IMFが2020年の世界経済成長率を上方改定

 先週13日に発表されたIMF(国際通貨基金)の経済見通しは、2020年の世界経済の成長率を上方改定しました。国別で見ても日米欧は軒並み上方修正となっています(下表)。

 2020年の世界全体の成長率を▲4.4%と予測し、6月時点から0.8%上方修正しました。3カ月で1%近く上方修正した背景は、主要国で合計12兆ドル(約1,270兆円)の巨額財政を出動させたことにあります。このため7-9月期から回復軌道に戻っていると予測し、さらに2021年の世界経済は新型コロナウイルスのワクチンの普及が進むと見込み、5.2%のプラス成長を予測しています。ただ、多くの新興国の見通しが悪化しているため、6月時点と比べて0.2%の下方修正となっています。

IMF 世界経済見通し(成長率)

  2020年見通し 2021年見通し
  2020年
6月時点
今回:2020年
10月時点
2020年
6月時点
今回:2020年
10月時点
世界 ▲5.2 ▲4.4  (+0.8) 5.4 5.2  (▲0.2)
米国 ▲8.0 ▲4.3  (+3.7) 4.5 3.1  (▲1.4)
ユーロ圏 ▲10.2 ▲8.3  (+1.9) 6.0 5.2  (▲0.8)
日本 ▲5.8 ▲5.3  (+0.5) 2.4 2.3  (▲0.1)
中国 1.0  1.9  (+0.9) 8.2 8.2 (0.0)
注:( )内は2020年6月時点からの修正幅
単位:%

 IMFの見通しでは、2020年の成長率は巨額の財政出動によってマイナス幅が縮小しましたが、2008年のリーマン・ショック後の2009年(▲0.1%)と比べると、マイナス成長を大きく上回っています。

 それだけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大によって巨額の経済損失が重くのしかかり、今後数年間は成長率の鈍化が続くとみているようです。 

 IMFによると、2020~2021年の経済損失は11兆ドル(約1,160兆円)と試算。日本のGDP(国内総生産)の約500兆円の2.4年分となります。さらに、景気減速による失業や破綻、債務の拡大によって2020~2025年の6年間で経済損失は最大28兆ドル(約3,000兆円)に達する可能性があると試算しています。3,000兆円だと日本のGDPの6年分となります。

 要するにIMFの見通しは、今年はマイナス成長となるが、来年は財政出動とワクチン普及の効果によってプラス成長になり、コロナ前の2019年を上回る成長になるという予測です。ただし、成長を引っ張るのは中国であり、日米欧などの先進国は2019年比では、まだ2%低い成長という予測のようです。さらに、景気減速による失業や破綻、国・企業・個人の債務の拡大による経済損失によって、その後の成長は鈍くなるというシナリオを描いています。

 FRB(米連邦準備制度理事会)は2023年までゼロ金利の方針ですが、IMFの見通しはそれ以降も鈍い成長が続くとの見通しであるため、ゼロ金利政策はさらに長引くかもしれません。

米大統領選の投票日以降の先行きに不透明感

 今回の改定で、日米欧の中では米国の改定幅が最も大きな修正幅となっています。つまり、6月時点では▲8.0%の予測でしたが、今回の予測では▲4.3%と3.7%上方修正となっています。しかし、これは11月3日の大統領選挙が無難に終わるということが、もちろん前提になっていると思われます。

 もし、バイデン辛勝で法廷闘争にもつれ込んだ場合、12月14日の選挙人投票、場合によっては1月20日の大統領就任日まで混乱が続くことも予想されます。そしてその間、米国の分断がより深まり、デモや暴動など社会情勢が混乱している可能性も考えられます。その場合、株式市場にとってはマイナス要因であり、経済の足かせとなることが予想され、IMFの見通し通りにはいかない可能性が出てきます。同じような事態はバイデン氏圧勝でも起こるかもしれません。

 ハッサク(筆者)は、これまで9回の米大統領選挙を為替市場で経験していますが、今回ほど投票日以降の先行きに不透明感を抱く選挙は初めてです。

 IMFは、世界経済は2020年のマイナス幅が縮小し、2021年はプラス成長と予測していますが、米国の社会混乱が長引き、また、ワクチンの普及も遅れるとなると、世界経済にも影響を与え、プラス成長の伸びが鈍くなることが予想されます。やはり、現時点では手放しで喜べる予測ではありません。

22日の大統領選最終討論会に注目

 今週22日に、大統領候補の最終討論会が行われます。これまでトランプ米大統領を支持していた高齢者がコロナ対策を軽視するトランプ離れを起こしているとの見方があります。特にフロリダをはじめ激戦州では高齢化が進んでいるため、バイデン氏はトランプ大統領のコロナ対策軽視の姿勢を突っ込むことが予想されます。一方で、トランプ大統領にとっては、バイデン氏の息子のウクライナ疑惑で新しい証拠が浮上してきており、この最終討論会でどこまで突っ込めるかがポイントになりそうです。

 討論会後、バイデン優位とマーケットが判断し、株高、ドル安の動きが再現されるのか、あるいはトランプ優位となった場合、マーケットはどのような反応を示すのか注目です。株高、ドル安の巻き戻しが起こるのか、あるいはトランプ再選を歓迎し、それを材料に株高となるのかどうか注目です。ただ、ドル/円はまだしばらくは動きづらい相場が続きそうです。