FOMC期待で金利、ドル低下

 14日の自民党総裁選では、菅義偉新総裁選出のご祝儀相場で日本株は確定前から上昇しましたが、事前に予想されていたことからドル/円の動きは限定的でした。それよりもNY市場では、米国の追加景気対策が合意に至らなかったことや、今週15~16日のFOMC(米連邦公開市場委員会)への期待から金利が低下し、1ドル=105円台半ばに低下。それ以降、106円を挟んで動いていたドル/円は少し頭が切り下がり、105円台で推移しています。

 8月の終わりから9月にかけて、これまで上昇してきた株や、為替、原油が上昇一服、あるいは調整局面に入ろうとしています。ロックダウンの解除による経済活動再開、新型コロナワクチン開発への期待から上昇してきましたが、財政支援による一時金や失業手当の給付期限到来による消費の息切れ感や感染再拡大への懸念から、相場環境が変わってきたことを感知している動きかもしれません。

 例えば、米国の株式市場では9月に入ってからナスダック総合指数が揺らいでいます。ナスダックは、この半年、調整局面があっても25日移動平均線で反発していましたが、今回は攻防の末、25日移動平均線を下回って取引されています。ただ、大きくは崩れておらず、今週のFOMCでの追加緩和期待もあって、持ちこたえているようです。

石油需要減は物価下押し圧力に

 また、原油は、新型コロナウイルスの感染拡大が世界全体ではいまだ増加傾向にあるため、世界の需要減少を察知し、8月の終わりからWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は急落し、40ドルを割ってきました。

 OPEC(石油輸出国機構)は14日、世界の2020年の石油需要の見通しを下方修正しました。前月の予想より0.4%少ない日量9,023万バレル(前年比9%減)の予測です。2021年の需要も2020年より増えるものの前月予想から下方修正しています。また、民間企業の英BPも、14日、世界の石油需要が既にピークを過ぎた可能性があるとの見通しを示しました。新型コロナウイルスの影響による世界経済の悪化や行動様式の変化で、感染拡大前の水準に戻らないシナリオも想定しているようです。

 石油需要減少による価格低下は、物価下押し圧力となり、中央銀行の金融政策に影響を及ぼすことが予想されます。そのため、今回の急落は一時的な動きなのかどうか、今後、原油価格動向を注目していく必要があります。

FOMCの注目点

 今週のFOMCでは、追加緩和やフォワードガイダンスの修正が期待されていますが、8月の講演でパウエル議長はFRB(米連邦準備制度理事会)の長期目標改定の声明を発表し、「平均インフレ目標2%の導入」を表明したばかりであるため、フォワードガイダンスの修正があっても、この声明の焼き直しかもしれません。注目したいのは四半期に1度発表される金利、景気見通しです。今後、インフレが2%を超えても許容すると説明しているため、マーケットが期待するゼロ金利政策の長期化や物価見通しが、どのように反映されるのかマーケットは注目しています。

 米ケーブルテレビCNBCは、15日、エコノミスト37人を対象とした予測調査で、FRBの政策金利の引き上げ時期は平均で2023年2月との調査結果を発表しました。また、回答者の48%が、物価上昇率が2%を超えてもその後6カ月~1年は低金利政策が維持されるとの予測結果となっています。

ECBはユーロ高に警戒

 FOMCを注視しているのはマーケットの投資家だけではありません。

 9月10日のECB(欧州中央銀行)理事会では政策変更はありませんでしたが、注目されていたユーロ高については言及がありました。ラガルドECB総裁は記者会見で「ユーロの上昇は物価に悪影響を及ぼすため、注意深く見守る」と牽(けん)制しました。しかし、「理事会でまさに幅広く議論されたが、為替相場は政策目標ではないし、水準にはコメントしない」と直球の牽制球は控えました。それでも、ユーロ圏の物価は8月にマイナスに転じたことから、ラガルド総裁は記者会見でユーロ高への警戒を繰り返し表明しました。このためユーロが1.20を超えてくるとマーケットの警戒感は高まることが予想されます。

 ユーロ高の原因の一つは米国の金融緩和の長期化傾向であるため、ECBは米国の金融政策をにらみながらの難しい政策運営になりそうです。FRBが追加緩和をすれば、ECBも追随せざるを得なくなり、ユーロの下押し圧力になります。

米国の追加経済対策の行方

 米国の追加経済対策は与野党で依然平行線であり、この様子だと11月の大統領選後まで決まらない可能性があります。また、FOMCは10月には開催されないため、もし、16日のFOMCで追加緩和策がなければ、11月の米大統領選挙まで財政支援も金融支援もない状態が続くことが予想されます。これは、株式・金融市場にとっては厳しい環境になるかもしれません。

 FOMCの結果がマーケットの期待ほどハト派でなければ(もう既にハト派だとは思うのですが…)、失望感から株は下落し、ドル高に反応するかもしれません。しかし、それは一時的な反応で、9~10月の経済指標で消費の息切れ感、製造の足踏みの兆しが出始めれば、本格的な株の調整が起こることも予想されます。ドルにとっては株安によるドル安の可能性もあり、9~10月の経済指標を注視する必要があります。