米国の2020年の大統領を決める選挙戦は大混乱
日本時間2020年10月2日(金)14時前、一つのツイッターのアカウントから衝撃的なツイートが世界に発信されました。自身の新型コロナ感染を明らかにした、トランプ米大統領のツイートです。ツイート直後、リツイートの件数は、数秒おきに、数千から数万件、瞬く間に増加していきました。
報道機関各社は、このツイートから数分とかからずに “速報”、“号外”などでこの内容を伝えました。この内容を受け、アジア市場、その時動いていた欧米の主要株価指数やコモディティの先物市場は、一時的に“リスクオフ”のムードが強まりました。
次期大統領を決定するための選挙戦は、これまで、混乱の一途をたどっていました。新型コロナウイルスの感染拡大により、春から夏場前にかけて、各州で行われた予備選挙などの関連するスケジュールが相次いで変更されました。11月3日(火)が選挙当日ですが、一部報道では郵送での投票が検討され、この日に結果が出ない可能性があると、しています。
また、先週行われた1回目のテレビ討論は、“カオス(混沌とした状況)”とやゆされました。強い言葉を相手の発言中にかぶせる、相手の目を見ない、など、政策や重要なテーマについて自身の方針を明らかにしながら討論するテレビ討論としては、まさにカオス(というよりも“泥仕合”)、だったと言えると思います。
選挙関連のさまざまなイベントのスケジュールが不安定化し、そして討論会が体を成さず、残り2回の討論会も不安視されていた中、一人の候補者の新型コロナ感染が発覚し、スケジュールにも、今後の討論会にも、さらに強い不安が生じました。残り約1カ月間となった選挙戦は、どのような展開となり、選挙はどのような結末を迎えるのでしょうか。
討論会のみならず、選挙戦そのものが“カオス”と言える、史上まれにみる大統領選挙の選挙戦にあって、金も原油も、強い特色を出しながら、価格が推移しています。次より、これらの価格推移を確認し、今後の展開を考えます。
図:10月1日(木)と2日(金)の騰落率
金相場は先週末、“混乱拡大→有事のムードの高まり”で一時反発
金相場は、トランプ大統領の感染告白のツイートの直後、上昇しました。先ほどの図「図:10月1日(木)と2日(金)の騰落率」で示した日次ベースの騰落率では、金はマイナスだったことがわかりますが、同ツイートの直後は一時的に、上昇しました。
図:NY金先物価格(中心限月)の推移 (15分足) 単位:ドル/トロイオンス
※時刻は日本時間
強い不安心理の拡大、いわゆる“有事のムード”が拡大したこと、同時に発生した景気減速懸念を織り込んだ株安による“代替資産”としての物色が進んだことが要因とみられます。
金市場をとりまくテーマは、筆者は少なくとも5つあると考えています。“有事のムード”、“代替資産”、“代替通貨”、“中国インドの宝飾需要”そして、“中央銀行”です。この時間帯は、“有事のムード”と“代替資産”の側面から、短期的に買われたと考えられます。
図:10月2日(金)に発生した上昇時の金市場の環境
金が上昇した時間帯、ドルは上昇していたため、“代替通貨”の側面では、下落圧力がかかっていたと言えます。また、主要な株価指数の下落が見られたことから、景気減速懸念が生じ、新興国経済がダメージを受ける可能性が生じ、新興国の宝飾需要が減少する懸念が発生したことも、少なからず、下落圧力をかけたとみられます。
複数のテーマが上昇・下落、両方の要因となり、それらが相殺され、その結果、上昇要因が勝り、価格が上昇した、と言えると思います。次は、ツイート直後の原油の値動きについてみていきます。
原油相場は先週末、株式市場の不安定化・石油の消費減少懸念が高まったことで、大幅安。
金相場は、トランプ大統領の感染告白ツイートの直後、下落要因がありながらも、上昇要因がそれを相殺し、短期的に上昇しました。原油相場はどうでしょうか。
図:WTI原油先物価格(中心限月)の推移 (15分足) 単位:ドル/バレル
※時刻は日本時間
上図のとおり、ツイート直後、原油相場は下落しました。その後、37ドルを割り込んだあたりで、下げ止まりました。ツイート直後に原油価格が下落した要因は、少なくとも2つ、あると筆者は考えています。
1つ目は、強い不安心理が拡大したことで起きた株価下落により、景気回復が遠のく懸念が急速に強まり、石油の消費回復が見込みにくくなることが想起された点です。法人税増税を標榜するバイデン氏が次期大統領に就任するシナリオが意識された点も、株価下落の一因になったと考えられます。
2つ目は、パリ協定復帰を含んだクリーンエネルギー政策を推進するバイデン氏が次期大統領に就任し、今後、米国の石油消費量が減少する、との見方が強まったとみられる点です。原油相場は、このような複数の下落要因が作用したため、大きく下落したと考えられます。
一方で、ツイートによって生じた上昇要因も存在すると、筆者は考えています。2017年1月の就任後、数年間、原油高とそれを誘発しようと画策してきたOPECをけん制したトランプ大統領が、次期大統領にならなかった場合、それらをけん制する力が減退する可能性がある点です。
原油も、金と同様、上昇・下落、複数の材料が交錯し、価格が推移したと、考えられます。
金も原油も、同時に複数の材料が作用し、相殺され、価格が決まっている
