過去3カ月の推移と今回の予想値
8月雇用統計のレビュー
前回8月の雇用統計では、NFP(非農業部門雇用者数)は137.1万人増え、失業率は8.4%に低下しました。雇用者増加数は7月に及ばなかったものの100万人を優に超え、失業率も4カ月連続で低下する順調さを維持しました。
新型コロナ封じ込めが成果を上げ経済活動が継続的に再開していることの反映であり、小売業や接客業、レジャー部門、ヘルスケアや教育産業など、幅広い部門において雇用の拡大がみられました。
9月雇用統計の予想
BLS(米労働省労働統計局)が10月2日に発表する最新の雇用統計では、失業率が8.2%まで一段と低下する予想。ただし、非農業部門雇用者数は85万人増加にとどまる見込み。
平均労働賃金は前月比で0.2%増、前年比では4.8%増。ただしこの数カ月間は特に低賃金の産業における雇用変動が激しく、傾向分析が困難な状況です。
雇用が増えている理由とは?
前回8月の非農業部門雇用者数は、7月よりは増加数は減ったものの、予想を上回る良い結果となりました。しかし、これには理由があったのです。
それは公的部門による臨時採用。政府関連の採用者数が前年同月比 で34.4万人も増え、雇用増全体のうち4分の1を占めました。特に今回はアメリカの国勢調査のための臨時採用が23.8万人もありました。8月の雇用増は「季節要因」の貢献が大きかったわけです。
政府部門を除外すると、増加数は137.1万人引く34.4万人で100万人をやや超える程度。政府関連の臨時採用は景気とは無関係であること、そして民間部門の雇用の事前予想は120万人だったことを考えると、経済再開による雇用創出という意味では、米労働市場はむしろ勢いを失っていると見るべきでしょう。
9月、10月は雇用者が急増する?
アメリカの大統領選挙まであと1カ月。今年は新型コロナの影響で郵便投票による申し込みが前回4年前に比べて16倍以上に増えているそうです。各州の政府は、投票集計作業がボランティアだけでは間に合いそうもなく、臨時採用を増やしているところです。
またこの時期は感謝祭やクリスマスなどの休暇シーズンを控えて郵便物が増える時期とも重なり、米郵政公社も配達アルバイトを増員することになりそうです。
つまり、国勢調査の次は大統領選挙という特殊要因のおかげで、9月、10月の雇用者数が一時的に大きく増える可能性があります。
とはいえ、あくまでも臨時採用は臨時採用。「年末のパーティー」が終わってしまえば、好調に見えた雇用増加のペースも軋みを上げて停止するおそれがあります。新規失業保険申請件数のデータを見る限りでは、そのような事態は避けられそうにないようです。
最悪はこれから
雇用市場をとりまく環境は以前よりも悪化しています。米国の経済対策の多くが期限を迎えているからです。個人向けの直接給付は1回限りの措置で給付は既に終了。また、失業保険追加給付についても7月末で期限切れとなっています。トランプ大統領は8月に追加給付を決めましたが、プロセスに時間がかかっていてまだ再開されていません。
一方で、米国のコロナ感染者は累計700万人を突破しました。7月と比べると落ち着きを取り戻していますが、収束にはほど遠い状況。これからの季節、コロナ感染第2波、第3波が発生すれば経済再開はさらに遅れることになります。
今後数カ月の雇用統計、たとえ表向きの数字が好調でも、あまり安心しすぎず慎重に向き合う必要があるでしょう。
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