ローマを改革するという思いを果たすべく、大罪を承知の上で、軍を率いて、川を渡ったとされています。

 この行為が、“重大な決断をする”、“後にはもう戻れない”、などを意味する、“ルビコン川を渡る”という言葉の語源と言われています。

 値動きが他の通貨に比べて大きい傾向がある、他の通貨に比べて使用している人が少ないなど、まだまだ普遍的とは言い難いビットコインを、あのペイパルがれっきとした通貨として扱うという“重大な決断をした”、また、ペイパル自体が世界規模の会社であり数億人の顧客を抱えていることを考えれば、一度始めたサービスをそう簡単には終了できない(“後に引けない”)、などの事情を鑑みれば、まさに同社は今回、“ルビコン川を渡った”のだと思います。

 この“ルビコン川を渡る”は、金相場の長期的な価格動向を考える上でも、重要なキーワードであると、筆者は考えています。

1900年以降、人口増加が続く中、人類は2回ルビコン川を渡った。

 人類は、1900年以降、少なくとも2回、“ルビコン川”を渡ったと筆者は考えています。当時の人々が、その行為がルビコン川を渡ることを意味することや、川を渡ることでその後何が起きるのかを承知していたかどうかは分かりませんが、“後には戻れない”重大な決断をしたと、考えられます。

 それは、“先進国の債務の膨張”と“インターネット人口の急増”から、伺えます。以下のとおり、米国の債務証券の残高と世界のインターネット人口は、強い勢いを伴い、一貫して増加しています。

図:世界の人口、米国の債務証券残高、世界のインターネット人口の推移(2020年を100として指数化)

出所:各種資料より筆者作成

 米国の債務証券残高は1980年ごろから、インターネット人口は2000年ごろから、ともに堰を切ったかのように一気に膨張・急増し始めました。この流れを止める術を人類は知らないのではないか? と不安をいだくのは筆者だけではないはずです。

 このような流れは、ある意味、人類の“ルビコン川の渡河”によって起きたと言えるでしょう。すでに今、“後には戻れない”様相を呈していることを考えれば、なおさらです。次より、人類の“ルビコン川の渡河”によってはじまった、米国の債務証券残高の膨張と、インターネット人口の急増が与える社会への影響を考えます。

債務の増加は社会のゆがみを大きくし、ネット人口の増加は社会の分断を深めている。

 ここでいう債務証券とは、発行主に償還義務がある有価証券のことです。具体的には国債や地方債、CP(コマーシャル・ペーパー)などです。米国の債務証券の膨張は、平たく言えば、“世界のリーダーの借金の膨張”です。

 金融工学が発達したことで、資金調達の仕組みが多様化しました。多様化した調達手段を駆使し、企業や個人は資金を調達し、経済活動を活発化させました。特に1990年代に、このような流れが世界経済の発展に大きく貢献したことは紛れもない事実とみられます。

 しかし、この資金調達手段の多様化は、低所得者への貸付を膨張させ、大規模な金融危機を発生させました(2008年のリーマンショック)。リーマンショック後の経済の立て直しには一役買ったものの、経済回復後も米国や複数の先進国の債務は、返すきっかけをうしなったかのように、膨張し続けています。そこに、新型コロナがひどく追い打ちをかけ、膨張に拍車がかかっています。

 金融工学の発達を機になされた人類の“ルビコン川の渡河”は、ある意味、社会のゆがみを大きくしたと言えます。そして足元、資金調達がなくてはならない状況が続いている以上、“後戻りできず、今後も借金の膨張は続く可能性があります。

 インターネット人口の急増は、2000年ごろから始まりました。デバイス(端末)が進化し、インフラ敷設が進み、今では世界の半分強の人が、インターネットができる何らかのデバイスを持っていると言われています。

 インターネットは、誰でもいつでも、どこでも、物理的に顔を合わせることなく、多数を相手に、情報の発信と受信を可能にします。場合によっては匿名でも、このようなことが可能です。このようなことができる人の数が、急増しているわけです。

 また、インターネットのユーザーの中には再生回数、PV(閲覧数)を増やすことで金銭的な欲求を満たすだけでなく、承認欲を満たす利用者もいます。このため、物理的に顔を合わせた者同士では起き得ない、感情をむき出しにした強い批判や否定をし合うことがあります。このような批判・否定の同調が起きた場合、世界的な負のブームが起こることがあります(2016年 英国のEU離脱をめぐる国民投票および米大統領選挙)。

 デバイスとインフラの発展を機になされた“ルビコン川の渡河”は、ある意味、社会の分断を深化させたと言えます。そして、人類が技術革新は正義と強く思い込んで止まない以上、“後戻りできず”、今後も分断は深まる可能性があります。

2つの不可逆的膨張・急増は、長期的な強い不安のもととなり、金市場をサポートする。

 人類が望んだ金融工学の発展は、社会をゆがめる一因となり、人類が望んだデバイスやインフラの発展は、社会の分断を深める一因となった、と筆者は考えています。そしてこれらはどちらも後戻りが困難とみられることから、“ルビコン川の渡河”、“負のテーマの不可逆的な膨張・急増”と言えると思います。

 負のテーマの不可逆的な膨張・急増は、各種市場に長期間にわたり強い不安を与えます。これにより、変動要因を考える上で重要な5つのテーマの1つである“有事のムード”が強まり、金相場は長期的にサポートされやすい状態が続くと、筆者は考えています。

 前回書いた、米大統領選挙や新型コロナ起因の不安要素が強まり、かつ本レポートで述べた、人類が渡った2つの“ルビコン川”が意識されれば、年内あるいは年明けの遅くない段階で、金相場は2,000ドルを回復すると、今のところ、考えています。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)