最近のIPO市場振り返り
今年はコロナ・ショック後、多くの企業が新規上場を遂げています。中には多くの投資家から注目を浴びるものもありました。上場後のパフォーマンスが良いものもあり、IPO(新規上場)銘柄から次の成長株を見つけ出そうという動きが強まっているように見えます。
パフォーマンスが良かったものを振り返ると、ブルーム(VRM)があげられます。6月8日に上場し、初値は22.00ドルでしたが、一時70ドルを超える場面がありました。ブルームは、中古車や新車の販売会社ですがオンラインで事業を展開しており、コロナ禍の中で注目されやすい銘柄だったようです。
一方、中国の電気自動車関連、リー・オート(LI)や、シャオペン(XPEV)の足元の株価は落ち込んでいます。こうした銘柄は、テスラの株価上昇を受けて注目されていましたので、足元の相場調整の影響を受けています。
燃料電池はニコラが本命?
一方、足元で株価が再び急騰しているのが電気トラック関連のニコラ(NKLA)です。ニコラは、燃料電池で走るトラックの開発を目指すスタートアップで、2020年6月に上場しています。トラック自体の製造というよりも、どちらかというと、それに搭載する、コストパフォーマンスのよい燃料電池の開発に注力しています。
株価は、テスラのブームに乗り急上昇した後、大きく落ち込みましたが、足元では回復しはじめています。その理由は、自動車大手メーカーのゼネラル・モーターズ(GM)が、ニコラの株式20億ドル相当を取得し、ニコラが開発中の燃料電池とピックアップトラックの製造を支援することが公表されたことです。
燃料電池は、電気自動車と比べて走行距離や加速スピードに強みがあると言われ、製造コストが下がれば需要が一層広がる可能性を秘めています。その製造コストの低減に着手しているのが、ニコラです。
ニコラは、水素の生産コストを現在の4分の1にするという目標をかかげているようですが、GMの支援を受けることによって実現の可能性が高まるでしょう。また、この流れはGM自体の株価への期待にもつながる可能性があります。各社と協力しテスラに対抗できる体制を築けるのかどうか、今後のGMの取り組みに一層の注目が集まりそうです。
サブスクリプションサービスのエヌシーノに注目!
7月13日に上場したエヌシーノ(NCNO)にも注目しています。同社は、口座開設、融資組成、預金口座の管理といった銀行業務のプラットフォームを、クラウドを通じてサブスクリプションモデルで提供しています。
こうしたサブスクリプションモデルの企業をみる上でポイントになるのは、
- トップラインの成長性
- 顧客の保持力
- 事業の効率性
ですが、エヌシーノはこれらをクリアできているように見えます。
1.トップラインの成長性
まず収益ですが、サブスクリプション事業を中心に大きく成長しており、2020年度の同事業の収益は1億ドルを超え、増収率は60.2%に達しました。会社全体の収益は約1億3,800万ドル、51%の増収となっています。
売上高の比率では、サブスクリプション事業がすでに全体の74.7%まで拡大しています。潜在市場規模について、会社側は100億ドルと想定しており、今後も大きな伸び代のある領域で事業を展開しています。
エヌシーノの収益推移(単位:千ドル)
サブスクリプション契約をすると、銀行側はクラウドベースで口座開設、融資組成、預金口座の管理など、銀行の業務が行えるようになります。伝統的な銀行では、こうした業務が昔ながらの古いシステムや、紙を大量に使ったアナログな方法で管理されています。
現在、銀行はその非効率さを改革しようとしており、エヌシーノはその需要をつかんでいます。同社の顧客にはすでに、バンク・オブ・アメリカ、バークレイズ、 サンタンデール銀行、 トロント・ドミニオン銀行など、大手の銀行が名を連ねています。
2.顧客の保持力
同社は、最初は基本的な業務サービスを銀行側と契約し、その後、データ分析など利用できるサービスの領域を拡大させることで、顧客あたりの売上を拡大させる戦略を取っています。
2020年のサブスクリプションのリテンションレート(前年度の1月31日時点でサービスを購入した顧客からの本年度の総サブスクリプション収入を、前年度の総サブスクリプション収入に対する割合で表したもの)は147%と高水準で、サブスクリプションのサービスを順調にアップグレードさせているように見えます。
3.事業の効率性
同社はまだ赤字ですが、売上に対する比率でみると、コストの改善傾向が確認できます。粗利益率は2018年の47.6%から、2020年の53.6%に上昇。営業費率は79.9%から74.0%に改善しています。
サブスクリプション事業の粗利益率は7割程度ありますので、同事業が拡大するほどミックスが改善して、今後も、粗利益率は上昇していくとみています。営業費率の高さが気になるところですが、市場自体が拡大している局面とみられますので、売上の成長率が重要な時期と考えています。
エヌシーノの粗利益、営業費、営業損益の推移(単位:千ドル)
顧客の銀行側の環境は思わしくなく、コロナ・ショックによる倒産や金利低下などの問題を抱えています。しかし、業務の効率化を進める流れは変わらないと考えられます。競合やスタートアップがデジタル化を進めて、サービスのスピードを改善しているとなれば、生き残るために、導入せざるをえない面があります。
また、コロナ・ショックの影響で、信頼度の高い大手の銀行に回帰する流れが出てきているようです。このような面では、経済や社会の不安定さは、伝統的な銀行にとってプラスの材料ともいえます。
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