不確かな世界でも最も理にかなう投資哲学はトレンドフォローだ
下のチャートは、筆者がかれこれ30年近く使っているトレンドフォロー(順張り)の売買シグナルだ。これは、常に売りか買いのどちらかのポジションを持つ途転(ドテン)売買のトレーディングシステムである。1991年に筆者が作ったもので、当時はまだWindowsではなく、MS-DOSの時代だった。
豪ドル/ドル(日足)途転売買シグナル
このシステムをそのまま楽天MT4に移植したのが、次のチャートである。
豪ドル/ドル(日足)途転売買シグナル(楽天MT4バージョン)
上記のトレンドフォローの売買モデルは、例えば今年の豪ドル/ドル相場ではうまくワークした。もちろん、うまくいかなかった通貨ペアもある。
トレンドフォローは投資の王道といえる投資戦略だ。ただし、トレードで負けが込んでくると、ほとんどの投資家は自由裁量の投資家に変身してしまう。昨日のラジオNIKKEI『先取りマーケットレビュー』でも述べたが、トレンドフォロー売買というのは忍耐がないと継続することが非常に難しいのである。
なぜか? それは以下の米著名運用者のマイケル・ラリーの発言にあるように、人間性に反するような難しいトレンドフォロー(高値を買ってさらに高値を売る・安値を売ってさらに安値で買い戻す)を行わなければならないからである。
「トレンドフォローはオプションの買いに似ている。ストップロスで損失は限定されていて、トレンドが続けば大きな利益が得られる。だからこのトレーディング手法は損切をし、利を伸ばすことだ。もちろん、何度もトレンドが進展しないで終わると、限られた損失も積み重なって大きな損失になる場合もある。私は言いたい。人間性に反するような難しいトレンドフォロー(高値を買ってさらに高値を売る・安値を売ってさらに安値で買い戻す)を行うことで、トレーディングの利益は得られるのだと。ここで規律が登場する。心理面での準備や何か月ものシステムの検証が必要になる。そして、トレーダーは人間の本性に反するトレードを実際に行う自信を身につける」(マイケル・ラリー グラハムキャピタルマネージメント社長)
それでもトレンドフォローは投資の王道である。トレンドフォローというトレーディング戦略で成功するにはシステムの中身が重要であることは言うまでもないが、実際にはそれを継続できるかどうか、その意志が重要であろう。
「私たちは必ずしも特定の時期にうまく乗れるわけではない。だが注意深く検討すれば、不確かな世界でも最も理にかなう投資哲学はトレンドフォローだ。トレンドフォローは高値で買ったり安値で空売りする。19年間、私たちは一貫して高値で買い、安値で空売りした。もしトレンドが市場の根本的な性質でなければ、私たちのような取引手法ではたちまち廃業に追い込まれていただろう。しかし、トレンドはこの世の不可欠で根本的な現実だ」(ジョン・W・ヘンリー)
外国為替相場は何年もボラティリティーが抑えられているが……
昨日のブルームバーグの報道で、興味深い記事があった。『08年勝ち組クオンツ、コロナで復活-債券強気相場終了の救世主は為替』という記事で、米著名投資家ロイ・ニーダーホッファーの話である。ここで、ロイ・ニーダーホッファーは次の大きなトレンドが発生する市場は、為替市場であると述べている。
「27年続いている同ファンドは一方向の強気相場に長く苦しんできたが、先物市場全体の激しい値動きに乗じる体系的なプログラムを活用し、新型コロナがもたらした大混乱で稼いでいる。市場の異常な動きに着目、短期モメンタム投資とミーンリバージョン(平均回帰)戦略を採用しているのがこのファンドだ。株安が進むたびに中央銀行は介入しバランスシートの規模を拡大せざるを得ず、今後インフレを引き起こす可能性があると予想されるだろう」と話した上で、 長期債には全般的に、以前にはなかった下振れリスクがあると指摘した。ニーダーホッファー氏は、トレンドフォローのクオンツとなる可能性のある新たな市場の一角を見いだしている。外国為替相場だ。何年もボラティリティーが抑えられているが、金融当局による前例のない規模の債券市場介入の副作用として全てが変わろうとしていると分析、大きな通貨トレンドがCTAの救世主になるだろうと期待している」(10月7日 ブルームバーグ 『08年勝ち組クオンツ、コロナで復活-債券強気相場終了の救世主は為替』)
ドルインデックス2008~2020年
ここ数年、鳴りを潜めている為替市場が、次に大きく動くとしたら、それはドル安方向だろう。FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げについて「考えることすら考えていない」のであれば、ドル安になる公算が大きい。トランプが再選されれば、ドルを切り下げる可能性が高まる。米国はドルの価値を半分に下げれば、借金も半分になり、借金を他国のポートフォリオに移管できる。
米大統領が決まるまでは不確実性の高い乱高下相場が続く
今、ウォール街の株の運用者たちからは、「どっちが大統領になっても株は買いだ! 大統領が決まれば、人気取りに好都合なコロナ禍を利用した財政出動の法案が提出されるだろう。また、FRBも議会もどんどん金融緩和をやるだろう。われわれはまだ不況の最中におり、パンデミックが続く限り、株は買いだ」という強気の声が聞かれるという。
ただし、「大統領がいつ決まるか?」が問題で、それまでは不確実性の高い乱高下相場が続くというのが筆者の見立てである。
