新型コロナ抗体カクテルが、大統領選挙前に承認される可能性あり

 前回の本コラムで「新型コロナワクチンは大統領選挙に間に合わないかも」という見方を紹介しました。いまでもその見解に変更はありません。

 その一方で、新型コロナ抗体カクテルは、ひょっとすると11月3日の投票日の前に、FDA(米国食品医薬品局)からEUA(緊急使用承認)が下りる可能性が出てきました。

有望な抗体カクテルは?

イーライリリーの抗体カクテルの治験進捗

 具体的にはイーライリリー(LLY)が開発している新型コロナ抗体カクテル(LY-Cov555、LY-Cov016)が第2相臨床試験で、軽症から中程度の新型コロナ患者の体内のウイルスの数を減らし病状を緩和させることが確認されました。

 そこでは患者に与えた抗体カクテルが11日目でほぼウイルスを駆逐することに成功しました。

 このデータをもとにイーライリリーはFDAに対し緊急使用承認のリクエストを出しました。イーライリリーは向こう1年間に百万ドースの抗体カクテルを提供できる見込みです。

リジェネロンの抗体カクテルの治験進捗

 一方、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(REGN)もREGN-COV2抗体カクテルが、7日で新型コロナ患者の体内のウイルスをほぼ駆逐することに成功した旨、ニュースリリースを出しています。

 10月2日にトランプ米大統領が新型コロナに感染し、ウォルターリード病院に入院した際、リジェネロンのREGN-COV2抗体カクテルを「人道的使用」と呼ばれる特別扱いで投与され、5日の夜には退院しホワイトハウスに戻ったことで、この抗体カクテルの威力に米国民が注目しました。

 リジェネロンの抗体カクテルは第1・2・3相臨床試験の最中であり、こちらも早い段階でFDAから承認が下りる可能性があります。ただ、リジェネロンは向こう1年で30万ドースしか抗体カクテルを生産できない見込みです。

ウィル・バイオテクノロジーのモノクローナル抗体の治験進捗

 3つ目の新薬候補としてウィル・バイオテクノロジー(VIR)が開発しているモノクローナル抗体にも注目が集まっています。同社は英国のグラクソ・スミスクライン(GSK)と組んで、第3相臨床試験を開始したばかりです。臨床結果は2020年末までにデータがそろう見込みです。

抗体とワクチンはどう違う?

 さて、ここで今一度「抗体とワクチンはどう違う?」という点をハッキリさせておきたいと思います。

 抗体とは人体に脅威が侵入してきた場合、それを跳ね返そうとする自然なカラダの反応の中で作られる、特定の血液タンパク質を指します。

 一つの細胞をベースにしてそのクローンを作成する試みがモノクローナル抗体です。

 モノクローナル抗体は既に新型コロナにかかった患者に対し治療薬として投与することもできますし、新型コロナにかかる前の健康な人に予防的に投与することもできます。

 問題は、抗体は製造が難しく、コストも高い点にあります。

 一方、ワクチンは健康な人に対してある伝染病への免疫をつけるために予防的に投与されます。国民の多くに行き渡る必要があるのでワクチンは大量生産かつローコストであることが必要となります。

 このように抗体とワクチンでは数量と価格の面で全然違うのです。

 またFDAからの承認という観点からはワクチンの方がハードルは高いです。

 現在、新型コロナワクチン開発レースで先頭を走っている企業はバイオエヌテック(BNTX)です。同社はファイザー(PFE)と組んで第3相臨床試験中です。

もし抗体が大統領選挙前に承認されたら

 もし抗体が大統領選挙前に承認されたら、それはトランプ大統領にとって有利な展開になると思われます。

 新型コロナに対する国民の恐れが、いくぶんでも緩和されるということになれば、それは経済に活を入れる効果も期待されます。その流れから航空、ホテル、クルーズなど、旅行に関連する銘柄が人気化する可能性もあると思います。