金と原油はともに、当該ツイートをきっかけに、その後の選挙戦や選挙後の展開への思惑を含む、上昇・下落、複数の材料を織り込み、価格が推移したと言えます。まとめれば、以下のようになります。
図:当該ツイート直後の金と原油の市況環境
金も原油も、上昇・下落、いずれも存在し、上昇・下落それぞれにおいても、複数の材料が存在するわけです。材料を1点だけでみて、値動きを説明できないことが、改めてわかります。
“トランプ大統領感染”“金価格上昇”というキーワードをみると、不安(有事)の拡大で金が買われている、と考えたくなりますが、それは金相場の一部であり、すべてではありません。他にも、株安起因の“代替資産”の需要拡大という上昇要因があります。一方で、ドル高起因の “代替通貨”の需要減少、新興国の宝飾需要減少懸念などの下落要因が存在しています。
原油も同様です。“トランプ大統領感染”“原油価格下落”というキーワードをみると、株価が不安定化していることから、需要減少懸念で原油が売られている、と考えたくなりますが、それは原油相場の一部であり、すべてではありません。他にも、クリーンエネルギー推進による需要減少懸念という下落要因があります。一方で、OPECへのけん制力低下という上昇要因が存在しています。
同時に複数の材料が作用し、相殺され、価格が一つの方向に進む、という考え方は非常に重要ですので、今回のトランプ大統領感染を機に、習慣付けるとよいと思います。
大統領選挙が混乱しても、誰が大統領になっても、コロナ対応としての金融緩和は不変。
金も原油も、ツイート直後の相場の環境と値動きが示したとおり、同時に複数の材料が作用しており、相殺され、価格が決まっていると、考えられます。仮に、上昇要因しかない場合は、価格は一方的に上昇していると考えられます。(逆もしかりです)
上昇・下落両方の材料が絶えず存在している、という点で言えば、今後の価格動向は、それらのバランスによって、上昇したり下落したり、さまざまな状況になり得ると言えます。このことを前提にした、今後を考える上でのポイントは、“どの材料が、インパクトが最も強いか”だと思います。
長期的には、実は、すでに非常にインパクトが強い材料は、既に存在していると、筆者は考えています。それは、“米国の大規模な金融緩和”です。短期的には、あまり目立つことはないかもしれませんが、長期的には、金にも原油にも、上昇圧力を与えていると、みられます。その仕組みは、以下のとおりです。
下図に従えば、大規模な金融緩和策は、“株高・金高・原油高”の要因です。
図:金融緩和と金と原油の関係
新型コロナ感染拡大によって負ったダメージを回復させるべく、米国の中央銀行にあたるFRB(米連邦準備制度理事会)は、大規模な金融緩和を行っています。すでに彼らは、金融緩和策の一つであり、社会に資金を供給する策である資産の買い入れを、当面継続すること、そして、同じく金融緩和策の一つで、個人や企業の資金調達を行いやすくする低金利策を、数年先まで実施することを明言しています。
基本的に、FRBなどの中央銀行は、その国の政府と、独立的な立場をとるとされているため、その国のトップが誰であったとしても、中央銀行は“物価や雇用の安定化を図る”という本来の役割をまっとうすることになっています。
その意味では、今回の米大統領選挙の選挙戦がどのような状況だったとしても、次期大統領が誰だったとしても、コロナが経済に引き続きダメージを与えたり、経済が回復したとしてもコロナ前(ビフォーコロナ)の状況に戻らない状況が続いたりした場合、中央銀行は本来の役割にのっとり、彼らの判断で、粛々と金融緩和を続けるとみられます。
今後、金においては実態を伴った株高が下落要因になり得、原油においては、米国を含む主要な先進国でクリーンエネルギーへの転換の模索が加速している点が、需要減少という側面から、下落要因になり得ます。
金も原油も、個別に、下落要因となり得る材料を抱えているわけですが、このような下落要因を、相殺し得るのが、米国の大規模な金融緩和なのだと、考えます。
リーマンショック後、米国の大規模な金融緩和が、数年間、“株高・金高・原油高”を演出しました。現在、その時を大きく超える規模の金融緩和が行われていること、コロナが向こう短期間終息しない可能性が高いことを考えれば、比較的強い下落要因にさらされたとしても、下落の規模は一定程度に収まり(下落幅は比較的浅く、期間も比較的短い)、金融緩和によってむしろ、底堅く、推移すると、現段階では考えています。
現段階では、年内、金相場の2,000ドル、原油相場の43ドル(9月の急落前の水準)回復は、起き得ると、考えています。
[参考]貴金属関連の具体的な投資商品
純金積立
国内ETF/ETN
1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN
海外ETF
GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF
投資信託
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド
外国株
ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ
国内商品先物
金・金ミニ・金スポット・白金・白金ミニ・白金スポット・銀・パラジウム
海外商品先物
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