米国では大統領選挙の直前に、リベラル派のアイコンであるRBGことルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事が亡くなった。民主党はマルクス主義をかたる過激派を総動員し、中国共産党やG・ソロスらの資金援助によって行っていたBlack Lives Matter運動が裏目に出た。これでは選挙に勝てないとみた民主党は、郵便投票運動と訴訟作戦に戦術を切り替えてきた。
そうしたなか、ルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事の死去で、それらが吹き飛んでしまうほどの事態となっている。最高裁判事は憲法で終身という任期が与えられている。ある意味で大統領以上に米国の将来を決める重要なポジションである。
最高裁判事は9人で保守派5人、リベラル派4人とされているが、事実上、保守派は5人でなく4人だ。(保守派ジョン・ロバーツ長官がリベラルに転向)共和党としては11月3日の選挙前にキンズバーグ氏の後任の保守派を送りこみたい。大統領選挙後に予想される訴訟合戦への対策である。
そして、仮に大統領選挙と同時に行われる議会選挙で、上院を民主党に奪われれば、トランプが大統領選挙で再選しても、レームダック状態になってしまうのである。これを防ぐには、最高裁判事を保守派で固めて、民主党の政策を違憲にするしかない。
いずれにせよ、誹謗中傷、妨害、ののしりあいに終始した米大統領選の1回目のテレビ討論会のように、「南北問題2.0」と呼ばれる米国社会の分断は今後も続くだろう。トランプとバイデンのどちらが勝とうが、選挙後の米国は分断と混迷の時代に向かうことになる。分断された「南北戦争2.0」の米国民をどうまとめていくのか? 米国のこれまでの国民をまとめる常とう手段は「戦争」である。米国の大統領はトランプの言うように、「最高裁」が決めることになるかもしれない。
しかし、バイデンと民主党が上院でも勝利した場合は気を付けるべきだろう。金融・エネルギー株は規制強化に直面する可能性があり、他のセクターと比較してパフォーマンスが低下する可能性がある。ウォール街は、「GAFAはつぶせない」となめているが、民主党には空気を読まない人も多い。
米司法省が独占禁止法(反トラスト法)違反で、米インターネット検索最大手のGoogleを提訴する見通しだと、米主要メディアが28日までに報じている。
「米司法省はGoogleが検索サービスで優越的な地位を利用し、市場競争を阻害していると判断。提訴すれば1990年代後半の米Microsoftに対する訴訟以来、巨大企業の独禁法違反を問う大型法廷闘争となる。司法省は23日、Facebookなどの会員制交流サイト(SNS)に広く認められた免責範囲を制限する現行法改正に向けた素案を公表したばかり。GoogleやFacebookなどGAFAと呼ばれる米巨大IT企業への風当たりが一段と強まっている。」(9月30日 産経新聞)
アルファベット(週足)
フェイスブック(週足)
テック企業が上がらない米国株市場に、筆者は興味がない。アップル・マイクロソフト・アマゾン・グーグル・フェイスブックさえあれば、米国株の運用は成立する。これら、少数の銘柄がS&P500やナスダック指数を高値に押し上げているのだから。
欧州では米国より一足先に個人情報に対する規制、英国のデジタル課税などの動きが進んでいる。米国では独占禁止法の規制でビッグ5(アップル・アマゾン・グーグル・フェイスブック・マイクロソフト)の成長神話に陰りが出てきた。おまけに巨大市場中国は、テック企業に対してずっと鎖国状態だ。
今後、貿易戦争が米中から他国に飛び火すると、多国籍IT企業の法人税問題にまで発展する可能性がある。今、株の運用者はそれをとても心配している。また、トランプ米大統領もひそかにテック企業に対する課税強化や反トラスト法(日本の独占禁止法に相当)違反での提訴を検討していると噂されている。
アマゾン(週足)
テスラ(週足)
アルファベット、フェイスブック、アマゾン、テスラの週足のチャートを見ていただきたい。アルファベット、フェイスブック、アマゾンはADXも標準偏差もピークアウトしている。ここからの米国株相場は方向感のないボラタイルな乱高下相場となるだろう。そして、テスラ株は株式市場のバブルの体温計である。米国株がしばらく乱高下なら、通貨もリスクオンとリスクオフの繰り返し、つまり、トレンドは出にくいということだ。
10月7日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
10月7日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、武田則孝さん(楽天証券FXディーリング部)をお招きして、「トレンドフォローは投資の王道といえる投資戦略だ。ただし、トレードで負けが込んでくると、ほとんどの投資家は自由裁量の投資家に変身してしまう」というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。
トレンドフォロー売買は忍耐!?
ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロード出来るので、投資の参考にしていただきたい。
10月7日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー
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