混迷の10月がスタート

 7月はドル/円108円台の重さを確認し、8月は107円台の重さを確認し、9月も106円台の重さを確認しました。10月も上値が切り下がり、105円台の重さを確認するのではないかと思いたいところですが、あと1カ月を切った米大統領選を控え、大統領候補や副大統領候補の討論会に加え、米国最高裁判事指名、追加経済対策の協議など政治要因が多いため、波乱相場になる可能性が高まりそうです。

 10月のシナリオをこのように考えていたら、「10月のサプライズ」はトランプ米大統領の本人に降りかかる形で突然発生しました。

 10月2日、トランプ大統領とメラニア夫人の新型コロナウイルス感染の「陽性」が判明。この陽性報道でクロス円が売られ、ドル/円は、一時105円を割りました。その後、バイデン候補、ペンス副大統領、ぺロシ下院議長など要人の「陰性」情報が伝わったことや、トランプ大統領の症状が軽症と報じられたことから、それ以上の円高は進まず、105円台前半で先週を終えました。

 週末はトランプ大統領の入院報道や、重症ではないかとの報道が交錯していましたが、5日に退院すると伝わると、週明けの米株は上昇し、クロス円も反発し、ドル/円も上昇しました。

 しかし、トランプ大統領の退院については、3日目では早過ぎる、コロナ感染を軽視し過ぎだとの批判が相次いで報道されています。強い米国を体現するかのように、自分もコロナに打ち勝ったと誇示するため、早々とホワイトハウスに戻ってきたのですが、本当にこのまま職務をこなし、選挙運動も続け、15日の討論会でバイデン氏と対決することができるのでしょうか。5日の米株は上昇しましたが、疑心暗鬼の中で上昇しているように見えます。

本当にトランプ大統領はコロナに勝ったのか?

 3月にコロナに感染したジョンソン英首相の回復期間を参考に見ると、3月27日の陽性判明から9日目の4月5日に入院後、10日目の4月6日に集中治療室で酸素を吸引し、退院したのは16日目の4月12日でした。

 つまり、入院してから7日目に退院したことになります。トランプ大統領の場合は英首相よりも高齢ということもあり、10月2日の感染判明後の朝、すぐに入院し、3日目の10月5日に退院しました。

 4月の英首相は退院まで7日かかりましたが、その後の治療薬の改善によって、10月の入院では3日で退院できたのではないか、あるいは陽性判明後すぐに入院し、軽症であったため短期間で退院できたのではないかと見方はさまざまあります。しかし、軽症であっても、ジョンソン首相よりも18歳年上であるため、完全回復には時間がかかるかもしれません。

 ジョンソン首相は、結局、職務復帰まで約1カ月かかっています。そのことを考えると、トランプ大統領が入院前と同じような職務をすぐに遂行するのは無理がありそうです。医師団は、5日のトランプ大統領の退院後、記者会見で「完全には危機から脱していないかもしれない。24時間管理する必要がある」と述べ、「飛行機などの移動では、まだ様子を見る必要がある」と説明しています。

 退院後の体力回復を考慮すると、無理をして15日の第2回目討論会に臨むよりも、22日の第3回目に照準を合わせるか、大統領選挙投票日の11月3日の数日前に完全回復を力強く宣言し、コロナ対策に尽力する声明を発した方が選挙戦で有利に働くかもしれません。

 もし、症状がぶり返せば、投票日当日に入院しているという最悪のケースも考えられます。

 参考までに、トランプ大統領の職務が不可能となった場合、大統領継承法の規定によって大統領職務を引き継ぐ順位は、第2位がペンス米副大統領、第3位が民主党のぺロシ米下院議長となっています。もし、ペンス副大統領も陽性となって入院し、ぺロシ議長が継承となれば、政局は大混乱必至となります。シナリオを想定する上でも、この大統領職務継承順位は留意しておく必要があります。ちなみに、第4位はポンペオ米国務長官、第5位はムニューシン米財務長官となっています。

ホワイトハウス、ワシントンの感染拡大リスク

 トランプ大統領の症状だけでなく、さらに懸念材料があります。ホワイトハウスの関係者やワシントンの政治家の感染者が増えていることです。

 ほぼすべての共和党上院議員は毎週3回ランチミーティングを行っていましたが、その参加者ですでに陽性が判明していることから共和党上院議員の感染者拡大が懸念されています。

 また、9月26日にホワイトハウス内のローズガーデンで催された最高裁判事を指名する式典参加者で多くの陽性者が判明しました。上院議員以外にも多くの政府関係者へ感染拡大する懸念がくすぶっていましたが、6日現在で15人のホワイトハウス関係者の感染が確認されています。

 このようにホワイトハウス関係者の感染拡大リスク、ワシントンの政治家感染拡大リスクは沈静化しておらず、むしろ今後の懸念材料として、くすぶっています。

 バイデン氏にも同じようなリスクは残ります。トランプ大統領感染後の世論調査ではバイデン氏のリードが広がっている状況ですが、バイデン氏も陽性となれば、大統領選そのものの不透明感が強まり、マーケットは大混乱となります。バイデン氏はこれまで検査を2回受けて、2回とも陰性とのことですが、現時点で陰性だから安心というわけではありません。リスクシナリオとしてはさまざまなシナリオを想定しておく必要があります。そして、ホワイトハウス、ワシントンの感染拡大リスクがくすぶっている限り、ドル/円の上値は限定的と見ておいた方がよさそうです。

 今週7日には副大統領候補の討論会が開催されます(日本時間8日午前10時)。トランプ大統領の感染によって、トランプ氏が勝っても、バイデン氏が勝っても、もしもの場合の、継承第2順位の副大統領の資質について、より注目度が高まってきました。もし、民主党副大統領候補のハリス氏が劣勢になれば、バイデン氏リードに影響してくる可能性が出てくるからです。

 景気回復のピッチが鈍化してきている中で、政局の不透明感はマーケットにとってマイナス要因です。このような状況の中で追加経済対策の早期合意が光明の一筋でしたが、6日、トランプ大統領はツイッターで、「大統領選後まで追加経済対策の協議を中止するように交渉担当者に伝えた」と発信すると、200ドル超上げていたNYダウ平均株価は急落し、一時400ドルを超える下げとなりました。この株急落を受けてクロス円も急落し、ドル/円も若干下がりました。パウエル議長が講演で、追加の財政出動を求めた矢先であったため、失望感も大きかったようです。トランプ大統領のツイートは、民主党を揺さぶる戦術だけであればいいのですが、今後の民主党の動きに注目です。