菅政権は順風満帆の船出に

 菅新首相は、2012年12月の第2次安倍政権発足と同時に官房長官に就任し、「政権の参謀役」となりました。7年8カ月の長期に及び、官房長官としては過去最長です。これほど長い期間、首相の側近を務めた人物はおらず、その意味では準備期間十分の首相就任と言えます。

「安倍路線の継承」を明確に打ち出しており、急な主要政策の変更がされるものでもありません。過去の長期政権後の政権と比べても、その(政治的な)順風さが際立っています。

 これまで、長期政権(佐藤栄作政権、中曽根康弘政権、小泉純一郎政権)後の政権において起こった混乱を振り返ってみます。

 佐藤栄作政権(1964年11月~1972年7月/在任2,798日)を受け継いだのは田中角栄政権(1972年7月~1974年12月/在任886日)でした。

 佐藤首相が後継に福田赳夫氏を推す動きを見せたことに対抗し、田中角栄氏は81人の議員を引き連れ、佐藤派内派閥(田中派)を結成し自民党総裁選に臨みました。「角福戦争」といわれた熾烈(しれつ)な政権争いを繰り広げ、これを是としない有権者から批判の声も上がりました。

 中曽根康弘政権(1982年11月~1987年11月/在任1,806日)は、政権末期の1987年に、否定していた間接税(売上税=消費税)を導入しようとしたことから支持率が急落。後継を当時「ニューリーダー」と呼ばれていた竹下登、安倍晋太郎、宮澤喜一の3氏から、中曽根氏の裁定で竹下氏を後継指名する格好となりました。一連の流れが自民党内に禍根を残した側面もあります。

 対して、小泉純一郎政権(2001年4月~2006年9月/在任1,980日)の後継は、事実上小泉首相が安倍晋三氏に禅譲する形となりました。この時、大きな政争は起きていません。

 しかし第一次安倍政権(在任366日)が安倍氏の体調不良により短期政権となったあと、福田康夫政権(在任365日)、麻生太郎政権(在任358日)と短命政権が続いたことによる政治不安・不信の高まり、さらにリーマン・ショック(2008年9月)に端を発する経済不安も逆風となり、自民党は2009年8月30日に投開票された第45回衆議院議員総選挙で大敗、下野しています。

 現状、菅政権においてこのような混乱は見られません。

企業業績回復を見通す動きが強まりそう

 菅政権の最優先事項は「コロナ対策」です。コロナウイルス感染は2~4月に急拡大し、一時落ち着きを見せた後、7月にいわゆる「第2波」が到来しました。

 現在では感染状況は落ち着きを見せており、ワクチンが開発される前であっても無制限に感染が拡大するものではないとの認識が、一般に生じていると感じます。生活上の留意事項や制限はあるものの、経済活動の再開に向けた動きはさらに強まりそうです。

 株式市場において、日経平均株価はコロナ・ショック前の水準を回復しています。グロース株に偏重した物色に取り残される格好となった銘柄の反発も目立っています。

 その多くは「バリュー株(割安株)」と言われる銘柄ですが、これらが大きく上昇するのは、やはり「景気回復局面」です。バリュー株の多くは景気敏感株とされるセクターに属する銘柄です。

 建設、化学、鉄鋼、非鉄、機械、電機、輸送用機器、商社、金融、不動産…実は、景気敏感株は「ほぼすべてのセクター」と表現しても過言ではありません。明確に景気敏感セクターに属しないのは食品や医薬品のディフェンシブセクターくらいでしょう。

「コロナ感染抑制下」「内政安定」、もちろんその先に「企業業績回復」を見通すことができます。バリュー株買いはさらに強まる公算もあります。ここでは10万円で投資できる景気敏感/バリュー株のなかから5銘柄を紹介しておきます。

割安(バリュー)・景気敏感10万円株

 株価データは2020年9月16日終値ベース。

タムラ製作所(6768・東証1部)

 トランス、ACアダプタ、電源などの電子部品と電子化学材料が主力です。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

日本証券金融(8511・東証1部)

 証券金融専門会社です。制度信用取引の決済に必要な資金・株券の貸付の最大手です。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

住友化学(4005・東証1部)

 総合化学大手。石油化学・農薬・電子材料・医薬品などを幅広く展開しています。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

東京製鐵(5423・東証1部)

 鉄鋼電炉メーカー独立系最大手企業です。建材用を主体に自動車用鋼板にも進出しています。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

日本国土開発(1887・東証1部)

 土木分野では、重機土木工事に強みを持ちます。建築分野では超高層建築に力を入れています。

・1年日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

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